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備蓄米が食の現場を救う──中食・外食産業支援に踏み出した政府の新たな一手

農林水産省は、2024年6月に発表された政策の一環として、これまで主に学校給食や災害時の支援など公共用途に限定されていた「随意契約(随契)」による備蓄米の提供先を、中食(ちゅうしょく)業界や外食産業まで広げる方針を打ち出しました。この政策転換は、長引く物価高騰や新型コロナウイルスの影響からの回復が進む中、食のインフラを担う中食・外食産業を支援する目的があります。またこれにより、政府が保管している備蓄米の有効活用を促進し、食料供給の安定化と食料ロスの削減にも寄与することが期待されています。

政府が保有する備蓄米とは?

日本政府は、食糧の安定供給を確保するため、一定量のコメを備蓄する制度を設けています。この備蓄米は、主に自然災害や不作などにより食料不足が懸念された際に放出されるもので、いわば食の安全弁としての役割を果たしています。

この備蓄米はおおむね長期間保管されるもので、一定の年数が経過すると品質保持のために入れ替え(いわゆる“ローリングストック”)が必要になります。これまでのところ、この入れ替え時に生じる「古米」の処理先としては、学校給食、加工用、飼料用などに限定されてきました。しかしながら、近年ではこの古米の流通先が限られることで、在庫の滞留や廃棄のリスクが課題とされていたのです。

新たに中食・外食産業も対象に

今回の政策見直しで大きな注目を集めているのが、「中食」および「外食」への備蓄米提供が可能になった点です。

「中食」とは、コンビニの弁当・総菜やスーパーで販売される持ち帰り用の食品など、家庭外で調理・製造された食品を購入して家で食べるスタイルを指します。一方の「外食」は、レストランや飲食店での食事です。これらの産業は日常生活に密接に関わっており、日本の食文化や経済においても重要な位置を占めています。

物価高騰と人手不足に揺れる産業を支援

中食・外食業界は、コロナ禍による休業・時短営業の打撃から立ち直りつつあるものの、依然として高騰する食品価格や原材料費、そして慢性的な人手不足といった課題に直面しています。

こうした中、政府備蓄米の活用は、経済的な負担を軽減する手段として期待されています。政府が一定条件のもとで低価格、または補助金付きで供給する備蓄米を活用することで、企業はコストを抑えつつ、消費者にリーズナブルな価格で食事を提供できるようになります。

また、地方の小規模飲食業者やフードトラック、弁当販売業者など、従来は十分な支援を受けにくかった事業者にとっても、安価で安定した原材料確保の道が開けることは大きなメリットです。

フードロス削減への貢献

国連の目標としても掲げられている「フードロス(食品ロス)」削減に向けた取り組みが、国内外で加速しています。日本においても、1年あたり500万トン以上の食品が廃棄されているとされ、その中にはまだ食べられるにも関わらず捨てられてしまう食品も多く含まれています。

備蓄米の有効活用は、まさにこのフードロス削減という観点からも意味のある政策です。本来廃棄される可能性があった古米を、適切な加工や調理を施すことで新たな価値として再生し、再び人々の食卓に戻す。これは「もったいない精神」とも通じる重要な概念であり、環境負荷の軽減にも寄与します。

品質や安全性の確保は?

気になるのは、備蓄米の品質や安全性です。それに対して政府は、提供される備蓄米については厳格な品質管理基準を設けており、衛生面や食味基準を満たしたうえで提供されると説明しています。具体的には、保管中の温度・湿度管理や定期的なサンプル検査が行われており、食品衛生法に基づく安全基準も遵守されています。

また、使用する事業者側においても、適切な加工や調理工程を通じて、おいしさや品質が消費者に伝わるよう工夫がなされることが前提です。

消費者にとってのメリットとは?

一般消費者にとっても、この制度拡大にはさまざまな恩恵があります。まず、原材料費の抑制によって外食や中食の価格の安定が期待できます。これにより、家計の助けとなるだけでなく、「安心・安全な国産米を使った食事をリーズナブルに楽しめる」機会が増えそうです。

また、食品ロス問題への関心が高まる中で、こうした取り組みに参加・協力している中食・外食チェーンや地元飲食店を選ぶ消費行動も、社会的な意識の高まりを感じさせる動きとなるかもしれません。私たち一人ひとりの選択が、持続可能な未来に繋がるという自覚が重要です。

今後の課題と展望

もちろん、すべての中食・外食事業者がすぐにこの制度を活用できるわけではありません。実際に備蓄米を使用するには、政府や地方自治体と契約を結んだり、保管設備や加工体制の整備が必要なケースも想定されます。制度の周知や導入支援が適切に行われることが、拡充のカギを握るでしょう。

今後は、政府の支援体制の充実や、民間との連携強化、その他の食料備蓄品(乾麺、缶詰など)への応用など、より多角的なアプローチが期待されます。

まとめ:食の未来を支える新たな一歩

今回の「随契による備蓄米の提供対象の拡大」は、単なる行政手続きの見直しではなく、日本の食文化と産業、環境問題、そして私たちの生活を支えるための価値ある改革です。

物価高に苦しむ家庭、経営に悩む中小飲食業者、廃棄の課題を抱える行政。そんなさまざまな利害が交差する中で、備蓄米という資源を最大限に活かすことで生まれる新たな可能性に、大きな期待が寄せられます。

食べるという行為が、単なる生存手段から、持続可能な社会を築く一端を担う——そんな時代が、まさに今、始まっているのかもしれません。