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はだしの田植え、体験かリスクか──揺れる学校現場と保護者の声

6月3日、政府の公式な質問回答プラットフォームである「デジタル庁の『こども家庭庁こども若者★意見募集フォーム』」に寄せられたある一つの意見が、広く注目を集めました。その内容とは、「小学校の田植えを裸足で行うのは不衛生で危険。中止して靴を履くべきではないか」というものでした。これに対し農林水産省が正式に見解を示し、その内容が大きな話題となっています。

農林水産省の見解

農水省はこの問いに対し、子どもたちが田んぼに触れることで「農業への理解を深める良い機会となる」としつつ、安全性や衛生面への配慮も欠かせないとしています。その上で、学校によって対応は異なるが、必要に応じて地下足袋(じかたび)などの履き物を使うことを推奨するなど、安全と農業体験の両立が図られるべきとの姿勢を示しました。

また、農水省は学校側が保護者や地域と連携して実施方法を検討し、無理のない範囲で田植え体験を行うことが望ましいという見解も付け加えました。

はだしで田植え体験を行う理由

日本の小学校では、地域によっては総合的な学習の時間などを利用して、子どもたちが田植えなどの農業体験を行う取り組みが行われています。こうした体験は、食の大切さや農業の苦労を体感し、自然と触れ合う貴重な機会とされています。

また、はだしで田植えをする理由としては、以下のような点が挙げられています。

– 土の感触を直接足で感じることで、自然との一体感を味わえる。
– 足で苗を感じ取りやすく、スムーズな田植えがしやすい。
– 靴が泥で重くなって歩きづらくなるため、はだしの方が動きやすい場合もある。

一方で、田んぼの中には小石やガラス片が混ざっていたり、水中の雑菌への感染リスクがあったりと、安全面での懸念はぬぐえません。特に、アトピー性皮膚炎など皮膚の疾患を抱える子どもや、傷がある子どもにとっては感染症などのリスクが高まるため、慎重な対応が求められています。

保護者の間でも意見が分かれる

今回の話題が注目を集めた背景には、子どもを持つ保護者たちの間でも、田植え体験について賛否が分かれていることがあります。SNSやネット上では、

「自分も昔、はだしで田植えをした。いい経験になった」
「泥の中に何があるかわからない。怪我や感染が心配」
「教育的価値は理解できるが、安全は最優先で考えてほしい」
「長靴や地下足袋でも体験できるのでは?」

といった様々な意見が交わされています。

過去、実際に田植え体験中に軽度のけがや皮膚のトラブルが起きた例もあり、こうした体験を義務にするのではなく、子どもや家庭の判断で柔軟に選択できるようにすることも求められているのかもしれません。

地域・学校ごとの柔軟な対応が鍵

農水省も指摘している通り、田植え体験の実施については、各学校や地域の土壌の状態、教職員や地域協力者の体制、安全管理能力によって対応が異なるのが現状です。

たとえば、事前に田んぼに異物がないことを確認したり、あらかじめ泥の中での安全講習を行ったりといった対策を講じる学校もあります。一部では、はだしではなく地下足袋や専用サンダルを使用することで、安全と農業体験の両立を図っている例もみられます。

また、保護者からの同意を得ることを必須とし、体調や皮膚の状態など個別事情がある児童については、別の形で農業体験に参加できるような配慮を設けている学校も増えています。そうした取り組みが、今後さらに求められていくでしょう。

子どもたちにとっての「本当の学び」とは

田植え体験は、多くの子どもたちにとって日常生活では味わうことのできない体験です。泥に足を取られながら、友達と協力し合い、自然の不思議さや農作業の大変さを自分の肌で感じるというのは、教室の中だけでは得られない貴重な学びです。

ただし、その「貴重な学び」を安全や健康と天秤にかける必要があるのもまた事実。無理をしてまで「全員はだしで」と統一するのではなく、それぞれの子どもの体調や家庭の考えを尊重しながら、できるだけ多くの子が安心して参加できる方法を模索することが、この議論の本質だと感じられます。

まとめ

「はだしで田植え体験をするべきかどうか」という問いに、正解は一つではないでしょう。体験の意義を大切にしながら、安全性や衛生面にも細やかに配慮する。そして、子どもそれぞれの事情に耳を傾け、無理のない形で自然や農業への理解を深める機会を提供する──これこそが、真の学びを子どもたちに届ける道ではないでしょうか。

これからの学校教育の現場において、農業体験や自然とのふれ合いをどう取り入れていくのか。私たち大人もまた、問い直す時期に来ているのかもしれません。