長期化するひきこもり問題 〜家族を支える社会のあり方とは〜
近年、日本社会における深刻な課題の一つとして「ひきこもり問題」があげられます。とりわけ、長期化・高年齢化するひきこもりは、本人にとっての課題はもちろんのこと、家族にとっても切実な問題となっています。Yahoo!ニュースの記事「30年ひきこもる子 気遣う70代の父」は、30年以上にわたってひきこもりの状態にある子どもを思いやる高齢の父親の姿から、今の日本社会が抱えている課題に光を当てています。
この記事では、ひきこもり本人の苦しみ、家族の思いやりと不安、そしてその背景にある制度の問題について考察するとともに、私たち社会がどのような支援を提供できるのかを探っていきます。
■ 変わらぬ暮らしの中で抱える思い
記事で紹介されているのは、今年72歳になる父親と42歳の息子。息子さんは20代の頃から約30年にわたって自宅でひきこもり状態にあり、現在も家族以外との接触を極力避ける日々を送っています。小学生の頃は元気で活発だったという息子さんが、不登校をきっかけに急速に内にこもるようになっていった経緯は、多くのひきこもり当事者に共通する話でもあります。
父親は、息子の変化に戸惑いながらも、優しく見守り続けてきました。外出も人との交流もない息子の毎日を支える一方で、自身の加齢と体力の衰えを思い、「あとどれくらい息子を見守れるだろうか」「自分がいなくなった後、あの子はどうやって生きていくのか」との不安を日々抱えながら生活しています。
■ 8050問題、9060問題という現実
このような「ひきこもりの高年齢化」と「その家族も高齢化している」問題は、近年「8050問題」「9060問題」などと呼ばれ、社会的な注目を集めています。いずれも、80代の親が50代のひきこもりの子を支えている、あるいは90代の親と60代の子という構図の問題です。
これら高年齢化したひきこもり家庭では、支える側の親にも介護や健康の問題が出てきます。一方、ひきこもりの子どもは長年社会から孤立しており、自立へのハードルが非常に高いのが現実です。そのような家族が直面する不安や苦悩は、想像以上に大きく、切実です。
■ ひきこもり=甘えではない
多くの人が誤解しがちですが、「ひきこもり」は単なる甘えや怠惰によるものではありません。発達障害、うつ病、不安障害、トラウマなど、さまざまな心理的要因や精神的背景が関与していることが多くあります。
ひきこもりは「本人の問題」だけではなく、「環境の問題」でもあります。学校でのいじめや不適切な対応、社会の過度な競争や同調圧力、不安定な雇用環境――これらが複雑に絡み合い、本人を追い詰め、次第に社会からの孤立を深めていったケースも少なくありません。
だからこそ、当事者やその家族に対して「頑張ればいい」とか「外に出れば解決する」といった表面的な助言ではなく、背景にある問題を理解した上で、寄り添う姿勢と段階的な支援が求められています。
■ 家族の負担が限界を迎える前に
30年間、ひとり息子を支えてきた72歳の父親の日々は、傍から見ると「変わらない毎日」かもしれませんが、その一日一日には深い葛藤と努力があります。食事を用意すること、体調を気遣うこと、機嫌を損ねないように配慮すること――それらは一見些細な行動に見えますが、高齢の親にとっては心身ともに大きな負担です。
実は、こうした家族による「見守り支援」は、長期的には限界があるのです。親が倒れたり、亡くなったりしたあと、支援の手が十分に届かない場合、当事者が孤立してしまい、場合によっては「孤独死」などの問題に発展することもあります。
特に高齢者世帯では、行政手続きや支援制度にアクセスすること自体が困難なケースもあり、適切なサポートを得られないまま事態が深刻化していくのです。
■ 社会はどう支えるべきか?
では、私たち社会は何をすべきなのでしょうか。
まず必要なのは、ひきこもりに対する正しい理解です。ひきこもりの定義や原因、多様な背景を広く知ってもらうことで、偏見や思い込みを減らすことができます。また、行政や地域社会による包括的な支援体制がさらに強化される必要があります。
具体的には以下のような取り組みが考えられます。
・アウトリーチ支援の拡充:家に居るひきこもり当事者のもとへ専門家が訪問し、段階的に信頼関係を築く支援策。
・家族への支援体制:親自身が介護やストレスに疲弊しないよう、心理的・実務的なサポートが必要です。
・地域コミュニティとの連携:地域の中で孤立しないよう、ボランティアやNPOなどとのつながりをつくる。
・生きがいや居場所づくり:「働くこと」だけが社会参加ではありません。趣味活動や軽作業など、多様な生き方を支援する場が大切です。
■ 共に生きていく社会のために
多くの家族が、他人からは見えにくいところで日々悩み、不安を抱えながら生活しています。この記事に出てくる父親のように、子どもを思いやり、支え続ける親の存在は尊いものですが、そうした愛情だけに頼るには限界があります。
「誰もが必要とされ、安心して存在できる社会」を実現するためには、ひきこもり状態にある人を見捨てず、対話を重ねながら少しずつ支えていく姿勢が求められます。そして、家族だけで抱え込むのではなく、社会全体で助け合うことが重要です。
ひきこもり問題は決して「他人事」ではありません。私たち一人ひとりが、理解と共感をもって支え合える社会を目指す一歩として、この記事がその気づきのきっかけとなればと願っています。