文部科学省が「学習態度を評定枠外に」──この報道に触れて、教育の在り方について改めて考えさせられた方も多いのではないでしょうか。現在、日本の多くの中学校では、学習指導要領に基づいて、生徒の学習に対する意欲や態度も成績(評定)に反映されています。一見すると、「まじめに取り組んだ成果を評価する」という意図にも見えますが、この制度には多くの課題も指摘されてきました。
そんな中、文部科学省が学習態度を成績評価から切り離す方向で検討を始めたというのは、大きな転換点になり得る動きです。本記事では、「学習態度を評定枠外に」という政策の背景とその意図、そして今後の教育現場への影響について、できるだけわかりやすくご紹介します。
■ 学習態度と成績の関係:現在の評価の仕組み
現在の中学校の成績(いわゆる「通知表」)では、各教科について「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点で生徒が評価され、それが総合的な評定(5段階など)に反映されています。中でも、「主体的に学習に取り組む態度」、すなわち学習への姿勢や意欲が評定に与えるウェイトの高さは、教育現場では広く認識されています。
たとえば「提出物を期限までに出す」「授業中に積極的に発言する」「宿題に真剣に取り組む」などが重視され、これらの行動が評価の対象となっています。そのため、学習成果だけでなく、人物的側面や生活態度までもが成績を左右することになります。
■ なぜ見直しの声が高まったのか?
この学習態度の評価が成績に含まれることに対して、生徒や保護者、そして一部の教育関係者からは以前より課題が指摘されていました。
まず、最も大きいのは「評価の主観性」の問題です。学習態度は数値で測れないため、どうしても教員の印象や主観が入りやすく、教師の裁量によって差が生まれる場合があります。また、性格や特性によっては、「積極的に発言するのが難しい」「提出物の期日を守るのに時間がかかる」という生徒もおり、そういった部分まで「成績」として評価されてしまうことへの疑問の声が高まっていました。
さらに、こうした評価が入試や進路選択に影響を与える可能性があることで、生徒にとって大きなプレッシャーとなっていることも無視できません。特に内申点が重視される地方の高校入試では、学習態度の評価が入試結果に直結することもあり、「自分の実力が正しく反映されていない」と感じる生徒が少なくないのです。
■ 文部科学省の見直し方針とは?
こうした背景を踏まえた上で、文部科学省は「主体的に学習に取り組む態度」の観点を、成績評価である「評定」の対象から外す方向で検討を始めました。この見直しのポイントは、「学習態度を評価しない」のではなく、「評定には含めない」という点にあります。
つまり、生徒の学習態度自体は引き続き観察・記録され、指導やフィードバックには活用されますが、「5段階評価」など最終的な成績とは切り離して扱うことになる、ということです。
文科省は2024年度中にも新たなガイドラインをまとめ、2025年度以降の中学校教育に反映させる予定です。
■ 教育現場はどう変わるのか?
この見直しによって、教育現場にはさまざまな変化が起きることが予想されます。
まず、生徒一人ひとりが本来の学力や理解度に基づいた評価を受けられるようになることで、評定の公平性が高まることが期待されます。意欲や態度ではなく、実際にどれだけの知識を身につけ、それを使って考えることができているかという「学力本位」の評価へとシフトすることで、生徒自身も学びの方向性をつかみやすくなるでしょう。
また、教員にとっても、意欲や態度をどう評価するかという難しさや、保護者・生徒との間での誤解やトラブルを避ける助けになるかもしれません。「まじめに取り組んでいるのに評価が低い」「先生に気に入られていないから成績が上がらない」といった不満が軽減される可能性があります。
一方で、課題もあります。学習態度が評価から外れることで、寡黙な生徒やルールに無頓着な生徒への指導意欲が薄れたり、「提出物を出さなくても成績に響かない」と考える生徒が増えたりする懸念もあるでしょう。
また、学習意欲の育成は教育において極めて重要な要素ですから、それをどのように指導し、支えていくかが今後の大きな課題となります。
■ 「評価の見える化」をどう進めるか
今後の教育現場では、数値としての成績評価に加えて、「行動面」や「態度面」の成長をどう生徒や保護者に伝えるかが重要になります。これまでは評定という形で一体化していた「学力」と「態度」を、それぞれ別立てで示す必要が出てくるからです。
たとえば、「日々の授業での姿勢や提出物の提出状況」などについて、成績とは別に記載する報告書や個別のフィードバックが増えるかもしれません。通信簿の形式も変わる可能性があります。
このように、「何が評価され、何がされないのか」を明示することは、生徒や保護者との信頼関係を築く上でも非常に重要です。「成績が下がった理由がわからない」「頑張ったのに評価されない」といった疑問が減ることで、教育の透明性が高まり、より納得感のある学びが実現しやすくなるでしょう。
■ 最後に:社会全体で見守る教育改革を
学習態度の扱いを見直すという今回の文部科学省の動きは、日本の教育にとって大きな一歩となる可能性を秘めています。ただし、これは単に「甘くなる」あるいは「厳しくなる」という話ではなく、生徒一人ひとりの個性や学びのかたちに注目した改革です。
「学力だけが全てではない」「人間としてどう成長するかも大切」──こうした考え方に変わりはありません。今後求められるのは、学習成果とそれ以外の側面を、より丁寧に、そして公正に評価する仕組みの構築です。
家庭での声かけ、学校でのサポート、保護者と教員の連携、そして社会全体での教育への理解と支援が、これまで以上に求められるようになるでしょう。
私たち一人ひとりが「どのような評価が子どもたちの未来につながるのか」を考えることこそ、今回の改革の成功につながるのではないでしょうか。