欧州連合(EU)が提案した、日本へのウナギ輸出を禁止・制限する新たな規制案が、国内外で注目を集めています。この動きに対し、日本政府も大きな関心を寄せており、水産庁の小泉龍司長官が「極めて遺憾」とするコメントを発表したことで話題となっています。ウナギという、古くから日本の文化と食生活に深く根付いた食材が、国際的な規制の対象となるこの問題について、現状と背景、そして私たちの今後の取り組み方を探っていきたいと思います。
■ ウナギ規制案の背景とは?
今回、EUが提案したのは、ヨーロッパウナギの資源減少を受けてさらなる保護策を講じようという趣旨によるものです。具体的には、欧州産ウナギの国際取引の停止、つまり日本を含む各国への輸出を禁止・制限する方向で議論が進められています。
ヨーロッパウナギ(Anguilla anguilla)は、かつては豊富な供給があったにもかかわらず、近年その資源量の激減が国際的に深刻視されています。一部の調査によれば、1970年代と比較してウナギの生息数は99%減少したとの報告もあり、地球規模での絶滅危機種とまで言われています。
そのため、EUでは過去にもウナギ漁の規制や、生息地の保護といった対策が講じられてきましたが、今回の規制案はより踏み込んだ内容であり、第三国との商業取引にまで影響を与えるものとなります。
■ 小泉長官の「極めて遺憾」の発言の意味
このEU規制案に対し、日本の水産庁長官である小泉龍司氏は、1月30日に「極めて遺憾」との公式見解を示しました。水産庁としては「科学的根拠に基づいて国際的に合意形成を図るべき」との立場を明確にし、EUの一方的とも取れる提案に懸念を表明しています。
日本国内では、ヨーロッパウナギの輸入は他の種(ニホンウナギなど)と比べると比率としては低いものの、一部の高級料亭や専門店では根強い需要があります。また、日本は世界最大のウナギ消費国の1つでもあり、流通の在り方には国民の食文化に直結する重要な意味を持っています。
こうした中、水産庁の長官が「極めて遺憾」との表現を用いるのは異例とも言え、政府としても慎重かつ真剣にこの問題に向き合っている姿勢が伺えます。
■ 日本のウナギ文化と資源管理の現状
ウナギは、土用の丑の日に食べる夏の風物詩としても知られ、古くから親しまれてきました。蒲焼き、白焼き、うな重など、調理法も多彩で、その味と栄養価から老若男女問わず多くの人に愛されています。
しかしながら、この食文化の維持には、持続可能な資源管理がますます重要になっています。ニホンウナギに関しても、その資源量は減少傾向にあり、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは「絶滅危惧種」に分類されています。
これを受けて、日本では近年、シラスウナギの採捕量の制限や資源保護の取り組みが強化されています。都道府県ごとに採捕期間を制限したり、人工ふ化技術の研究開発なども進められており、水産業界と行政が連携した取り組みが徐々に浸透しつつあります。
■ 国際的なルール作りと協調の必要性
今回のEUによる規制案が日本に与える直接的な影響は限定的であるものの、今後の国際取引の前例となる可能性は高く、安易に看過できる問題ではありません。
水産資源の保護という大義は各国に共通するものであり、お互いに協調しながら持続可能な利用を図らなければなりません。逆に、一方的な規制措置が拡大すれば、国際的な信頼関係や通商に混乱をもたらすリスクもあるため、慎重な議論を求める声は根強く存在します。
また、科学的根拠に基づかない規制は、かえって逆効果になりかねません。たとえば、正規の輸入ルートを規制することで、違法な密漁や密輸を誘発するような事態は過去にも指摘されており、透明性のある措置こそが重要です。
■ 私たちができること
世界のウナギ資源が危機に瀕している今、私たち消費者にもできることがいくつかあります。
1. 持続可能な資源に配慮した商品を選ぶ
スーパーや飲食店で販売されているウナギの中には、漁獲地や育成業者の情報が表示されているものもあります。こうした情報を元に、環境負荷の少ない商品を選ぶことが、資源保護への第一歩につながります。
2. 食べる回数や量を考慮する
年に数回の特別な日のご馳走として楽しむなど、ウナギの消費機会を見直すことも一つの選択肢です。こうした“量より質”の意識が、産業構造全体の見直しにつながる可能性もあるのです。
3. 子どもたちへの教育と意識啓発
ウナギの生態や資源状況を学び、次世代にも伝えていくことが重要です。学校教育や地域活動を通じて、自然環境と向き合う意識を育てていく社会づくりが必要です。
■ おわりに
EUが打ち出したウナギ規制案は、資源管理の観点からは理解しうるものの、その方法と影響については、慎重な議論が求められます。日本としても、歴史ある食文化を守るだけでなく、国際的な信頼と協調を重視した対応が求められます。
小泉龍司水産庁長官が述べた「極めて遺憾」という一言には、単なる外交的反発ではなく、日本の食文化と国際的な資源管理のはざまで苦悩する現実が表れているように思います。
消費者一人ひとりができる小さな積み重ねが、やがてウナギ資源の持続的な未来を作っていく大きな力になることでしょう。今こそ、食文化と自然との“共生”を真剣に考える時期が来ているのかもしれません。