近年、地方自治体が保有する公用車や資産の見直しが進む中、注目を集めているのが「除籍された救急車の一般販売」です。2024年4月、大阪府枚方市が運用を終えた元救急車を公募方式で売却するというニュースが報じられ、一般市民や事業者の間で大きな関心を呼んでいます。今回は、この動きの背景や実施内容、元救急車がどのような形で再活用されるのかを紹介しながら、地域活性化やリユースの意義について考えてみたいと思います。
元救急車の売却が注目される理由
救急車といえば命を救う最前線で活躍する特殊車両であり、一般の人々にとっては馴染みのない存在です。しかし、一度その職務を終えた救急車は、まだまだ多くの可能性を秘めています。実際には定期的に点検・整備され、走行距離も比較的少ないことが多いため、除籍後も物理的には十分に使用可能な状態です。
今回、枚方市が公募型プロポーザル方式で市民や事業者に売却を行うと発表したのは、こうした背景があります。特に最低価格が10万円ということが発表されると、SNS上などでは「欲しい!」「キャンピングカーに改造したい」「キッチンカーにできるのでは」など、さまざまな活用法を模索する投稿が相次ぎました。
行政財産の民間利活用という流れ
もともと地方自治体では、役割を終えた公用車両や備品などを廃棄するか、オークションに出すといった方法をとってきました。しかし、近年では「遊休資産の利活用」「持続可能な社会経済活動の実現」などの観点から、これまで捨てられていた資産を新しい形で再利用する取り組みが進められています。
その中でも、元救急車の販売は公共性が高く、多くの人の関心を引きやすいため、啓発的な意味でも意義があります。今回は事業者に限らず一般市民も応募可能ということで、副業の手段やセカンドライフの足がかりとして捉える人も増えています。
どんな車が売却の対象になるのか?
実際に枚方市が売却を予定している救急車は、2009年度に導入され、約15年間使用されてきた車両です。トヨタのハイメディック(ハイエースをベースにした高規格救急車)で、走行距離は24万キロに達しているものの、適切なメンテナンスが行われてきたことで、今後もしばらくは利用できると評価されています。
また、この車には担架の固定部や救命装備などが残されている可能性があります。合法的に使用するには、一部の構造設備の変更や登録手続きが必要になることもありますが、整備に精通している人や車両改造の知識がある人には魅力的なベース車両と言えます。
注目される再活用のアイデア
中古の救急車というと、一般の人からは「使い道がないのでは」と思われがちですが、近年ではそのユニークな形状や機能性を生かした再活用例が増えています。以下はいくつかの活用例です。
1. キッチンカーや移動販売車として活用
内部が広く、電源や水道の配管スペースが確保されている特性を生かし、フードトラックやコーヒースタンドに転用されることがあります。元々医療機器の設置場所だったスペースを活用し、調理機器や冷蔵設備を導入することも可能です。
2. モバイルオフィスやコワーキングスペース
フリーランスの働き方が広がる中、出張先や自然に囲まれた場所での作業スペースとして利用する人もいます。断熱性や空調設備の改造により、快適な仕事環境を構築することが可能です。
3. 災害支援車両としてNPOが活用
緊急対応用の設備があるため、それを維持して災害現場での応急支援や物資運搬車として活用されるケースもあります。NPOやボランティア団体などが、現場に即した支援活動を展開するための「走る基地」になり得るのです。
4. キャンピングカーへの改造
アウトドア人気の高まりとともに、車中泊やキャンプが趣味の人が個人で改造して使用する例も増えています。もともと室内が広いため、ベッドや収納庫の設置がしやすく、快適な旅の相棒になります。
購入のハードルと今後の展望
もちろん、救急車ならではの特徴として、内部の機器を撤去しなければならなかったり、公道走行のためには改めて車検登録を行ったりと、手間や費用がかかる場合もあります。またサイレンや赤色灯の使用は法律で制限されており、一般人がこれを使うことはできません。購入後の改造計画は、法律に基づく対応が重要です。
それでも、このような売却が市民に開かれた方法で行われ、その中で資産の循環が促進されることは持続可能な社会への一歩です。従来であれば解体されるか、スクラップにされるかしかなかった救急車が、次の活躍の場を得る可能性を持つという点で、大きな意義があります。
さらに、枚方市のように全国自治体が同様の仕組みを取り入れれば、子育て世代の副収入づくり、若者の起業支援、高齢者の社会参加など、多様な側面で地域の活性化に寄与するかもしれません。
まとめ
枚方市が始めた「元救急車の一般売却」は、単なる車両の処分ではなく、資源を再活用し、地域経済や市民生活の中で新たな価値を生み出そうとする試みです。最低価格10万円という現実的な価格設定や、公募方式の公平性、多様な活用可能性という観点から、多くの人が関心を寄せるのも当然と言えるでしょう。
このような取り組みが今後全国各地に広がることで、リユース文化が根付き、必要な人に必要な資源が行き届く社会の実現につながることが期待されます。ほんの少しの発想の転換と行動で、かつて命を救った「元救急車」が、再び人々の暮らしを支える存在へと生まれ変わる未来が、そこまで来ているのかもしれません。