現代社会が抱える新たな健康リスク──「孤独」がもたらす影響とは
私たちが暮らす社会は、つながりや利便性が増す一方で、日々の暮らしの中にひそかに忍び寄る「孤独」という問題が、深刻な影響を及ぼしていることが明らかになってきました。最近、英政府の報告によって、「孤独」が人の健康に与える影響が「1日に15本の喫煙」に匹敵するという調査結果が示され、大きな注目を集めています。
この記事では、孤独がどれほど私たちの身体的・精神的健康に影響を及ぼすのか、さらにはその解決に向けて私たち一人ひとりができることについて、分かりやすく解説していきます。
孤独がもたらす健康への影響
近年、医療や心理学の分野では「孤独」が健康に与える影響が注目されています。英政府が公表した調査では、慢性的な孤独状態が続くと、健康を著しく害する可能性が高まるとされています。その影響力は、「毎日タバコを15本吸うのと同程度」とまで指摘されているのです。
この調査結果に驚く方も多いかもしれませんが、孤独は単なる「感情」ではなく、免疫機能の低下や睡眠障害、うつ病、心臓病など、身体全体に悪影響を及ぼすことが知られています。特に高齢者においては深刻な問題で、他者とのつながりが希薄になることで日々の生活の意欲が低下し、健康状態が悪化するケースも少なくありません。
また、孤独感は脳の神経活動にも影響を及ぼすとされ、自己肯定感の低下やストレスホルモンの増加を招くことで、心身のバランスが崩れる原因となります。さらに最近の研究では、孤独を感じる人はそうでない人と比べて早期死亡リスクが高いという統計もあり、社会全体として解決を急がなければならない課題であることがわかります。
社会が抱える「見えにくい孤独」
孤独は決して一部の人だけに起こるものではありません。近年では、孤独を感じる年齢層が広がりつつあり、若者や働き盛りの世代にもその影響が及んでいるのが現状です。コロナ禍を経て在宅勤務やオンライン授業が普及した中で、人間関係の物理的距離が広がり、つながりの希薄さを感じる人が増えたことも要因の一つとなっています。
また、SNSの普及によって「つながっているはずなのに孤独を感じる」という新たな状況も生まれています。検索一つで大量の情報にアクセスでき、オンラインで誰とでもつながれる時代に、逆説的に「誰にも理解されていない」「本当の自分を知られていない」と感じる孤独は深まっているのです。
こうした見えづらい孤独は、周囲が気づきにくく、放置されがちです。そのため、孤独を感じる本人が「自分だけがそう感じている」と思い込んでしまい、さらに孤立感を深めてしまうという悪循環に陥ることもあります。
国際的な取り組みと日本の課題
英政府はこの孤独の問題にいち早く注目し、2018年には世界で初めて「孤独担当相」を設置しました。この動きには世界中から注目が集まり、他国でも同様の取り組みが検討されはじめました。孤独を個人の問題ではなく社会全体の課題として捉えるという姿勢は、今後の福祉政策や地域社会の在り方に大きな示唆を与えています。
日本でも、少子高齢化や地域のつながりの希薄化が進む中、孤独や孤立の問題が深刻化しています。厚生労働省は、2021年に「孤独・孤立対策担当室」を設置し、自殺予防や生活困窮者支援などを通じて、孤独の軽減を目指しています。しかし、制度面での支援だけではなく、地域や個人がどのようにして人とのつながりを築いていくかが、今後の重要な課題となります。
私たちにできること
では、孤独という目に見えにくい問題に対して、私たち一人ひとりができることとは何でしょうか。
まずは「孤独を感じることは悪いことではない」と認識することが大切です。誰もが孤独を感じる瞬間があり、それ自体を否定する必要はありません。大切なのは、その孤独に気づき、自分自身の感情に向き合うことです。
周囲に対しても、「最近元気がないな」と感じる人に声をかける、小さな気配りの一言をかけるといった行動が、相手の孤独感を和らげるきっかけになります。特別なことをする必要はありません。「今日は天気がいいですね」「最近どうですか？」そんなシンプルな言葉に、救われる人がいるのです。
また、地域のボランティア活動に参加する、趣味のサークルに加わるなど、人とのつながりをつくるための場に積極的に関わることも有効です。すぐに結果が出るわけではありませんが、少しずつでも「つながり」を意識して行動することが、孤独の予防につながっていきます。
デジタルツールの活用も一つの手段です。インターネットを通じて、同じ趣味や興味を持つ人々と出会い、コミュニティを築くことも可能です。ただし、SNS上のつながりが真のコミュニケーションとは限らないため、実際の対話や関係づくりを意識することが大切です。
結びに
孤独は放置すれば健康を脅かすだけでなく、人生の質全体を低下させてしまう大きな問題です。それは「1日15本の喫煙」に匹敵するという報告が示すように、私たちが考える以上に深刻なリスクを抱えています。
しかし、孤独に対する理解が広がり、社会全体で支え合う意識を持つことで、防げる孤独は必ずあるはずです。一人でも多くの人が、自分自身も大切にし、周囲の人々とのつながりを持つこと。その積み重ねが、孤独という“目に見えない危機”を乗り越える第一歩になるのではないでしょうか。
私たち一人ひとりが、「誰かとつながっている」という安心感を持てる社会を目指して、小さな行動から始めてみませんか。孤独を恐れるのではなく、理解し、寄り添い、支え合うこと。それが、これからの社会に必要な優しさかもしれません。
