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農を守る関税、「変わらぬ方針」の意味とは――赤沢発言に見る日本の食料安全保障と通商政策の現実

自由貿易と食料安全保障のはざまで ー 赤沢氏「関税交渉の状況変わらない」との発言から読み解く日本の通商政策の現状

2024年6月、日本の通商政策が再び注目を集めている。そのきっかけとなったのが、自由民主党の赤沢亮正衆議院議員が発した「関税交渉の状況は変わらない」という一言である。この発言は、農林水産分野を中心とした自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)に対する日本の交渉姿勢や将来の方針に対し、多くの関係者や国民に改めて関心を呼び起こした。

本記事では、赤沢氏の発言を手掛かりに、現在日本が直面している関税問題の全体像や、その背後にある貿易と農業政策のバランス、そして食料安全保障という極めて重要なテーマについて考察していく。

背景:「グローバル化」と「国益」の交差点

日本は長年にわたり、対外的な貿易自由化と国内産業の保護という相反する政策課題に取り組んできた。自由貿易を推進することで、輸出競争力の強化や国際的な経済連携の深化が期待される一方で、国内市場、特に農業分野への影響が懸念されている。

こうした状況のもと、日本はTPP(環太平洋パートナーシップ)や日EU・EPAといった大型の通商協定に参加してきた。しかしながら、それらにおいては常に「関税撤廃の例外」として、コメや牛肉、小麦、乳製品、砂糖などの“重要5項目”が設定されてきた。これらは農林水産業を支える基盤であり、“関税の防波堤”として、日本の食と農を守る盾となってきた。

赤沢氏の発言の真意

今回、赤沢亮正議員が「関税交渉の状況は変わらない」と述べた発言の背景には、日本が引き続き重要農産物に対する関税を維持し、これらの保護政策を根幹から揺るがすつもりはない、という政府・党の明確な方針を強調する意図がうかがえる。

赤沢氏は自民党の農林部会に深く関わっており、農業政策に精通している。同氏によると、関税に関しては日本が既に多くの自由貿易協定を締結する中で、ある程度の枠組みが確立されており、追加的な関税削減については現時点で焦点になっていないという。

この発言は、最近一部報道などで浮上した「日本が一部の農産品で更なる関税譲歩を行う可能性がある」といった憶測に対する、強い牽制とも受け取れる。

食料安全保障との関係

昨今の世界情勢を見ると、気候変動、国際的な紛争、疫病の流行などにより、食料供給の不安定化がかつてなく深刻な問題となっている。日本は、食料自給率がカロリーベースで約38%(2023年度)という先進国の中でも低い水準にあり、多くの食材を海外からの輸入に依存している。

こうした中で「関税撤廃」や「貿易自由化」を進めすぎることは、安価な外国産品の流入による国内農業の競争力低下を招き、結果として日本の食料供給体制を脆弱化させるリスクがある。赤沢氏の発言は、単なる通商交渉のテクニカルな話ではなく、こうした食料安全保障への配慮が根底にあると考えるべきである。

国民の理解と支持が不可欠

一方で、多くの国民にとって関税や貿易交渉というのは距離感があるテーマでもある。日々の暮らしの中で、「関税がある/ない」が何を意味するのかは、なかなか実感しづらいのが現実だ。

しかし、私たちが日々口にする食材の多くが、農家の努力と国家の政策によって支えられている。例えば、日本産のコメや野菜、果物が安定して市場に並び、安心して購入できるのは、国内農業が健全に機能しているからに他ならない。

関税はその健全性を維持するための「壁」の役割を果たしており、単に「保護主義」として批判するのではなく、地域の生産者による持続可能な食料生産の機能を維持するためのひとつの手段として理解する姿勢が求められる。

国際協調と国内政策のバランス

もちろん、グローバル経済の中では「日本だけが関税を維持し続ける」ことが簡単でないのも確かである。自由貿易の理念に則れば、関税や非関税障壁の段階的撤廃は大きな流れであり、日本の経済外交も他国と連携しながら進められていくべきであろう。

その点で、現在の政府方針はバランスを取る方向にあると言える。つまり、国際的な通商秩序の中で協調しつつも、自国の農業・畜産業・漁業といった基幹産業、そして国民の食生活や災害時の備えとしての食料備蓄など、多方面の視点から“守るべきもの”を優先する立場だ。

これは短期的には一部の貿易相手国から不満を買う可能性もあるが、長期的に見れば、国民生活と経済安全保障を守るうえで極めて現実的なアプローチといえる。

今後の展望と国民への期待

今後、日本がどのような通商政策を進めていくにせよ、忘れてはならないのは「国民の理解と関心」である。通商交渉は特定の官僚や政治家によって行われるものであっても、そのルールの影響を受けるのは、すべての国民なのだ。

赤沢氏の発言が示すように、現時点で日本は農産物の関税政策に関して、大きな変更を加える予定はない。しかし、国際情勢や経済環境の変化によっては、再び議論が巻き起こる可能性は十分にある。そのときに国民が正しく意思を持ち、自分たちの食や暮らしに合った政策を選べるよう、日頃から情報に触れ、自分の意見を持つための努力が求められている。

まとめ

赤沢亮正議員の「関税交渉の状況は変わらない」という発言は、一見保守的とも受け取れるものだが、その背後には日本の農業と国民の食生活、さらには経済安全保障という国の根幹を守る大義が存在している。これをきっかけに、私たち一人ひとりが「食と農」そして「通商政策」という視点から、日本の未来について考える意識を持つことが求められているのではないだろうか。

グローバルに広がる世界の中で、ローカルな暮らしを支える政策とは何か。その問いに向き合うためにも、こうした政治家の発言や政策動向に関心を持ち続けることが、私たち国民の責任であり、また未来への一歩でもある。