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令和6年能登半島地震が突きつけた現実――復興を阻む「所有者不明建物」の深刻な課題

2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震は、マグニチュード7.6という大規模な地震として日本各地に衝撃を与えました。石川県を中心に甚大な被害が発生し、多くの尊い命が奪われ、ライフラインや交通網の寸断、そして多数の建物の倒壊が報告されました。その中でも特に深刻な問題として浮かび上がっているのが、所有者不明の家屋や建造物による復旧・復興の障害です。

今回の地震で、石川県内だけでも少なくとも118棟の建物が「所有者不明」とされており、その多くは老朽化によって半壊または全壊し、道路や周囲の安全にも大きな支障をきたしています。しかしながら、行政がいざこれらを解体・撤去しようとしても、所有者の同意が得られなければ法的に手を出すことができないという現実があります。この事態は、地域住民の安全確保や復旧作業を大きく遅らせる要因となっており、現地では深刻な問題となっています。

■ 所有者不明建物とは何か?

所有者不明建物とは、その名のとおり「誰の持ち物か明確に特定できない建造物」のことです。老朽化した家が倒壊して道路を塞いでいたとしても、行政はその所有者を明確にできない限り、原則としてその建物に勝手に手を加えることができません。仮に解体したとしても、その費用の回収が困難になるため、多くの自治体では対応に苦慮しています。

能登地方には高齢化が進行する中で、長期間空き家として放置されてきた住宅や、相続手続きが行われていない建物が少なくありません。その結果、登記簿などには既に死亡した所有者の名前が残されたままになっているケースや、所有者が国外に住んでおり連絡が取れない状態などが存在します。

■ なぜ所有者不明建物が復興の障壁となるのか

まず、それらの所有者不明建物が倒壊していた場合でも、行政がすぐに取り壊すことは法律上できません。建築基準法や災害対策基本法などの定めにより、原則として解体には所有者または管理者の同意が必要です。これが難しい場合、県や市町村は「代執行」という手段で取り壊しを行うことができますが、この手続きにはかなりの時間と費用がかかります。

また、取り壊し費用は基本的に所有者の負担となりますが、所有者不明の場合、その費用の請求先がありません。結果的に自治体が税金でこれを肩代わりすることになってしまい、財政難の中でいかに対応するかが問われています。復旧・復興の妨げとなるだけでなく、住民の生活に直接的な影響を及ぼす重大な社会問題とも言えます。

■ 被災現場の現実と住民の声

報道によれば、石川県珠洲市や輪島市など被害が大きかった地域では、道路を塞ぐように倒壊した家屋の撤去が進まない地域もあります。住民は「この家があるせいで車が通れない」「瓦礫が崩れてきて危ない」などと不安を口にしており、早期の対応を望む声が高まっています。

一方で、所有者側もすぐに対応できるとは限らない現実があります。遠方に住んでおり現地の状況を把握していない場合や、相続手続き中でまだ所有権が確定していない場合、または連絡が取れないまま所在が不明になっているケースなど、さまざまな事情が交錯しています。

■ 行政と国の対策は?

こうした深刻な状況に対して、国も黙ってはいません。政府は、災害で倒壊した家屋の迅速な撤去を可能とするため、制度の見直しや法改正を検討しています。特別措置法の活用や、「所有者不明土地等対策の推進に関する法律」に基づく一定の条件下での行政の対応を迅速にする試みも進められています。

また、自治体側も被災証明に基づいて、早期に撤去が必要な物件の調査や所有者の所在確認を進めており、住民の協力を得ながら、一歩ずつ前へ進もうとしています。今後は、これら所有者不明建物への迅速かつ公正な対応が、復興のスピードを大きく左右することになるでしょう。

■ 長期的な視点で求められる対策

短期的には被災地の安全確保と復興を最優先とする必要がありますが、中長期的にはこうした所有者不明の建物が生まれないような仕組みづくりが求められています。

具体的には、空き家の管理を推進する施策の拡充、家族間での円滑な相続手続きの啓発、不動産登記の簡略化と義務化などが挙げられます。居住者の高齢化や人口減少が進む中、「自分の家の行く末を自ら考えること」がこれからの社会に問われてくるでしょう。

また、災害という非常時には一刻を争う対応が求められるため、「所有者不明建物に関する簡易な解体基準」や「例外的措置の拡充」を議論することも重要です。個人の財産権と公共の安全という2つの価値のバランスをどう取るか、それがこれからの日本に突きつけられた課題でもあります。

■ 最後に

一つひとつの家には、それぞれの家族の思い出や歴史が詰まっています。しかし、自然災害の前では容赦なくそれらが失われ、残されたものが地域の再生の足かせになることもあるというのが現実です。今回の能登半島地震を機に、改めて私たちは「住まい」と「所有」のあり方について考えるべきかもしれません。

被災地の方々が一日でも早く安心して暮らせる日常を取り戻せるよう、私たち一人ひとりがこの問題について理解を深め、できることから協力していくことが求められています。そして将来的には、所有者不明の建物が生まれない、または迅速に対応できる社会の実現を目指したいところです。