近年、カフェ業界において興味深い動きが見られます。従来コーヒーを主力商品として展開してきた大手コーヒーチェーンが、新たな試みとして“お茶”に注目し、専門店のオープンを進める動きが広がっているのです。この記事では、大手コーヒーチェーンであるタリーズコーヒージャパンが展開する茶専門店「タリーズ&TEA(アンドティー)」を主な例として取り上げながら、その背景や今後の展望について考察していきます。
お茶に舵を切るコーヒーチェーン
タリーズコーヒージャパンは、1997年の日本進出以来、スタイリッシュな内装とこだわりのコーヒーで多くのファンを獲得してきました。そのタリーズが、お茶に特化した新ブランド「タリーズ&TEA」を東京都内を中心に展開し始めています。これまでのコーヒー中心の提供スタイルとは異なり、日本茶やフレーバーティー、ミルクティーといった多種多様なお茶メニューが楽しめるカフェとして、若年層や女性客を中心に注目を集めています。
「タリーズ&TEA」の店舗デザインや販売戦略にも特徴があります。明るく落ち着いた店内は、従来のタリーズの店舗とは一線を画す柔らかな雰囲気を持っており、若い女性やティータイムを重視する利用者にとって居心地のよい空間が提供されています。また、テイクアウト需要にも対応できるよう設計されており、おしゃれなカップデザインもSNSで話題となっています。
なぜ今「お茶」なのか?背景にあるトレンドの変化
このような動きの背景には、大きく2つの社会的な変化が影響していると考えられます。
まず一つ目は、健康志向の高まりです。新型コロナウイルスの流行をきっかけに、人々の生活や食に対する意識が大きく変化しました。特に、免疫力の向上や身体に優しい食生活を意識する人が増えています。その中で、「カフェインが控えめ」「カロリーが少なめ」「自然由来の成分が多い」といった理由から、コーヒーよりもお茶を選ぶ人が増えているのです。緑茶やハーブティーをはじめとするお茶は、健康面でのメリットが広く知られており、特に若年層や中高年層を中心に消費が拡大しています。
二つ目の要因は、多様な飲料ニーズへの対応です。コーヒーチェーンにおける客層は年々多様化しており、カフェを利用する理由やシーンも大きく変わってきています。集中して作業をするために長居する人、ちょっとした息抜きを求める人、友人と語らうために訪れる人… その目的は人それぞれです。こうした中、一人ひとりの好みに合わせたドリンクを提供できるお茶の可能性に、多くのチェーンが注目しているのです。特に、お茶はカスタマイズ性が高く、フルーツやタピオカ、ミルク、シロップの追加などによって“自分好み”のドリンクが作れる点も人気の理由となっています。
トレンドをリードする若年層とSNS
お茶市場の主役として存在感を見せているのが、10代から20代の若年層です。これまでも“タピオカブーム”や“チーズティー”といった、お茶をベースとした新しいドリンクが爆発的な人気を博してきました。現在では、見た目の華やかさや、カスタマイズの自由度、健康志向など、さまざまな要素が融合した「進化系お茶ドリンク」がトレンドとなっています。
こうした流れは、SNSの影響も大きく受けています。インスタグラムやTikTokなどでは、写真映えするカラフルなドリンクや、こだわったカッピング、店舗での過ごし方などが投稿され、多くの「いいね!」やシェアを通じて拡散されています。おしゃれな空間で、自分だけのドリンクを作り、写真や動画に収めるという一連の体験がブランドのファンづくりにもつながっているのです。
コーヒー vs. お茶?共存が広がる市場へ
一方で、コーヒーとお茶は競合する存在なのかというと、実はそうでもありません。むしろ、両者が共存し合うことで、顧客層の幅を広げ、より多くのニーズを取り込むことができるようになります。実際、タリーズ&TEAがコーヒーメニューを完全に排除しているわけではなく、あくまで「お茶」に特化し、多様性を持たせたブランド戦略を展開しているのが特徴です。
また近年では、時間帯や気分によって「朝はコーヒー、午後はお茶」と使い分けるスタイルも定着しつつあります。例えば、朝は気分をシャキッとさせるためにカフェインの強いコーヒーを飲み、午後にはリラックスタイムとしてカフェイン控えめのハーブティーや緑茶を選ぶというように、用途別にドリンクを選ぶ人が増えているのです。このような習慣に対応する形で、ドリンクメニューに多様性を持たせるブランド展開は、非常に理にかなった戦略といえるでしょう。
今後の展望と課題
タリーズをはじめとした企業が「お茶」に注目し、専門ブランドを展開していく動きは、今後さらに加速する可能性があります。一方で、カフェ業界全体に共通する課題として、「いかに他社と差別化するか」「持続可能な店づくりをどう実現するか」といった問題は避けて通れません。特に、店舗数の拡大によって同質化が進んでしまうと、利用者の関心を長く引きつけることは難しくなります。
そのため、メニュー開発はもちろんのこと、地元の茶農家と連携した地域限定ドリンクの開発や、サステナブルなカップやストローの採用など、企業の理念や個性を活かした取り組みが求められていくでしょう。
まとめ:ライフスタイルに溶け込む「お茶カフェ」の可能性
都市の喧騒の中でも、ほっとひと息つける場所—それがカフェの持つ大きな魅力です。そして、今カフェは新たな進化を遂げています。お茶という日本人に馴染みの深い飲料が、現代的に再解釈され、新しい価値として生まれ変わろうとしています。タリーズ&TEAのような試みは、単に「お茶を飲む場所」を提供するだけでなく、多様なライフスタイルや価値観に寄り添うような新しい体験を届けてくれています。
カフェに求めるものが多様化する中で、“お茶”という選択肢は今後ますます注目されることでしょう。コーヒー党の方も、たまにはお茶で一息ついてみてはいかがでしょうか。新しい味わいや香りとの出会いが、日々の生活に小さな豊かさを与えてくれるかもしれません。