2024年2月17日、日本の宇宙開発史においてひとつの節目となる打ち上げが行われました。それは、国内の主力ロケット「H2A」シリーズの最終号機となる「H2Aロケット47号機」の打ち上げです。鹿児島県の種子島宇宙センターから、正午過ぎの青空にむけて力強く飛び立ったその姿は、多くの人々の記憶に残る光景となったことでしょう。
このH2A47号機は、日本の独自開発による地球観測衛星「だいち4号(ALOS-4)」を搭載し、高度約700kmの太陽同期軌道への投入に成功。その精密な打ち上げは、日本のロケット技術の高さをあらためて世界に示すものでした。同時に、2001年の初号機から続いてきた“信頼性”の高いH2Aシリーズの歴史に、華々しく幕を閉じた瞬間でもあります。
H2Aロケットの歩み
H2Aロケットは、旧NASDA(宇宙開発事業団)と三菱重工業が開発した次世代の液体燃料式ロケットで、初号機は2001年8月に種子島宇宙センターから打ち上げられました。その目的は、国際競争の激化が進む宇宙開発分野において、安全かつ高性能なロケットで日本独自の打ち上げ技術を確立し、将来の宇宙事業を牽引することでした。
H2Aは、打ち上げ能力、柔軟性、運用コストにおいてバランスの取れたロケットであり、特に「打ち上げ成功率の高さ」が最大の特長です。最終的に47回の打ち上げで、わずか1回のみの失敗という脅威の成功率97.9%を記録しました。これは世界的に見ても極めて高い水準であり、日本の技術者たちがいかに細部まで丁寧に設計・運用してきたかが伺えます。
また、商業衛星や政府関連の衛星、自国開発衛星などを数多く打ち上げ、国内外の宇宙開発を支えてきました。その中には、気象衛星「ひまわり」や、探査機「はやぶさ2」を運ぶ役目を果たしたH-IIA 202型もあり、多くの注目を集めました。
地球観測衛星「だいち4号」のミッション
H2Aの集大成とも言える47号機が搭載していたのは、先進レーダーセンサを備えた「だいち4号(ALOS-4)」です。この衛星は、地殻変動の監視、災害発生時の被害状況把握、森林伐採などの環境モニタリングといった、暮らしの安全に直結する観測データを取得する役割を担います。
特に、日本は地震・津波・台風・豪雨など自然災害が多い国であり、迅速かつ正確な被災状況の把握は、救助活動だけでなく、復旧・復興の早期化にも直結します。こうした衛星観測によるインフラ整備や災害対策への貢献は、今後さらにその需要が高まると期待されています。
さらに、ALOS-4は、観測データを他国とも共有する国際的な枠組みにも参加しており、地球規模の環境保全・防災にも大いに役立てられる予定です。
次世代ロケットH3へのバトンタッチ
H2Aロケットの役目を終えたあとは、新たな主力機として「H3ロケット」が今後の打ち上げを担っていきます。H3は、H2Aの信頼性を引き継ぎつつ、さらなる低コスト化・高頻度打ち上げを実現させることを目標に、JAXAと三菱重工が共同で開発してきた次世代ロケットです。
2023年にはH3の初号機の打ち上げが失敗するという苦い経験もありましたが、技術陣の丁寧な改修と再挑戦により、2024年には無事2号機の打ち上げが成功。現在は、商業打ち上げ市場や国際的な競争にも打ち勝つ性能を有するロケットとして、H3の本格運用に向けて弾みがついています。
それでも、H2Aが築いた20年以上の運用期間における信頼と実績は、今後の日本の宇宙開発において貴重な財産であり、H3にとっての指針となることでしょう。
私たちが感じる宇宙開発の“ちから”
宇宙開発と聞くと、遠い存在のように思われる方も多いかもしれません。しかし、天気予報、ナビゲーションシステム、災害対応、通信インフラ、そして地球観測など、私たちの生活は多くの面で宇宙技術に支えられています。
H2Aロケットの打ち上げ成功というニュースは、単にひとつの技術試験の終了を意味するのではなく、私たちのくらしの基盤を見つめ直す良い機会とも言えます。また、日本のものづくりの底力を国内外に示し、未来への挑戦を続ける技術者たちへの最大の称賛となったことでしょう。
これからも宇宙開発のフロンティアは広がり続けます。月や火星への有人探査、宇宙資源の活用、さらには宇宙空間での商業活動など、夢のように思える未来が少しずつ現実へと歩みを進めています。その一歩一歩を支えるのが、H2Aのような信頼性ある基盤技術なのです。
おわりに
47号機という節目で有終の美を飾ったH2Aロケット。この歴史的な打ち上げ成功は、多くの関係者のたゆまぬ努力と、宇宙開発にかける情熱の結晶です。そして今後、日本の技術が次なるステージに向けて羽ばたいていくうえで非常に大きな意義を持つ瞬間でした。
空を見上げることで未来を考える――この感動を次世代につなげていくためにも、これからの日本の宇宙開発の歩みに、引きつづき注目し、応援していきたいものです。