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不正車検で浮かび上がる改造車の闇──高級スポーツカー摘発が突きつけた安全とモラルの分岐点

近年、自動車のカスタマイズ文化は日本国内でも幅広い層に支持され、愛好家同士の交流の場やカーイベントなどを通じて、地域社会にも一定の経済的・文化的な広がりを見せています。しかしながら、その一方で保安基準を逸脱した「改造車」が増加しているとの懸念も強まっており、今回報じられた摘発事例は、まさにその象徴とも言える出来事です。

タイトルにもある通り、「改造の高級車を不正車検疑い 逮捕」という事件が発生しました。2024年6月13日、警視庁交通捜査課は、自動車整備業を営む男性を、不正な手段で改造車の車検を通したとして道路運送車両法違反(不正車検)および有印私文書偽造容疑で逮捕しました。

改造が施されていたのは高級スポーツカーで、その一部はエンジンや足回り、排ガス装置などに手が加えられ、本来の性能や安全基準を大幅に逸脱していたとされています。にもかかわらず、正規の車検手続きを経たように偽装し、実際には検査されていないにも関わらず車検証を取得していたというのです。

警視庁の発表によると、逮捕された男性は東京都内の整備工場を実質的に経営しており、過去数年にわたって、複数の改造車に対して虚偽の車検申請を繰り返していた疑いがあるとされています。今回摘発されたケースの背景には、取り締まりの目を逃れようとする悪質な意図があったのみならず、一部顧客との間で「合法に見せかけた改造」を依頼され、高額な料金を受け取っていたという実情も明らかになっています。

このニュースが社会に与えるインパクトは少なくありません。まず第一に、当該のような不正改造車が一般道を走行しているという事実は、単に法律違反というだけでなく、他のドライバーや歩行者を巻き込む重大な交通事故のリスクになり得ます。本来であれば、車検とは車両の安全性や環境性能を確認するための大切な制度です。その機能を形骸化させるような行為は、公共の安全を損なう深刻な問題です。

さらに特筆すべきは、整備業者という「車の専門家」が関与していた点です。利用者は整備士や業者を信頼し、自分に代わって車の安全性確認やメンテナンスを委託しています。その信頼を裏切る形で違法行為が行われたことは、業界全体のイメージを損ねかねない事態です。

また、法的な視点から見ても今回のような不正車検は、道路運送車両法により処罰の対象とされています。仮に検挙されなかったとしても、事故が発生した場合、保険の適用が受けられなかったり、所有者自身が高額な賠償責任を負うリスクがあることを認識しておく必要があります。

一方で、カスタムカー文化そのものを否定するものではありません。自動車の個性や所有する喜びを高める観点から、自動車ファンにとって改造は一つの大きな表現手段であることも理解できます。しかし、カスタムの範囲は常に法律の範囲内であるべきです。現在では合法的に楽しめる範囲のカスタマイズパーツや装飾用品も多く市販されており、知識を持って適切に行えば、法律違反になるリスクは十分に回避できます。

こうした事件を受けて、今後は警察や国土交通省による取り締まりの強化だけでなく、自動車ディーラーや整備業者などの「現場」における倫理意識の向上と法令順守意識が求められます。また、利用者である私たちも、「安く済むから」「目立ちたいから」といった理由で安易に違法改造を試みないよう、自らの判断を再確認する必要があります。

さらに、都市部ではなく地方でも同様の事例が増えているとの指摘もあり、全国的な監視体制の強化が叫ばれています。今後の対応次第では、改造車に関する法規制が一層厳格化する可能性も考えられます。現在、国会では自動車の車検制度自体の見直しも検討されており、一定の猶予期間を設けてでも不正を加えた車の排除と、誠実な事業者の保護・支援策を併行して進める方針が模索されています。

最後に心に留めておきたいのが、「自動車」というのはただの移動手段ではなく、多くの命を乗せて走るものだということです。一人ひとりがその責任を意識し、適切に車を整備し、法律を守って使用することが、公道をより安全な場所にする第一歩です。

今回の事件を教訓とし、車を取り巻く社会全体が「安全」と「楽しみ」のバランスを見つめ直すきっかけとなることを願ってやみません。カスタムカーに興味を持ち、これから愛車を手に入れようとしている方や、整備業界を志している若者たちも、ぜひ正しい知識と倫理観を持ってこの世界に関わっていってほしいと思います。

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