日本の大手回転寿司チェーン「くら寿司」が、中国市場からの一部撤退を発表しました。このニュースは、2024年5月に報道され、多くの関係者や利用者に驚きを与えました。グローバル展開を積極的に進めてきたくら寿司にとって、中国市場は将来的な成長が見込まれる重要な地域の一つであったため、その撤退決定は業界内外に様々な波紋を広げています。
本記事では、くら寿司が中国市場で直面した課題、閉店の背景、そして今後の展望について掘り下げてみたいと思います。
■ くら寿司の中国進出とその背景
くら寿司は、1960年代に創業した日本発の回転寿司チェーンで、安価で高品質な寿司を提供することで多くのファンを獲得してきました。国内にとどまらず、海外展開にも力を入れており、アメリカ、台湾などでも成功を収めてきました。そして2019年、満を持して中国市場に進出。中国・上海を拠点に数店舗を展開し、本格的に事業を開始しました。
中国市場への進出は、13億人以上の人口を抱える巨大経済圏への橋頭堡として注目されており、他の日本外食企業にとっても目指す場所の一つでした。特に日本食のヘルシーさや品質の高さは、中国国内でも一定の人気を誇っていたため、くら寿司の進出は堅実な選択に見えました。
■ なぜ苦戦したのか:理由を考察
しかし、実際のところ、くら寿司の中国事業は思うように伸びませんでした。その結果、今回、2024年5月に同社は中国での一部店舗の閉店と事業の再構築を発表することになります。
では、なぜくら寿司は中国市場で苦戦したのでしょうか?その理由について、主に以下の点が挙げられます。
1. 競争の激化
中国の外食市場は年々成長を遂げる一方で、競争も急激に激しくなっています。特に中価格帯以上のレストランやカフェなどでは、地元系企業や欧米、韓国ブランドなどがしのぎを削っており、日本食レストランも過当競争状態です。中でも寿司に関しては、中国国内でも高級感が求められる傾向があり、安価でカジュアルな回転寿司は現地ユーザーの嗜好とマッチしにくかった可能性があります。
2. 現地ニーズとのミスマッチ
くら寿司は日本国内で成功を収めたフォーマットをそのまま中国に持ち込みました。しかし、中国の食文化や消費者の味覚、食事スタイルは日本とは大きく異なる点も多く、ローカライズの面で課題があったと考えられます。例えば、日本式の”無添加”や”鮮度”へのこだわりを強調しても、現地の消費者にはその価値が必ずしも伝わらなかった可能性があります。
3. コストと運営の課題
食材の確保や物流の問題、品質管理などの運営面も大きな挑戦でした。特にコロナ禍以降、世界中の飲食企業が直面した供給網の断絶や人材不足問題は、くら寿司の中国事業にも少なからず影響を与えたようです。また、中国では外食サービスに対する評価が敏感で、SNSなどを通じた消費者の声が即座に拡散される特徴があります。こうした中で顧客満足を維持しながら効率よく店舗を運営するのは、簡単ではありませんでした。
4. 景気減速と消費行動の変化
昨今の中国経済は成長の減速傾向が指摘されています。その中で、消費者の購買意欲が縮小しており、外食産業全体にも影響が出ています。加えて、消費者がよりコストパフォーマンスに敏感になっている中で、くら寿司の価格帯がやや高めに映った可能性があります。
■ 閉店という決断、だが「撤退」ではない
今回の報道によれば、くら寿司は中国市場の全店舗を閉じて完全に撤退するわけではなく、一部の不採算店舗を閉鎖することで選択と集中を進める方向性です。つまり、中国市場における可能性はまだ見限っておらず、体制を整え直したうえで再挑戦する可能性もあるということです。
ちなみに、くら寿司はアメリカ市場では比較的好調な動きを見せており、2023年度には北米での売上高が過去最高を記録しています。アメリカ市場では現地の嗜好や文化に柔軟に対応する戦略が功を奏したとも言われており、中国でも同様の柔軟性が求められたのかもしれません。
■ 今後の展望と学び
くら寿司の今回の判断は、単に「失敗」と片付けられるものではありません。むしろ、海外事業の展開において重要なのは、現地市場の動向を見極め、戦略を柔軟に変えていく姿勢であることが改めて示された出来事でした。
グローバル展開というのは、ブランドにとって魅力的であると同時に、非常に難易度の高い挑戦でもあります。特に、食文化という非常に感覚的な領域においては、一つ間違えると現地とのギャップが生じ、事業が軌道に乗らないことも少なくありません。
しかし一方で、今回のような現実的な判断もまた、企業が長く生き残るためには不可欠なステップです。損失を被ることを恐れて不採算事業を続けるよりも、戦略的な撤退によってリソースを最適化し、次の機会に備えることは、むしろ前向きな戦略判断といえるでしょう。
■ おわりに
くら寿司の中国市場での一部閉店報道は、多くの人々にとって「日本の外食ブランドが必ずしも海外で成功するとは限らない」現実を教えてくれるものでした。しかし、同時にそれは「失敗と見なされる経験にも、再起のチャンスが潜んでいる」ことを示しているともいえます。
くら寿司が今後どのように体制を立て直し、再び中国市場やその他の国々に挑戦するのか。同社の動向は、外食業界全体にとっても多くの学びと示唆をもたらすことになるでしょう。
現代のビジネスには常に挑戦と変化が求められます。くら寿司のように適応力を持ち、柔軟に舵を切っていく姿勢が今後の鍵を握るといえるでしょう。今後の展開に注目が集まります。