政府の「骨太の方針」に盛り込まれた実質賃金1%引き上げ目標とは何か? その背景と今後の課題
2024年6月、政府が示した経済・財政運営の基本指針である「骨太の方針」に、新たに「実質賃金を毎年1%以上引き上げることを目指す」という目標が明記され、大きな注目を集めています。これまでの方針では、労働者の所得向上を促す表現は見られましたが、具体的な数値として「実質賃金1%」という目標が打ち出されたのは初めてのことです。
本記事では、この新たな目標の意味、背景、そして今後予想される影響や課題について、わかりやすく解説していきます。
■「実質賃金1%引き上げ」とは何を意味するのか
まず、「実質賃金」とは名目の賃金額(給与の額面)から物価の変動を差し引いた、実質的な購買力を表す指標です。たとえば、給与が増えたとしても、それと同じかそれ以上に物価が上昇していれば、実質的には生活は楽になっていない、ということになります。
今回明示された「実質賃金1%引き上げ」という目標は、単なる賃金額アップではなく、物価上昇を踏まえた上で「可処分所得=自由に使えるお金」が毎年確実に増加していくことを政府が目指すという意思表示です。
■なぜ今、実質賃金の引き上げが求められているのか
ここ数年、日本では原材料価格の高騰、エネルギー価格の上昇、円安などの影響により、物価が急速に上昇しています。2022年以降の消費者物価指数(CPI)は以前と比較して高い水準で推移しており、それに対して賃金の伸びは追いついていません。その結果、多くの家庭で日常生活の負担が増し、実質賃金はマイナス傾向が続いていました。
このような状況の中、実質賃金の回復と安定的な上昇は、多くの国民にとって切実な課題です。政府としても、内需拡大や持続的な経済成長のためには「可処分所得の増加=実質賃金の上昇」が欠かせないと判断し、その目標を「骨太の方針」に盛り込んだと考えられます。
■政府が描く道筋とは?
今回の「骨太の方針2024」では、賃金上昇の実現に向けて、以下のような施策が掲げられています。
1. 持続的な賃上げの実現
政府は労使交渉の活性化に加え、企業の価格転嫁の促進や、付加価値の高い産業構造への転換を支援するとしています。特に、中小企業が原材料価格の上昇分を価格に反映できない現状を改善することで、賃上げの原資を確保しやすくする施策も検討されています。
2. 成長分野への労働移動の支援
ITやグリーンエネルギーなど、今後の成長が期待される分野に人材がスムーズに流れるよう、再教育やスキルアップの支援を強化する方針です。これにより、労働者がより高い生産性を持つ仕事へと移行し、結果的に収入も上がるという好循環を作ることが狙いです。
3. 働き方改革の推進と女性の活躍支援
労働時間の短縮や柔軟な働き方の実現に向けた制度改革に加え、女性や高齢者の活躍推進も重要視されています。働きやすい環境を整えることが、仕事への意欲や生産性向上にもつながり、それが賃金アップにも反映されるという考え方です。
■「1%」という数字の意味と評価
「毎年1%以上の実質賃金上昇」という目標は、一見すると控えめに感じられるかもしれません。しかし、実質値での賃金上昇を長期的に安定して実現するのは容易ではなく、ましてや日本経済が長らくデフレ傾向にあったことを考えれば、野心的ともいえる数値です。
現実には、2023年までの統計を見ると、実質賃金は8か月連続で前年を下回る状況が続いており、これをプラスに転じさせるには、企業経営者の意識改革や生産性向上だけでなく、物価の抑制など総合的な施策の連動が必要です。
■実際の課題:中小企業と非正規雇用の賃上げ
実質賃金引き上げの最大のハードルは、中小企業における人件費の上昇です。大手企業では賃上げが実現していても、それが中小企業まで波及するには時間がかかることが多く、特に非正規雇用者にとっては、その恩恵を感じにくい現状があるのも事実です。
このため政府では、中小企業の取引適正化を促し、価格転嫁の仕組みが機能するよう、公正取引委員会などを通じた実態調査や是正勧告を強化する構えを見せています。また、地方と都市部の賃金格差への対応も論点となりそうです。
■国民に求められる変化
こうした政策の変化に合わせて、私たち一人一人にも求められることがあります。それは変化を前向きに捉えて、スキルのアップデートに取り組むことや、ライフプランを見直すことです。政府の支援を有効活用し、教育訓練や転職支援を受けられる制度にも積極的にアクセスすることが、自らの所得増加や将来の安心につながる可能性があります。
また、働き方が多様化している今、フリーランスや副業のような新しい形の働き方にも光が当たりつつあります。こうした分野への理解を深め、柔軟に対応することも、実質的な生活改善への一歩となるかもしれません。
■まとめ:数字が示す目標から、行動に結びつけるために
「骨太の方針」に盛り込まれた「実質賃金1%引き上げ」という目標は、ただの経済施策ではなく、私たちの暮らしに直結する極めて身近な課題でもあります。
生活の質を高め、自信を持って将来を描ける社会を実現するために、政策の動向を注視し、各自が行動に結びつけていくことが、今後ますます重要となるでしょう。経済成長と賃金上昇が、継続的かつ包摂的な形で実現される社会を目指して、次の一歩を考えていくことが、今まさに私たちに求められているのではないでしょうか。