近年、若者の食生活に大きな変化が見られる中、「ステーキ離れ」というトレンドが注目を集めています。特にZ世代と呼ばれる1990年代後半から2010年代前半に生まれた若者たちの間で、ステーキといった赤身肉の需要が減少しているという現象は、飲食業界だけでなく、日本社会全体にも少なからぬ影響を及ぼしています。今回は、Z世代の「ステーキ離れ」が加速している背景について、複数の視点から詳しく解説していきます。
■ Z世代の食への価値観の変化
Z世代といえば、デジタルネイティブとして知られ、情報収集能力が高く、社会的な問題意識も強い世代です。食についても、単に「美味しい」「満腹になる」といった価値観だけではなく、「健康的であるか」「環境にやさしいか」「倫理的かどうか」といった基準で選ぶ傾向があります。
そのため、脂肪分の多い肉料理であるステーキを敬遠し、サラダや魚、豆類など、よりヘルシーで栄養バランスに優れた食事を好むようになっています。特に最近では、植物性由来のフードや、代替肉の人気が高まり、伝統的な赤身肉をメインとしたメニューが若者の間で敬遠されがちになってきました。
■ 「重たい食事」離れと健康志向
Z世代は、見た目にも美しい食事や、消化に良い軽めの食事を求める傾向があります。ステーキはどうしても一皿のボリュームが大きく、「重たい」と感じられてしまいます。「お腹いっぱいになる」よりも、「体に負担をかけない」食事が、彼らにとっては心地よい場合が多いのです。
また、健康意識の高まりから、脂質やカロリーを気にする若者が増えています。SNSなどで健康情報やダイエット法が簡単に手に入る現代、「赤身肉＝体に悪い」「動物性脂肪＝不健康」というイメージが先行してしまい、無意識にステーキなどの肉料理を避けるようになっているとも考えられます。
■ 環境問題・動物福祉への関心の高まり
Z世代の間で顕著なのが、環境問題や動物福祉に対する強い関心です。SNSやYouTubeなどを通じて世界中の情報にアクセスできるこの世代は、日常の選択が地球環境にどう影響するのかを意識しながら生活する傾向があります。
畜産業が地球温暖化や森林破壊、水資源の大量消費などの要因とされていることから、それに加担することをためらい、積極的に肉食を控える若者が増えています。ステーキという赤身肉の象徴ともいえる料理は、その選択の象徴として顕著に現れているのです。
■ 経済的な背景も影響か
Z世代は、社会に出る時期から経済の閉塞感や将来不安にさらされています。非正規雇用の増加や、平均所得の伸び悩み、物価の上昇などが若者の生活に圧迫を与えており、結果的に外食にかける予算にも限りがあるのが現実です。
ステーキはどうしても高価なイメージがある料理であり、「安く・早く・ヘルシーに」というニーズを満たす食ではありません。「手軽に食べられる丼ものやファストフードのほうが優先される」という選択も、「ステーキ離れ」に拍車をかける一因となっています。
■ SNSやインフルエンサー文化の影響
Z世代は、食事において「何を食べるか」以上に、「どう見えるか」「誰と食べるか」に価値を置く場合が多くあります。InstagramやTikTokなどでシェアできる「映える」食事が人気を集めており、ステーキはその点で若者の心に訴えづらい面もあるかもしれません。
分厚い赤身肉よりも、色とりどりの野菜が詰め込まれたサラダボウルや、オシャレなカフェメニューのほうがウケが良く、自然と選ばれる食も変わっていくというわけです。
■ ステーキ業界の苦悩と対応策
こうした背景により、ステーキハウスやレストラン経営者たちも、その変化に対応せざるを得なくなっています。近年では、赤身肉の脂肪分を控えめにしつつ、野菜や副菜を充実させたり、ソースのカロリーを抑えたりと、よりヘルシーな方向への工夫を凝らす店舗も増えています。
また、代替肉を使ったステーキの導入や、環境に配慮したフードサプライチェーンの整備など、Z世代の感性にフィットする新しい形の「ステーキ」提案も進められています。
■ まとめ：新しい食への価値観と向き合う時代
Z世代の「ステーキ離れ」は、単なる嗜好の変化ではなく、新しい時代の価値観の表れでもあります。健康や環境、倫理観に基づいた食の選択は、今後ますます重視されると考えられます。
これは飲食業界にとっては一つの試練でもありますが、同時に、未来を見据えた新たな可能性を広げる機会とも言えるでしょう。従来の常識にとらわれない柔軟な発想で、Z世代のニーズに応えるメニューづくりが今、求められているのです。
これからの食文化は、より持続可能で、多様性を尊重したものへと進化していくことでしょう。ステーキという一皿を通して、我々が何を食べ、何を大切にするのかを見つめ直すきっかけとすることが、今後の食の未来を照らす鍵となるかもしれません。
