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「万博とライドシェアの行方――交通インフラ再構築への挑戦と課題」

2025年に大阪で開催予定の「大阪・関西万博」は、国内外から多くの人々が訪れることが期待されており、その経済的波及効果に大きな注目が集まっています。特に観光や交通といったインフラ分野において、「万博特需」を見込んださまざまな施策や取り組みが進められていますが、その中で注目されているのが「ライドシェア」の導入です。

ライドシェアとは、一般のドライバーが自家用車を使って利用者を有料で送迎するサービスで、Uber(ウーバー)やLyft(リフト)といった海外の企業が提供していることで知られています。日本ではこれまで非常に慎重に扱われてきた分野であり、タクシー業界との兼ね合いや安全面などの理由から、原則として自家用有償旅客運送は特殊なケース以外では認められてきませんでした。

しかし、万博開催に向けて訪日観光客の急増が見込まれる中、大阪府を含む一部の地域では、ライドシェアの一部解禁に踏み切りました。今年4月からは観光需要の高いエリアでライドシェアの試験的な導入が始まり、大阪府・大阪市もその対象地域となっています。

ところが、期待された「万博特需」にはいまだ火が付いていません。ライドシェアの規模拡大が見込まれる中、実際には運転手となる一般ドライバーの数が想定を大きく下回り、サービス提供地域での利用者の利便性向上には今一つ結びついていないのが現状です。

その背景にはいくつかの要因が存在します。

まず第一に、ドライバーの確保が難航しているという点です。ライドシェアに参入するためには、運転技術や地理知識だけでなく、適切な研修や安全に対する理解も求められます。多くの人が副業として興味を持っている一方で、実際にサービス提供まで至るには一定のハードルがあります。また、日中に運行する人材はある程度確保されていますが、需要が一気に高まる夕方や夜の時間帯に対応できるドライバーが不足しており、利便性がなかなか向上していないという問題もあります。

次に、利用者側の認知度にも課題があります。ライドシェアの仕組みは、まだまだ広く一般には知られておらず、「タクシーとの違いがわかりにくい」「料金が不明瞭」といった不安を感じる人も少なくありません。とくに高齢者層にとっては、スマートフォンの操作が必須な点やアプリのインストールが必要なことなどがハードルとなっており、利用拡大の妨げになっています。

大阪府はこうした状況を踏まえ、ドライバーの育成や研修制度の整備、さらには対象地域の拡大など複数の施策を打ち出しています。しかし、あくまで「臨時的」とされるこの試験導入には、多くの制度上の制限があり、本格的な拡大につなげるには課題が残っています。

また、ライドシェアの導入をめぐっては、既存のタクシー業界との調整も重要な課題です。過去にも類似の取り組みが進められた際には「経済的な共存共栄」が問われてきました。旅客輸送サービスにおいて長年の経験と実績を持つタクシー業界は、安全運転や緊急時対応などを含めて高いサービス品質を維持している一方、ライドシェアは「柔軟で効率的なサービス提供」が期待されています。その両立は容易ではなく、利害関係者との丁寧な対話と理解が不可欠です。

国土交通省もこうした動きを注視しており、ライドシェアに関する法制度や運用の在り方について今後詳しく検討していくとしています。万博以降も利用が定着していくか否かは、このタイミングでいかに制度設計が行われ、社会的な合意が得られるかにかかっていると言えるでしょう。

一方、地域によってはライドシェアの導入により、既存の交通手段が乏しいエリアでの「移動の足」として期待が高まっています。特に過疎地や公共交通が十分に整備されていない地域では、ライドシェアが高齢者の移動手段として有効であるとの報告もあり、都市圏とは異なる形での需要拡大も視野に入れる必要があります。ただし、こうした地域での適用には別途の運営体制づくりが求められ、単なる都会型モデルの導入では解決されない課題も多く残されています。

「万博特需」は、必ずしもすべての関連業界にとって一律に恩恵をもたらすものではありません。万博開催という一大イベントを契機に、交通インフラの多様化は望ましい方向性である一方、その変化が現実社会において受け入れられるためには、技術的・社会的・制度的な準備と理解が必要です。

ライドシェアのこれからを見据えるうえで大切なのは、単なるイベント対応にとどまらず、持続可能なサービスモデルとして市民生活の中に根付くことができるかどうかです。持続可能な新しい交通インフラの一つとして、ライドシェアは今後も試行錯誤を続けながら発展していくことが求められています。

万博がもたらす社会実験的な価値とその教訓は、地域社会の将来に多くの示唆を与えてくれるはずです。そして「交通の未来」は、ドライバー、利用者、事業者、そして行政を含む多くの関係者が、共に手を取り合って創りあげていく課題でもあるのです。