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引きこもりと災害──能登半島地震が突きつけた「見えない命」の危機

2024年1月1日に発生した能登半島地震から私たちが学ぶべきことは少なくありません。その中で特に心に残るのが「引きこもりの子 避難できず落命」というニュースです。この出来事は単なる災害被害の報道にとどまらず、私たちの社会が抱える課題や家族の在り方、防災意識のあり方をあらためて問い直す出来事でした。

本記事では、この悲しい出来事を通じて、引きこもり問題と災害対策の現実に目を向け、私たち一人ひとりに何ができるのかを真剣に考えていきたいと思います。

被災地・能登半島で起きた悲劇

元日に発生した能登半島地震は、マグニチュード7.6の大地震で、多くの尊い命が奪われました。珠洲市や輪島市を中心に壊滅的な被害を受け、一部地域では道路やインフラが崩壊し、孤立状態に陥った集落も多くありました。

報道によると、石川県内でこの地震によって亡くなった男性(27歳)は、引きこもり状態にあり、自宅から避難できなかったといいます。一緒に暮らしていた母親は「津波注意報が出たので避難しようと彼に声をかけたが、自室から出てこなかった」と語っています。結果、この男性は自宅の倒壊によって命を落としてしまいました。

引きこもりという現象とその背景

「引きこもり」という言葉が世の中に広く知れ渡ったのは1990年代後半のことです。今では内閣府の定義により「6カ月以上に渡って仕事や学校に行かず、自宅に引きこもった状態が続いている人たち」とされています。2019年の内閣府調査では、40~64歳の中高年引きこもりが61万人にのぼることが報告され、決して珍しい問題ではなくなっています。

引きこもりと一口にいっても、その背景にはさまざまな事情があります。不登校からつながる孤立、精神的な障害、家庭環境、経済的な困難などが複雑に絡み合っており、「怠け」や「甘え」といった単純な言葉では到底片づけられません。本人にとっては社会に出ることが極めて困難な状態であり、それは外からは見えにくい心の戦いでもあります。

地震と災害弱者の現実

自然災害が発生した際、最も深刻な被害に直面するのは、いわゆる「災害弱者」と呼ばれる人々です。高齢者や障がい者、小さな子どもとその保護者、外国籍の方々、そして引きこもりの方々など、支援がなければ自力での避難が困難な層にあたります。

今回のような状況は、地震という突発的かつ予測困難な災害の中で、彼らの命を一層脆弱なものにしてしまいます。ある自治体の調査によると、避難行動を取るのが遅れる最大の要因の一つは「情報への接触不足」であり、引きこもりの人々はテレビやネットを通じての情報取得すら難しい場合があると指摘されています。

また、避難という行動は、単純な移動だけでなく、慣れない環境へ自らの身を置くという、精神的なハードルを越えなければなりません。多くの引きこもり状態にある方にとって、知らない人が大勢いる避難所に行くことは、精神的苦痛や恐怖を伴う出来事ともなりえます。

家族と支援が果たすべき役割

今回の件では、母親が避難を促したにもかかわらず、息子は応じなかったという内容が報道されました。家族としては当然、命を守る行動へ導こうとしたはずです。しかし引きこもり状態の中で長年過ごしてきた当事者にとって、その数秒で判断し、非日常へと飛び込むことは極めて難しかったのではないでしょうか。

このような事情を理解することが、社会の第一歩です。家族だけに全ての責任を委ねるのではなく、行政や地域社会、医療や福祉の専門家が定期的に連携して、平時から引きこもりの当事者とその家族を支援する体制づくりが求められています。

防災訓練にも包摂性を

災害はいつどこで発生するか分かりません。したがって、防災対策や避難訓練も、健常者や一般的な家庭だけをモデルにしていては限界があります。引きこもり当事者や高齢者、障がいがある方など多様な事情を持つ人々にも対応できる“包摂的(インクルーシブ)な防災訓練”を各自治体が取り入れることが必要です。

例えば、避難所における個別スペースの確保や、自閉傾向・感覚過敏に配慮した設計、多言語案内の強化など、多様性を尊重した避難環境づくりは、引きこもり支援にもつながる部分があります。災害対策のバリアフリー化が進めば進むほど、より多くの命を救うことができるのです。

身近な人への「まなざし」が鍵に

このニュースが心に突き刺さるのは、「他人事ではない」と感じる人が多いからだと思います。私たちの周囲にも、家にこもりがちな家族がいたり、声をかけづらい知人がいたりするかもしれません。しかし、日常の中で少しだけ意識を向け、「最近元気?」「困っていることはない?」という一言を届けることが、その人の心を開くきっかけになるかもしれません。

また、災害に立ち向かううえで重要なのは「助け合いの精神」です。一人ひとりが、できる範囲で隣人に気を配るだけでも、有事の際に命を救う行動につながりえることを忘れてはなりません。

さいごに

能登半島地震で命を落とされた全ての方々に対し、心よりお悔やみ申し上げるとともに、その中で失われた一つ一つの命の尊厳を真摯に受け止めたいと思います。特に、引きこもり状態にあった方が避難できず命を落としたという事実は、私たちに深い問いを投げかけています。

災害は選ばずにやってきます。しかし、私たちの意識次第で、守れる命があります。分断ではなく、理解と共生へ。今後、同じような悲しいニュースが一つでも減るように、社会全体が寄り添いとつながりを大切にしていくことが求められます。今一度、日常に潜む課題と向き合い、小さな気づきと行動を重ねていきましょう。