元横綱・白鵬氏が語る弟子9人の引退理由とは――継承と責任に揺れる相撲界の現実
2023年、相撲界に衝撃を与えるニュースの一つが、元横綱・白鵬（現 宮城野親方）率いる宮城野部屋で、短期間のうちに計9人もの弟子が引退していたという事実でした。この大きな動きに対して、白鵬氏本人が沈黙を破り、弟子たちの引退に至る経緯と、師匠としての思いをメディアを通じて語りました。
この記事では、白鵬氏のコメントを元に、現在の相撲界を取り巻く現実と、師弟関係のあり方にスポットを当ててご紹介します。
9人の大量引退という異例の事態
まず大前提として、力士の引退は相撲部屋にとって非常に大きな出来事です。部屋を支えるのは弟子たちであり、日々の稽古、場所での活躍、部屋の将来は彼らの存在に支えられています。
特に、2022年に父から宮城野部屋を継承し、師匠として新たな一歩を踏み出したばかりの白鵬氏には、その責任の重さもひとしおだったことでしょう。しかし、部屋を引き継いだのち、たった1年のあいだに9人もの弟子が姿を消すこととなりました。
一見すると「指導方法に問題があったのか？」「パワハラがあったのか？」など、外部から憶測が飛び交う出来事ですが、白鵬氏は冷静にその理由を説明しました。
引退の理由は「ケガ」や「心身の限界」
白鵬氏によると、引退した弟子たちの多くは、長年の稽古や場所での取り組みによって、体や心に限界を感じたことが引退の理由とのこと。また一部の力士については、才能はあってもケガにより力士としての道を続けることが困難になったケースもあったといいます。
この点は、相撲という競技の過酷さを物語っています。土俵上の格闘技である相撲は、身体を酷使するためケガのリスクが非常に高く、自らの体調と相談しながら、時には涙を飲んで土俵を去る判断をしなければならないのです。
白鵬氏は、「無理に続けさせることが正しいとは思わない」と語り、引退を申し出た弟子たちの意思を尊重したといいます。師匠として未来の相撲界を担う人材を失うのは非常に辛いことですが、それ以上に大切なのは一人ひとりの「力士としての幸せや将来」だという姿勢が伺えます。
「力士としての未来」を共に考える師匠の姿
白鵬氏は、その弟子たちの引退をただ受け入れるだけでなく、「その後」をも真剣に考えてきたと述べています。多くの力士は、幼少期から相撲に打ち込んでおり、引退後に何をすれば良いかわからないという不安もあります。白鵬氏はそうした弟子たちに対して、引退後の道を一緒に模索し、就職支援や相談に応じてきたというエピソードも明かしています。
これは単なる体育会系の育成指導にとどまらず、人としての成長を重視した師弟関係を築いている証とも言えるでしょう。白鵬氏が現役時代から大切にしてきた「人間力」は、師匠となった今でも変わることなく、部屋を支え続けているのです。
「強さ」と「優しさ」の両立を目指して
白鵬氏は現役時代、「無敵の横綱」として72場所連続勝ち越しや、歴代最多優勝45回という驚異的な記録を打ち立てました。しかしその一方で、勝ちにこだわるあまり「厳しすぎる」「相手への配慮がない」といった評価もありました。
しかし、師匠となった今、その姿には大きな変化が見られます。自分が築いてきた道を押し付けるのではなく、弟子たち一人ひとりの個性や事情を理解し、可能な限り寄り添う姿勢に、多くの相撲ファンや関係者も共感の声を上げています。
それはまさに、「強さ」と「優しさ」を兼ね備えた新しい指導者像。時代と共に変化する相撲界において、古き良き伝統は守りつつも、新しい時代に合った価値観で弟子たちを導く姿には、多くの学びがあるといえるでしょう。
相撲界が目指すべき「未来」とは何か
白鵬氏のように、現役時代に圧倒的な実績を残した人物が、引退後もなお相撲界の「未来」を真剣に語る姿勢は、非常に意義深いものがあります。
力士としての寿命は限られていますが、その引退後にどう生きるか、どうキャリアを築くかということも含めて、「相撲人生」なのだと言えるでしょう。白鵬氏の語る「引退はゴールではなく、新たなスタート」であるという考え方は、現代の競技者全体に通じる普遍的なテーマです。
また、引退という選択が、恥ずべきことではなく、自分に正直に向き合い、新たな人生を切り開く重要な一歩だという認識が広がれば、相撲界全体の健全性も高まることでしょう。
まとめ：弟子たちの引退から見える、白鵬氏の「師匠としての覚悟」
9人の力士が引退したという事実は、数字だけを見れば驚かれるかもしれません。しかし、その裏には、一人ひとりの人生と向き合い、その選択を尊重し、未来を共に考える白鵬氏の姿がありました。
「相撲道」を追求するだけでなく、「人間としてどうあるべきか」を深く問い続ける白鵬氏の在り方は、指導者としての新たなロールモデルとなり得ます。
今回の一連の出来事は、単なる「力士の引退」ではなく、今後の相撲界における育成や指導のあり方にひとつの方向性を示しているのかもしれません。
これから先、宮城野部屋がどのような力士を輩出していくのか、そして白鵬氏が弟子たちとどんな未来を築いていくのか。その歩みに注目が集まります。
