かつて何度も飲酒運転を繰り返した末、断酒を決断し、現在は同じ悩みを抱える人たちに向けて支援活動を行う男性がいます。彼の人生は、アルコールに支配されていた時期を乗り越え、自身と向き合うことで再び光を取り戻しました。その経験から見えてくるのは、飲酒運転が抱える社会的問題と、それを支える周囲の理解の重要性、そして何より「変わる力」が誰にでもあるという事実です。
本記事では、飲酒運転を断ち切り、人生を取り戻した一人の男性の物語を通して、「依存症」との向き合い方や回復の軌跡、そしてそれが私たちに何を伝えてくれるのかをご紹介します。
飲酒運転の果てに
今回紹介する男性は、かつて何度も飲酒運転を繰り返しては摘発され、失職や家庭との断絶、社会からの孤立など、さまざまな代償を払ってきました。一度は警察に摘発されたものの、「たまたま運が悪かっただけ」と思い、反省を深めることなく再び飲酒と運転を繰り返してしまいます。
なぜ、これほどまでに危険と認識され、社会的制裁が大きい飲酒運転が繰り返されてしまうのか。背景には「アルコール依存症」の存在がありました。本人も当初は、そのことに気づいていませんでした。ただ「飲みすぎてしまった」「気がゆるんでいた」などと自己正当化を繰り返し、問題の本質を見ることができなかったのです。
家庭・職場・社会からの断絶
飲酒運転による摘発、起訴、罰金、そしてそれに伴う就業先からの解雇――男性の生活は、アルコールによって徐々に崩壊していきました。最も苦しかったのは、家族との関係が絶たれてしまったこと。妻とは離婚し、子ども達との連絡も絶たれ、自宅も失い、ホームレス寸前の生活に陥ったといいます。
このような状況に追い詰められても、なお依存は続いていました。病としての自覚がないがために、周囲の指摘には耳を貸さず、自分は「まだやり直せる」ともがき続けていたと言います。
気づきと回復の第一歩
転機は、ある支援施設との出会いでした。生活困窮者支援や依存症者向けの回復プログラムを実施する施設で面倒を見てもらうことになった彼は、初めて「アルコール依存症」という病気として自身を見つめ直す機会を得ます。
施設では、医師やカウンセラー、同じような過去を持つ利用者との関わりを通じて、自分の経験と心の奥底を振り返る日々が始まりました。「もう自分の人生には戻れない」と絶望していた彼も、少しずつ変化していきました。それまで逃げてきた現実と向き合うことで、ようやく「このままでは命を落とす」と気づくことができたのです。
断酒という挑戦
回復のプロセスで最も困難とされるのが「断酒」を継続することです。単なる禁酒とは異なり、依存症を背景とする人々にとって、無意識にアルコールに手が伸びてしまうような強烈な衝動と日々向き合わなければなりません。
彼は、毎日のようにミーティングに参加し、自分の気持ちや過去の体験を言葉にしながら、少しずつ自尊心を取り戻していきました。「ここで断酒を守らなかったら、また元の地獄に戻ってしまう」という強い思いが支えとなり、今日まで断酒を継続し続けています。
依存から立ち直った「今」
現在、彼は断酒を続けながら、自身の経験をもとに依存症者や飲酒運転の再発を防ぎたいと活動しています。特に注力しているのが、「回復は可能だ」ということを伝えること。かつての自分と同じように、孤独の中で悩む人々へ、再出発が可能であることを講演や支援活動を通じて伝えています。
また、支援活動の中で、「飲酒運転=意識の低さ」と短絡的に考えていた過去の自分を振り返り、「誰もが依存症の入り口に立つ可能性がある」と深く語っています。お酒とは「楽しいもの」「コミュニケーションの手段」と捉えられがちですが、使い方を誤れば、人間関係・人生・命をも危険にさらしかねません。
社会ができること
この物語を通じて改めて考えたいのが、依存症は誰にでも起こりうる「病気」であり、罰則や制裁だけでは根本的な解決にはならないということです。社会には、依存症に対する理解や支援の枠組みが必要であり、本人が助けを求めたときに「手を差し伸べられる環境」が整っていることが重要です。
また、周囲のサポートにも目を向ける必要があります。家族や友人、職場の人々が、依存症に対する冷静な理解と共感をもって接することで、本人が回復に向かう可能性は大きく広がります。「ただの甘え」や「自業自得」として切り捨てるのは簡単ですが、そのような見方では誰も救われません。
未来への希望
彼のような体験談を知ることで、依存症に対する偏見が少しでも和らぎ、「自分にも変わるチャンスがある」と希望を持てる人が増えることを願ってやみません。そして、教育現場や職場、家庭でも「依存症」とは何かを正しく学ぶことが、再発防止と事故の未然防止につながるのです。
アルコールは合法的であり、私たちの生活に馴染んでいるものですが、それが時に人の命や社会的信用を奪う存在になりうることを知り、正しい距離感で付き合うこと。これは、すべての大人が意識すべきことでしょう。
最後に、男性が語った言葉をご紹介します。
「過去の自分が許せなくなることもある。でも、それでも一歩ずつ、目の前の明日に向かって踏み出すことができる。変わろうと思えば、人は変わることができる」
私たち一人ひとりが、この言葉に耳を傾け、自分自身の生活や周囲の人たちを見つめ直す機会としていきたいものです。