長年にわたる誤徴収が発覚──下水道使用料、20年以上にわたる誤りの実態と今後の対応について
2024年6月、ある自治体が20年以上にわたり下水道使用料を誤って徴収していたことが明らかになり、全国の注目を集めています。市民の日常生活に深く関わる「下水道使用料」という公共サービスの料金設定において、これほど長期にわたる誤徴収が気づかれなかったことは、多くの住民にとって大きな驚きであり、信頼の揺らぎに繋がりかねない問題です。
今回は、この誤徴収問題を通して、発覚の経緯や原因、今後の自治体の対応、そして私たち市民がこうした公共料金にどう向き合えばいいのかを考えていきたいと思います。
■発覚のきっかけとその背景
問題が明らかになったのは、静岡県沼津市。市の発表によると、1999年度から2022年度のあいだ、「し尿処理施設」に関連する経費を下水道使用料の原価に含め、住民から過剰に下水道料金を徴収していたことが判明しました。
この誤徴収に気づいたのは、2023年度の決算作業を行っていた下水道管理部門の担当者で、過去の原価計算を確認するなかで不適切な処理が見つかったのがきっかけでした。当初はごく短期間の問題かと思われましたが、精査を重ねるごとにその影響期間が20年以上に及ぶことが明確に。
本来、下水道使用料は使用水量をベースに、整備や維持管理に必要な費用を加味して市民から徴収する仕組みです。しかし、誤ってし尿処理費という別のジャンルの経費が加えられていたため、市民は本来よりも高額の料金を支払っていたことになります。
■過剰徴収された金額とは?
今のところ、判明しているだけでも過剰徴収額は約19億8,000万円に上ります。これは下水道使用料の総額から見ても非常に大きな割合を占め、市の財政や市民サービスへの波及効果は無視できません。
この問題が浮き彫りにしたのは、行政の会計処理がいかに長期にわたってチェックされず、誤りが是正されずにきたかという課題です。市側は「当時の担当者が誤って原価に加えた可能性が高く、その後引き継ぎが行われたことで次第に原因が分からなくなっていった」と説明しています。
■今後の返金措置と市の対応
市は誤徴収の事実を正式に認め、現在は市民に対する返金方法について検討を進めています。ただし、現実的な返金には大きな課題が伴います。
まず、20年以上にわたる過去の水道使用記録の追跡や、正確な過剰徴収額の個々人への算出作業は容易ではありません。市側は、法的に時効の制限があることや、全額を現金で返還することが財政的に困難であることから、今後の水道料金の減額や他の補填措置などをふくめた対応を検討しているとしています。
現時点で、市は市民に負担と不利益を与えたことを深く反省しており、再発防止策として今後の会計処理に関するチェック体制の強化や、外部監査の導入も視野に入れているとのことです。
■なぜこれほど長期間気づかなかったのか?
今回の件は、単なる人的ミスというよりも、組織全体の内部統制の甘さが背景にあると指摘されています。帳簿や会計処理が数十年にわたって十分に精査されなかったこと、監査体制が不十分だったことが重なり、長期間にわたる誤徴収を許してしまったわけです。
また、公共料金に対する市民の関心があまり高くなかったことも、発覚の遅れにつながったといえるかもしれません。下水道使用料は毎月の水道代とセットで請求されることも多いため、詳細な内訳までは気にしていない方が多かったことでしょう。その結果、誤りが隠れたまま維持され続けてしまったわけです。
■市民の信頼を回復するために必要なこと
行政にとって、住民からの信頼は何より大切です。一度損なわれた信頼を回復するには、時間と丁寧な対応が欠かせません。
今回、沼津市は誤りを認めたうえで、既に調査を進めており、今後も市民に対して詳細な説明を実施する予定です。その姿勢は評価できるものの、「なぜもっと早く防げなかったのか」という疑問に真摯に向き合い、丁寧に説明を重ねていくことが求められています。
また、今後同様の問題が起こらないような制度設計、すなわち公共料金の会計処理や使途についての透明性が求められる時代です。市民がアクセスしやすい形で情報を公開すること、定期的に外部監査や住民代表によるチェック機能を持たせることの重要性が再認識されています。
■私たちは何を学ぶべきか
この問題は、私たち一市民にとっても他人事ではありません。公共サービスの対価として支払っている費用が、適切かつ公正に使われているのかという視点を持つことが、よりよい自治の第一歩です。
市からの通知や報告書に目を通すこと、わからない点があれば問い合わせをすることも、私たちができる日常のアクションです。行政だけに任せるのではなく、市民と行政がともに支え合い、サービスの質を高めていく意識が、今後ますます重要になっていくでしょう。
■まとめ
今回の沼津市における下水道使用料の誤徴収問題は、多くの自治体や市民にとって警鐘ともいうべき事例です。20年以上という長期にわたる誤徴収は、会計処理の透明性、外部監査の必要性、そして市民の関心度の重要性を改めて浮き彫りにしました。
このような問題が再発しないよう、制度面と運用面の両方で見直す必要があります。また、市民としても「公共料金は正確に算出されている」と無意識に信じるだけでなく、時には関心を持ってチェックする視点も大切です。
今後の対応において、沼津市が住民に対してどのような説明と措置を講じていくのか。また、他の自治体も同様の見直しを始めるのか。日本全体の公共サービスの透明性に関わる問題として、しばらく注目を集めることになりそうです。