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奪われた「泳ぐ機会」──減少する学校の水泳授業とスイミングスクール過熱の今

近年、子どもたちの間でスイミングスクールの需要が急速に高まってきています。その背景には、公立小学校などにおける水泳授業の実施回数の減少があります。2024年現在、「プール授業減 スクールは『満員』」との報道が注目を集め、多くの保護者や教育関係者の間で話題となっています。本記事では、学校における水泳授業の現状、スイミングスクールの混雑状況、そして子どもたちの水泳教育の今後について、多角的に考察していきます。

学校のプール授業が減っている背景

かつては、小学校の夏と言えば校庭の一角に設けられたプールで授業が行われるのが一般的でした。しかし近年、学校での水泳授業が減少傾向にあることが顕著になっています。その理由はいくつか考えられます。

まず一つは、老朽化したプール施設の維持・管理の問題です。多くの学校では昭和期に建設されたプールが未だ使用されている一方、経年劣化が進み、改修や保守に多大な費用と手間がかかるようになっています。一部の自治体では、プールの安全性や衛生面を確保するための予算や人員が不足しており、水泳授業の実施そのものが難しくなっています。

また、教員の多忙化も大きな課題です。プール授業には安全確保のための補助員の配置や教員の特別な指導能力が求められます。しかし、慢性的な教員不足に加え、通常業務に加えての水泳指導は負担が大きく、十分な体制で授業を行うことが困難になっている学校も少なくありません。

さらには、新型コロナウイルスの影響も見逃せません。パンデミック以後、多くの学校で接触を伴う活動や施設の共用を避ける動きが強まり、水泳授業の中止や縮小が行われてきました。こうした流れは現在も尾を引いており、再開へのハードルとなっています。

スイミングスクールに殺到する保護者と子どもたち

学校でのプール授業が減る中で、代替として注目されているのが民間のスイミングスクールです。「泳げるようになってほしい」「いざというときのために水に慣れさせておきたい」と考える保護者が多い中、スイミングスクールの人気は非常に高まり、都市部を中心に多くのスクールで定員が満員、あるいは数か月待ちという状況が続いています。

特に夏を前にした4月から6月は申し込みが集中する時期であり、習わせたい時期に予約が取れないという声も多く聞かれます。また、働く保護者にとっては、送迎の利便性や授業時間の設定も重要なポイントとなっており、条件の良いスクールに応募が殺到する様子がうかがえます。

加えて、スイミングスクールでは一定の水準で体系的な指導が行われるという点も評価されています。他のスポーツと比較しても、体力や持久力、免疫力の向上に寄与することから、小学校低学年から習わせる習い事として特に人気が高くなっています。

「泳げない子ども」のリスクと水泳教育の意義

水の事故は毎年一定数発生しており、特に子どもが巻き込まれるケースが少なくありません。国土交通省や日本ライフセービング協会の統計によれば、水難事故における子どもの犠牲は決して他人事ではありません。泳ぎに自信がない、浮くことができない、いざという時に体が固まってしまう、こうした事態を防ぐには、幼い頃からの水慣れと正しい水泳技術の習得が不可欠です。

水泳は単なる技能ではなく、「命を守る術(すべ)」としての教育的価値があります。泳げる能力は一生もののスキルであり、少なくとも浮く、助けを求める、無理な行動を控えるといった基本行動は教育として身に付けさせておきたいものです。

学校における体育の一環としての水泳授業は、その意味で非常に重要な役割を担っていました。そしてその機会が減少している今、各家庭や地域社会にとっても「泳げる子ども」を増やすための取り組みが求められています。

これからの水泳教育をどうするか

これからの時代における水泳教育を考えるにあたっては、学校だけにその責任や役割を求めるのではなく、地域全体で協力しあいながら子どもたちの水への親しみと安全意識を育む必要があると考えます。

例えば、自治体と地域のスポーツクラブが連携し、公立プールや民間施設を利用したスクール形式の「代替水泳授業」を提供する取り組みも、今後検討されていくべきでしょう。また、学校で指導が難しい場合には、動画やオンライン教材などを活用し、水の安全教育を座学と組み合わせて提供する形も選択肢として魅力的です。

さらに「泳ぐ技術」と同様に、「水の危険を理解する力」も教えるべき教育要素です。無理に深い水に入らない、溺れている人の助け方、ライフジャケットの使い方など、命を守る知識と行動を、子どものうちからしっかりと学ばせることが重要です。

まとめ

学校における水泳授業の減少は、単に授業数が減ったというだけでなく、子どもたちにとっての「学ぶ機会の喪失」、「安心して水に親しむ場所の減少」といった重大な意味を含んでいます。一方で、民間のスイミングスクールが脚光を浴び、多くの保護者がその価値を再認識していることも事実です。このような現状を踏まえ、今後は「泳げる子ども」を育てるための方法と選択肢を、社会全体で模索していくことが求められます。

子どもたちが安全で自由に水とふれあい、楽しみながら泳ぐ力を身に付けられるよう、学校・家庭・地域が一体となって取り組んでいくことが、これからの時代における水泳教育の大切な方向性になるでしょう。