2024年6月、高校2年生の男子生徒が認知症の高齢女性を保護し、無事に家族のもとに送り届けたという心温まるニュースが話題となりました。タイトルにある「助けなきゃ」という言葉が示す通り、この生徒の行動は非常に自然で純粋なものであり、思いやりと勇気に満ちたものでした。今回はこの出来事を通して、私たちが地域社会でどうあるべきか、そして若い世代が持つ力や役割について考えてみたいと思います。
■ ある春の日の出来事
事件は2024年6月、神奈川県川崎市で起こりました。高校2年生の本間昴汰さん(16歳)は登校途中の朝、駅に向かって歩いていると、様子がおかしい高齢の女性に気づきます。女性は周囲をきょろきょろと見回し、どこか不安げで、行き先が分からないような様子だったといいます。ただならぬ雰囲気を察した本間さんは、すぐに助けを求めるように心を決めました。
近づいて声をかけると、女性は何かを話そうとするものの、うまく話が通じませんでした。本間さんは、女性が何かを伝えたそうにしていること、言葉に詰まりながらも助けを求めていることを感じ取り、「この人は助けが必要だ」と確信したそうです。
■「助けなきゃ」――自然に生まれた思い
「誰かが困っていたら助けたい」という気持ちを、多くの人が持っているかと思います。しかし、実際にその場面に直面すると、「どう声をかければいいか分からない」「自分にできることはないのではないか」「間違っていたらどうしよう」とためらってしまう人も多いのではないでしょうか。
にもかかわらず本間さんは、自分から積極的に声をかけ、状況を冷静に観察し、通報をするという判断を迅速に行いました。その行動の原点にあったのは、「助けなきゃ」という素直な気持ちです。彼は後にインタビューでも「困っている人を見て、自然と体が動いた」と話しています。この自然な行動力こそが、真の優しさであり、他者への思いやりといえるでしょう。
■ 地域が若者に教え、若者が地域を支える
本間さんのような若者の行動は、私たち大人にとっても非常に多くのことを示唆してくれます。まず一つは、日頃の家庭や学校、地域の教育がいかに大切かということです。彼は学校の防災訓練や地域での認知症サポート講座にも参加しており、それらの経験が今回の判断や行動に役立ったと語っています。
また、彼が女性に声をかけた後、交番に付き添って事情を説明し、警察官に状況を引き継ぐまでの一連の手続きにも誠実に対応しました。その丁寧な姿勢は、家族や先生、地域の人々から学んできたものであることがうかがえます。
地域社会は、こうした若者たちに「助ける力」を授け、それを使う場面を作ることが重要です。そして、若者はその力を実際の行動として地域に還元する――こうした連携が、安心して暮らせる社会の実現に繋がっていくのではないでしょうか。
■ 認知症の高齢者を守るために
今回助けられた女性は、認知症を患っていたと見られており、家族のもとから行方不明になっていたとのことです。認知症は誰にでも起こりうる病気であり、特別なものではありません。加齢とともに起こる可能性が高いもので、今後ますます高齢化が進む日本では、多くの家庭や地域で認知症と向き合っていく必要があります。
認知症の人が道に迷ったり、不安な行動を取ったりするケースは少なくありません。地域での見守り体制やサポート体制の重要性がますます高まる中で、今回のような市民レベルでの機転や行動が、それこそ命を救うことにもなり得ます。
また、声をかける際の配慮も大切です。正面から急に話しかけるのではなく、落ち着いた声で、相手の目線に合わせて話しかけること。驚かせず、相手の尊厳を守りながら接することも重要です。本間さんはそうした対応を見事に実践し、女性に不安を与えることなく安心させることができました。
■ 誰にでもできる、小さな勇気を
「自分には関係がないと思ってしまう」「見て見ぬふりをしてしまう」――そんな時代だからこそ、今回の高校生の行動は大きな意味を持っています。特別なヒーローである必要はありません。大きな力がなくてもいいのです。ほんの少し、目の前の人を気にかける心、小さな勇気、それだけで社会はより良くなると感じさせてくれる出来事でした。
そして、この行動に対して感謝の声が多く寄せられる中で、本間さん自身はいたって謙虚でした。「自分がしたことは当たり前のこと」「また同じような場面があれば、迷いなく声をかけます」と語る彼の姿勢に、多くの人が感動しました。
■ まとめ:思いやりがつなぐ安心の輪
「助けなきゃ」――この短い言葉には、本間さんの真っ直ぐな優しさが込められていました。その言葉に突き動かされるようにとった行動は、認知症の高齢者を守り、家族のもとに無事に帰すという結果に繋がりました。
今回の出来事は、単なる感動話にとどまらず、私たち一人ひとりが社会とどうかかわるか、どのようなまなざしを持って人々を見守るか、そしてどんな行動をとるべきかを考えるきっかけになります。
今、大きな問題のすべてを一人の力で解決することは難しいかもしれません。でも、小さな声かけや手助けの積み重ねが、多くの人の命や安全を守ることに繋がることを、本間さんの姿勢が教えてくれました。
これからの社会を担う若者たちの未来に、大きな希望を感じさせてくれる出来事でした。私たちもまた、「助けなきゃ」と思った時、その気持ちに正直でいたいと思います。