Uncategorized

甘い記憶と共に──森永製菓元社長・松崎昭雄さん、その人生と遺した「幸せの味」

森永製菓元社長・松崎昭雄さん死去──お菓子とともに歩んだその生涯と遺した功績

2024年6月、多くの人々の記憶に残る存在であった森永製菓元社長・松崎昭雄(まつざき あきお)さんが逝去されました。享年84歳。その訃報は、長年に渡って日本の食品業界に貢献してきた功績を思い起こさせ、多くの人々に深い感慨を与えています。この記事では、松崎昭雄さんのこれまでの人生や、森永製菓での取り組み、そしてお菓子を通して社会に届け続けた「幸せのかたち」について振り返りたいと思います。

日本を代表する老舗ブランド・森永製菓の舵取り役に

森永製菓は、1899年に創業して以来、日本のスイーツ文化を牽引してきた食品メーカーです。キャラメル、チョコレート、ビスケット、ガムなど、子どもから大人まで誰もが一度は手にしたことのある製品を多数手掛けており、「マリー」や「ダース」「ハイチュウ」「チョコモナカジャンボ」など、時代を越えて親しまれるブランドを数多く世に送り出してきました。

その森永製菓を率いた松崎昭雄さんは、1939年に生まれ、東京大学を卒業後、1963年に森永製菓に入社しました。持ち前の誠実な人柄と抜群の経営センスで幹部へと昇進し、2000年には社長に就任。当時、競争が激しさを増す菓子業界において、伝統を守りながらも新たな成長戦略を打ち出し、見事に同社をけん引していきました。

松崎さんが社長を務めた期間は2000年から2007年。その間、既存ブランドのリニューアルや新商品の開発、そして海外展開など、さまざまな改革を実行し、森永製菓を時代の変化に適応する企業へと刷新していきました。とりわけ、製品開発においては「おいしいだけでなく、健康や安心・安全への配慮」を軸に、消費者に寄り添う姿勢が際立っていました。

再び信頼を築き上げた企業の「顔」として

森永製菓は過去に大きな試練を経験しています。1955年に発生した森永ヒ素ミルク中毒事件は、日本の食品業界にかつてない衝撃を与えました。この事件がもたらした社会的ダメージは大きく、企業としての信頼回復には長い年月を要しました。しかし、松崎昭雄さんをはじめとする歴代の経営陣が誠実に問題に向き合い、新たな企業文化を築くことで、森永製菓は“信頼される食品メーカー”へと再生を遂げていきました。

松崎氏のリーダーシップの根底にあったのは、「お菓子づくりは人づくり」という信念でした。彼は、社内における人材育成にも力を入れ、従業員がやりがいを持って働ける環境づくりを重視。ただの「商品開発」ではなく、どうすれば消費者の心を打つ「体験」を生み出せるか、という視点で、製品の価値を高めていったのです。

また、松崎さんは業界団体でも重要な役割を果たしてきました。日本チョコレート・ココア協会や日本製菓産業振興協会の理事を歴任し、企業の垣根を越えて食品業界全体の品質向上や啓発活動に尽力。その姿勢は、多くの業界関係者からも尊敬されていました。

「おいしさの向こう側」にある、人々の笑顔を追い求めて

松崎昭雄さんが掲げ続けたのは、「心を豊かにするお菓子づくり」という理念です。お菓子は単なる食品ではなく、人と人とをつなぐ媒介であり、日常に癒しや豊かさをもたらすもの。彼はそう確信していました。

たとえば、苦しい時や落ち込んだ時に、ふと手に取ったチョコレートやキャンディが気持ちを軽くしてくれた経験は、誰しも一度はあるのではないでしょうか。その小さな幸せを、日本全国、ひいては世界中の人々に届けることが、自分たちの使命である──松崎さんは、その想いを経営に、そして商品開発に落とし込み、形にしてきたのです。

森永製菓が掲げるスローガンのひとつである「おいしく、たのしく、すこやかに」には、まさにその哲学が込められています。企業として利益を追求するだけでなく、社会にとってどんな価値を提供できるか。松崎さんの残したメッセージは、今日のビジネス界においても多くの企業に通じる普遍的な問いを投げかけています。

後進へのバトンタッチと、永遠のレガシー

2007年に社長を勇退してからも、松崎さんは取締役や顧問として森永製菓の経営に関わり続けました。また、CSR(企業の社会的責任)推進や環境配慮型商品の拡充にも取り組み、次世代に対する責任を果たそうと努力していました。

晩年になっても、松崎さんは若手社員と積極的に交流し、豊かな経験から生まれたアドバイスや声かけで、彼らを励まし続けていたそうです。「社長らしくない“気さくさ”があった」と語る元社員も多く、慕われる存在であり続けました。

訃報を受け、森永製菓は公式サイトで「我が社のブランド価値の向上と、企業としての社会的責任の重さを学び取らせてくれた方でした」とコメントを発表。故人の偉大さをあらためて感じさせる言葉となりました。

お菓子という温かみのある文化を紡ぎ続けた松崎昭雄さん。その遺志は、今の森永製菓、そして日本の食品業界全体に脈々と受け継がれています。私たちが手にする一つのお菓子には、単なる味覚以上の価値があり、それは過去の経営者たちの誠実な取り組みと、未来への愛によって支えられているのです。

心よりご冥福をお祈りするとともに、松崎昭雄さんの多大な功績に感謝を捧げます。