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トランプ減税恒久化が揺るがす脱炭素社会──迫る2024大統領選と環境政策の岐路

2024年アメリカ大統領選挙が迫る中、気候変動対策や経済政策を巡る議論が急速に熱を帯びています。そんな中、注目を集めているのが、ドナルド・トランプ前大統領の「減税の恒久化」方針と、それが環境政策、なかでも脱炭素社会の実現に与える影響です。

ニュースサイトYahoo! Japanに掲載された「脱炭素に大打撃 トランプ減税法案」という記事では、2017年に制定されたトランプ政権下の大型減税法案「減税・雇用法(Tax Cuts and Jobs Act, TCJA)」の一部内容が、2025年に失効期限を迎えることに伴い、それを延長・恒久化しようとする動きと、その政策が持つ脱炭素化への影響について取りあげられています。

本稿では、その概要・日本を含む国際社会への影響・そして私たちの生活にもつながる視点で、現在の動きを分かりやすく解説します。

トランプ減税法案(TCJA)とは?

トランプ政権が打ち出した「減税・雇用法令(TCJA)」は2017年12月に成立し、主に法人税の大幅な引き下げ(35%から21%へ)、個人所得税の一時的な引き下げ、相続税控除枠の拡大などを盛り込んだ大規模な税制改革です。この減税は、一部の条項を除き、2025年末までの時限措置として設定されていました。

この法案の根本にある考え方は、「税負担の軽減により企業活動を活性化し、総じて経済成長と雇用創出を促す」という供給側の政策、すなわち「サプライサイド経済学」に基づいています。

トランプ前大統領は、このTCJAの個人向け減税部分などを恒久化する意向を示しており、2024年の大統領選挙の公約の一つとして掲げる可能性が高いと見られています。

なぜ脱炭素に「大打撃」なのか?

では、この減税政策が環境、特に「脱炭素化」にとってなぜ打撃になるのでしょうか?

問題は、減税が行われることで税収が減少する点にあります。アメリカ財務省や非営利の経済政策研究機関によると、TCJAによる歳入減は約1兆5000億ドル(現在の為替で約230兆円)に上るとされています。財政赤字の拡大が問題視される中で、税収の減少は避けて通れません。

財政的な余裕が減ることは、公共投資、特にインフラ整備や気候変動対策といった分野への予算配分を圧迫する可能性があります。バイデン政権が打ち出してきた再生可能エネルギーへの投資支援、電動車普及のための補助金、新しい送電網インフラの構築といった政策への予算が縮小することになれば、アメリカの脱炭素化の取り組み自体が鈍化します。

仮に再びトランプ政権となり、その気候政策が前回政権時と同様であった場合、政権は規制緩和や化石燃料産業の支援に舵を切る可能性もあり、これがさらなる追加の脱炭素化遅延要素となります。

バイデン政権との政策比較

現在のバイデン政権は、気候変動対策を重要政策の柱に掲げており、「インフレ抑制法(IRA)」を通じて再生可能エネルギー企業や電気自動車(EV)産業に対する支援を強化しています。IRAでは、およそ3700億ドル(約57兆円)が気候関連政策に充てられ、アメリカの2030年温室効果ガス排出量を2005年比で40%削減する目標の達成を目指しています。

これに対して、トランプ氏はエネルギー政策の中心を「アメリカのエネルギー自立」に置いており、化石燃料資源の国内開発を重視する立場です。こうした政策の相違点は、減税法案以上にアメリカおよび世界の気候政策に大きな違いをもたらす可能性があります。

経済成長と脱炭素は両立するのか?

しばしば「経済成長」と「環境保護」は相反するものと捉えられることがあります。しかし、最近の潮流は両立の可能性を示唆しています。IEA(国際エネルギー機関)や多くの経済学者は、再生可能エネルギーへの投資やカーボンクレジット制度の導入が、新たな産業や雇用を生み出す「グリーン経済」への移行を可能にすると指摘しています。

むしろ、将来の成長産業として見なされるグリーンエネルギー分野に対する投資を削減することは、中長期的な国益を損なう恐れがあります。特に脱炭素に関連する技術イノベーションの先頭を走ることは、アメリカにとっても戦略的な優位性を生む可能性があります。

日本や世界への影響

アメリカの脱炭素政策は、国際的にも大きな影響を及ぼします。なぜなら、アメリカは世界第2位の温室効果ガス排出国であり、その動向は諸外国の政策に直接影響を与えます。

たとえば、日本の自動車産業はEV化の進展に向けて多大な投資を行っていますが、その市場の一つであるアメリカが化石燃料車を再び優遇するような政策転換を行えば、日本企業の戦略自体にも大きな揺さぶりがかけられることになります。

また、温暖化ガス削減の国際枠組み「パリ協定」などにおけるリーダーシップや国際協調への参加意思も問われるところです。実際、前政権下でアメリカが同協定から一時離脱した際には、世界中から懸念の声が上がりました。

私たちに今、できること

こうした国際的な動きは一見、遠く感じられるかもしれませんが、実は私たちの日常生活や消費行動にも深く関連しています。再生可能エネルギーを選んだり、エネルギー効率の高いものを選んだりすることが「脱炭素化」を支える小さな一歩になります。

また、地球規模での環境課題を正しく認識し、それを踏まえた政策やリーダーを評価する視点を持つことも、今後ますます重要になるでしょう。ひとりひとりの選択が集まり、未来の方向を決定づける力になるのです。

まとめ

「脱炭素に大打撃 トランプ減税法案」というニュースは、単にアメリカ国内の税制問題にとどまらず、われわれが直面する地球規模の環境問題と、選挙や経済政策とが深く結びついていることを改めて印象づけられるものでした。

これからの数年間は、気候変動や再生可能エネルギー、産業構造の転換といった複雑な課題にどう取り組んでいくかが、世界中の国々に問われる時期となるでしょう。一人の消費者として、そして地球に暮らす市民として、私たちに何ができるかを考えるきっかけとして、今回のニュースを受け止めたいところです。