西武ドームで「緊急降板」が相次ぐ暑さ問題――夏の観戦環境を見直す契機に
埼玉県所沢市に位置する埼玉西武ライオンズの本拠地、ベルーナドーム(旧称:西武ドーム)は、独特の構造を持つことで知られています。それは「ドーム」でありながら、完全密閉ではなく外気が流れ込む半屋外型の球場であるという点です。かつては「天然のクーラー」と呼ばれる涼しさが評価されていたこともありましたが、地球温暖化や都市の気温上昇という背景の中で、今、その形式が選手・観客共に”過酷な環境”を強いる要因となっているのです。
2024年6月、この西武ドームにて、暑さによる体調不良を理由に投手が緊急降板するという異例の事態が発生しました。これは一部ファンや専門家の間で以前から懸念されていた「酷暑環境による選手への影響」が、ついに明確なかたちで表面化したケースだと言えます。この記事では、今回の緊急降板をきっかけにクローズアップされている西武ドームの暑さ問題について、その背景や現状、今後の課題について考察していきます。
■ ベルーナドームとは? ―その構造と特徴
ベルーナドームは1999年に現在の屋根付きドーム球場として改修されましたが、大きな特徴として、完全密閉型ではなく、外気が隙間から入る構造となっています。これは山間部という立地による自然換気を意識した設計で、当初は通気性の高さが快適な観戦環境と評価されてきました。
ところが、近年の夏の猛暑化によって、事態は大きく変わっています。真夏には気温が35度を超えることも珍しくなく、日差しの強い日中はドーム内の温度も跳ね上がります。スタンド席には冷房や大型送風機が設置されていないエリアも多く、観客が熱中症対策として扇風機や冷却グッズを持参する姿も見られます。
■ 緊急降板は偶然か、必然か?
話題となったのは、2024年6月22日に行われた西武対楽天の試合。西武の投手が5回終了時点で体調不良を訴えてベンチに下がり、そのまま緊急降板となりました。球団は熱はなく、新型コロナウイルス検査も陰性であったと報告しています。つまり、新たな感染症などによる体調不良ではなく、外的要因、特に「暑さ」による体調悪化であったことがうかがえます。
実はこれに先立っても、暑さによる選手のパフォーマンス低下や試合後の疲労蓄積が取り沙汰されており、特にベルーナドームに関しては「真夏のデイゲームを避けるべきではないか」といった声が、ファンや選手、OBなどから上がっていました。そして今回の事例が、それらの懸念が「取るに足らないものではなかった」ことを裏付ける形となったのです。
■ 球団の対応と今後の可能性
西武球団としても、選手の安全を最優先事項として捉えていることは間違いありません。ドーム内にはミストファンや水分補給のための常設施設、冷却スポットなども設けられています。試合前にはウォーミングアップや休憩の時間調整なども行い、各選手が暑さに対応できるように配慮されています。
しかし、今回のような緊急降板が現実に起きた以上、さらなる対応が求められるのも事実です。例えば、ナイトゲームの割合を増やす、ドーム内の送風装置や天井部への断熱対策の強化、観客席への空調設備の拡充などが考えられます。
海外球場では、暑さ対策として屋外にも関わらず空調システムを導入している例もあります。また、選手のパフォーマンスや安全性を第一に考えるメジャーリーグなどでは、真夏のデイゲームを極力避ける調整がなされています。日本でも、気候変動による環境の変化への柔軟な対応が必要な時代になってきました。
■ 観客もつらい―”全世代が楽しめる観戦”を目指して
この暑さ問題は、選手に限った話ではありません。スタンドで観戦するファンにとっても、真夏の試合はかなりの苦行とも言えます。特に子どもや高齢者、体力に自信のない方にとっては、1試合3時間から4時間に及ぶ観戦は想像以上の体力を奪うものです。
近年、スポーツ観戦は「家族連れで楽しめるイベント」として定着する傾向にあります。だからこそ、誰もが安心して快適に過ごせる環境整備は急務です。熱中症対策グッズの配布や冷却スポットの増設、スタンドへのミスト導入など、現場レベルでの工夫が求められるだけでなく、日程や開始時間の見直しなど、運営側の判断も重要になってきます。
■ まとめ―熱さとの共存へ、ドーム球場の未来を考える
日本国内では今後も夏の暑さが年々深刻になっていくと見込まれており、ドーム球場であっても「屋根があるから安心」とは言い切れなくなっています。今回のベルーナドームで起きた緊急降板という出来事は、その事実を私たちに改めて突きつける形となりました。
選手が最高のパフォーマンスを発揮できるために、そして観客が安全に試合を楽しめるために――。今こそ球団、運営会社、施設管理側が一丸となり、「暑さに打ち勝つためのスタジアムづくり」に取り組むべき時ではないでしょうか。
未来の野球観戦が、すべての人にとって快適かつ感動的な時間となるよう、気候との共存に真剣に向き合うことが求められています。ベルーナドームの熱さ問題は、単に一球場の課題にとどまらず、全国のスポーツ施設に求められる環境整備の模範例となるべき、大きな契機となるべきでしょう。