「フロッピーディスク」使用続く理由──テクノロジー進化のなかで“旧世代”が残るわけとは
私たちの多くが、日常的にスマートフォンやクラウドストレージを使い、デジタルの利便性を享受する現代。しかしこの高度に進化したテクノロジー社会の裏で、いまだに「フロッピーディスク」という一昔前の記録媒体が使われ続けていることをご存じでしょうか。この記事では、日本国内におけるフロッピーディスクの現在の利用状況や、その背景にある理由について幅広く考察していきます。
かつての主流メディア「フロッピーディスク」
1980年代から1990年代にかけて、パソコンの普及とともによく目にした「フロッピーディスク」。3.5インチや5.25インチといったサイズがあり、データ容量は最大でも1.44MBと、現在のUSBメモリやクラウドストレージと比較すると圧倒的に小さいものでした。しかし当時は文書の保存やソフトウェアのインストールなど、多くの用途で重宝されたスタンダードな記録メディアでした。
21世紀に入り、CD、DVD、USBメモリ、さらにはクラウドサービスの登場により、その存在感は急速に薄れました。多くのご家庭やオフィスではすでに姿を消し、「懐かしい」と感じる人さえいるかもしれません。
しかし、驚くべきことに2024年の現在でも、特定の分野や場面においてフロッピーディスクが使われ続けているのです。
いまだに「現役」のフロッピーディスクの利用例
たとえば、医療機器や航空業界では、機械の制御やデータの読み書きにフロッピーディスクの仕組みが使われているケースがあります。特に、フライトシステムや航空機の一部機材では、あらかじめ設定された規格に合わせるため、あえて旧式のメディアを使用する場合があるのです。
また、自治体や行政の一部でも、長年使われてきた基幹システムがフロッピーディスクを前提としている場合があり、新しいシステムに完全に移行するには、コスト面・作業面から課題があるという声もあります。
日本のある自治体では、2021年の時点で「労災保険の届け出にフロッピーディスクを使っている」と報道されました。その後、政府機関ではデジタル化を推進する動きが強化されましたが、それでもなお、いくつかの分野ではフロッピーディスクの現役利用が続いています。
なぜ現役でいられるのか?──長寿命・信頼性への信仰
一つの理由は「実績と信頼性の高さ」です。フロッピーディスクそのものには機械的なシンプルさゆえの安定性があり、特に当時の機材とセットで動く設計となっている場合、それをわざわざ変更することは大規模なシステム改修を意味します。大規模システムの更新には、莫大な費用と時間が必要です。小さなミスが人命に関わるような分野では、「古くても確実に動く」実績が重視されるのです。
また、専用ハードウェアとの互換性の問題もあります。例えば、医療機器や特殊な工業用ロボットなど一度設計されたシステムにとって、記録メディアを変更することは、全体の見直しと大規模入れ替えを伴います。仮に更新する場合でも、現行のシステムの検証や再設計、関連部品の製造など、膨大な手間がかかります。
現代で通用しない「デジタル化の理想」
日本では2020年以降、デジタル庁の発足などを背景に、行政サービスの電子化やペーパーレス化、オンライン申請の推進が進められています。しかし実際の現場では、たとえば保険の手続き、提出書類、バックエンドの管理システムなど、「昭和の仕組み」が残っているケースが少なくありません。
その背後には、現場の業務習慣、人材不足、資金不足、法制度との兼ね合いなど、様々な要因が複雑に絡んでいます。デジタル化を進めることが望ましいと分かっていても、すぐには動かせない「現実」もそこには存在しています。
また、災害対策やセキュリティ面の考慮もあります。最近のサイバー攻撃の増加により、一部の情報はあえてネットと切り離された「物理メディア」で管理する方が安全だと考える保守的な見方もあります。フロッピーディスクにはインターネット接続の必要がないため、ある意味で「ハッキングされにくい」というセキュリティ上の利点も一定数の支持を集めています。
私たちはどこで割り切るべきか?
社会全体が効率化や利便性を追求する一方で、技術の更新には常に「過渡期」が存在します。新しい技術が導入されるなかでも、古い技術が即座に役目を終えるとは限りません。特に公共機関やインフラの分野では、高い安全性や継続性が求められるため、技術の「半ば更新」は現実的ではない場合も多いのです。
一方で、ユーザーの利便性や資源の最適利用という観点では、旧世代のメディアやシステムにしがみつくのではなく、今の時代に即した新しいアプローチが必要です。それを実現するためには、単なるシステム改修以上に、多方面の協力と柔軟な発想が求められます。
フロッピーディスクが示すのは、単なる技術の話だけではありません。それは「更新」と「維持」のバランスを問い直す象徴でもあります。古いから悪い、新しいから善いという単純な二元論ではなく、それぞれの良さと課題を理解し、最適解を探っていくことが、これからの社会には必要なのです。
最後に
今回の話題となったフロッピーディスクの今なお続く活躍は、決して過去の遺物ではなく、様々な理由と背景を持った「選択」であることがわかります。技術の進歩に乗り遅れないことも大切ですが、過去に育まれた知恵や信頼できる仕組みもまた、現代社会に欠かせない要素です。これを機に、私たちが今使っているテクノロジーや、その背景にある意思決定について少し立ち止まって考えてみるのも良いかもしれません。