Uncategorized

卵子数検査の中止が映す、少子化対策と個人の自由の交差点

近年、少子化の進行が日本社会における深刻な課題として注目され続けています。結婚や出産を希望する人の減少とともに、高齢出産や不妊治療に対する関心も高まる中、各自治体や国が様々な支援策を検討・実施していることは、社会として前向きな動きとも言えるでしょう。

こうした中、2024年に報じられた「卵子数調べる県のモデル事業 中止」というニュースは、少子化対策をめぐる支援のあり方や、個人の性と身体にまつわる問題について、改めて私たちに多くのことを問いかける重要な出来事となりました。

本記事では、このモデル事業の概要とその中止に至った背景、世論の反応や今後の課題について、わかりやすく解説していきたいと思います。

■ モデル事業とは ― 卵子数の検査を支援対象に

今回、中止が決定されたのは、とある県が独自に予定していた「卵子数の検査」に関するモデル事業です。この事業は、女性の妊娠可能性の目安となる「AMH(抗ミュラー管ホルモン)」を検査し、その検査にかかる費用の補助を行うというものでした。

AMH値は加齢と共に低下するため、女性の妊孕性(妊娠のしやすさ)の目安として医療機関で活用されており、現在は一部の不妊治療クリニックなどで自費検査として実施されています。このモデル事業では、主に若い女性を対象に無料または低額での検査を可能にし、妊娠や出産を視野に入れたライフプランの形成に役立てることを目指していました。

一見すると、女性が自身の将来を考える手助けになりそうな施策にも思えますが、発表当初から懸念や批判が相次ぎ、結局、事業は実施前の段階で中止となりました。

■ なぜ中止に? 問題視された背景

この事業に対する世論の反応は、非常にセンシティブなものでした。中止の理由として、主に以下のような懸念が取りざたされています。

1. 個人の選択に踏み込みすぎる懸念

妊娠や出産は、あくまでも個人の価値観や人生設計による選択です。卵子の残数を示すAMH値の公的な検査支援については、「女性が出産を急かされているように感じる」「ライフプランに行政が干渉している」といった意見が多く出されました。

2. 科学的な限界への理解不足

AMH値はあくまでも目安であり、妊娠の確率を直接示すものではありません。また、AMH値が低くても妊娠する可能性はあり、高くても妊娠につながらないこともあります。この点が十分に周知されないまま検査が普及すると、女性が過度に心配したり、誤った判断をしてしまうリスクがあると指摘されました。

3. 差別やプレッシャーを助長する不安

若年層の女性に対してこの検査を推奨することが、「あるべき生き方」や「早く出産すべき」という社会的なプレッシャーにつながりかねないとの懸念も少なくありませんでした。また、検査結果が予期せぬものであった場合、メンタル面への影響も大きくなり得ます。

こうした声を受けて、県側は最終的にモデル事業の中止を決定するに至ったのです。

■ 多様化する人生観と少子化対策のこれから

この出来事は、単なる一自治体の施策の是非にとどまらず、社会全体が「少子化対策」とは何かを改めて考えなおす機会となりました。

私たちの暮らす社会は、結婚や出産を前提としない人生観・生き方の多様化が進んでいます。つまり、行政が提供する支援も、今後は特定の価値観やモデルを押しつけるのではなく、個人が自由に選択し意思決定できる環境の整備に重きを置く必要があるという指摘もあります。

たとえば、「グループカウンセリング」や「無料セミナー」、「オンライン相談」など、情報の提供を重視した支援、中立な立場からのアドバイスが可能となる仕組みを検討することも一つの方向でしょう。また、男性も含めた教育や啓発活動を通し、性や妊娠・出産の知識を広く共有していくことも大切です。

今回の件は「支援そのものが悪い」というわけではなく、支援のやり方とその伝え方に課題があったことが示されたとも言えるでしょう。性と生殖に関する情報や支援制度は、繊細な本人の心理と価値観に関わるため、一方的な意思決定ではなく、関係者全体の議論の中で丁寧に進める必要があります。

■ 私たちにできること

改めて考えたいのは、「誰のための支援か」という視点です。利用される方にとって意義あるものであり、不安や迷いよりも「選択肢が増えてうれしい」と感じられる施策であるためには、どのような形が望ましいのでしょうか。

SNSなどでは、「私はAMH検査を受けて良かった」という個人の経験が紹介される一方で、「知らなくてよかった事実を背負う怖さもある」と悩む声もあります。すぐに明確な答えは出ないかもしれませんが、多様な生き方を支えるにはどうすべきか、一人ひとりが考え、声をあげていくことも必要です。

制度や仕組みは常に「作り、見直し、改善するもの」です。今回のモデル事業中止という判断が、今後のより良い制度設計と支援体制の構築につながっていくことを願います。

■ おわりに

「卵子数調べる県のモデル事業 中止」は、支援の善意が逆に当事者にとって不安要素となる可能性を浮き彫りにした事例でした。少子化対策は重要な課題ですが、それを解決するには、データや数値を超えた一人ひとりの生き方への敬意と理解が不可欠です。

誰かの未来に寄り添うための支援とは何か。私たちが話し合い、知り、一緒に考えるところから、その答えは少しずつ見えてくるのかもしれません。

よりよい社会をつくっていくために、支援の在り方と「自由な選択」が共存できる社会を目指していきましょう。