近年、子どもたちの家庭環境の多様化が進む中で、保育園や幼稚園などの教育現場では、その変化に柔軟に対応する取り組みが求められています。そんな中、東京都内にある一部の保育園や幼稚園では、「母の日」や「父の日」といった従来の祝い方に代わり、「家族の日」を独自に設定している取り組みが注目を集めています。
これまで一般的だった「母の日」や「父の日」は、多くの家庭で大切な家族に感謝の気持ちを伝える良い機会とされてきました。学校や保育園では、子どもたちが手作りのプレゼントやカードを用意し、家族に贈る習慣が根付いています。しかし、家庭の在り方が多様化している今、そうした一律的な記念日には、見直しの声が少しずつ上がってきています。
たとえば、親の離婚や再婚、シングルマザー・シングルファーザー、また養育者が祖父母、親戚、里親といったケースなど、一つの「父」や「母」の存在で括ることが難しい家庭も少なくありません。現代社会における家族のかたちは実にさまざまであり、それぞれの家庭が持つ事情や構成を丁寧に受け止める必要があります。
記事では、東京都世田谷区の私立保育園「アリス保育園」の取り組みが紹介されていました。この保育園では、「母の日」や「父の日」ではなく、5月の第3金曜日を「家族の日」として設定。子どもたちには「大切に思っている人」へ感謝の気持ちを表現することを目指して、絵やメッセージを制作する活動を行っています。
この園では、2歳から5歳の子どもたちが、心を込めて「ありがとう」の気持ちを絵にしたり、カードに書いたりして「家族」に贈るそうです。その対象は、必ずしも父や母とは限らず、祖父母や兄弟姉妹、あるいは園の先生など、子どもが日頃支えられていると感じる人も含まれます。この「家族の日」には型にはまらない温かさがあり、子どもたちそれぞれの事情や感情に寄り添う柔軟さがうかがえます。
保育園の園長によれば、過去には「父の日」や「母の日」にちょっとした葛藤を感じていた保護者から、「こういう取り組みがあって助かった」「子どもが無理せずに誰かを思いやることができる」といった声が届いているとのことです。このような反応を受け、園としても時代に合わせた対応の重要性を再確認している様子が伝わってきます。
こうした取り組みは、園児たち自身にとっても大きな学びとなっています。一律の価値観ではなく、「人それぞれ違っていていい」「誰かを思いやる気持ちが大切」というメッセージが自然と子どもたちに伝わり、自分なりに感謝の気持ちを形にする力が育まれます。
もちろん、「母の日」や「父の日」を祝う伝統そのものに否定的な意味はありません。それらはそれらで、日頃親に感謝を伝える貴重な機会であり、多くの家庭にとって大切な行事でもあります。しかし、すべての家庭が同じ状況にあるわけではなく、従来の枠組みにとらわれず、多様性に寄り添った対応があることも、安心できる教育環境をつくるうえで重要な選択肢といえるでしょう。
「家族の日」のような取り組みは、家庭や子ども、保育・教育の現場だけでなく、社会全体が多様性を受け入れ尊重する意識を高めるきっかけにもなり得ます。子どもたちは、与えられた環境の中で常に多くのことを感じ取り、学びを深めています。だからこそ、保護者や教育者が手を取り合って、子どもたちにとって居心地の良い空間をつくることが、今後ますます求められていくのでしょう。
最後に、保育園の現場でこのような柔軟な対応が広がっているのは、子どもたち一人ひとりの背景に目を向けた、思いやりのある姿勢のあらわれです。「家族の日」は単なる名称の変更ではなく、子どもと家族、そして社会全体が互いを理解し支え合う姿勢を育む、大きな一歩とも言えるのではないでしょうか。
私たちはこれからの時代、「普通とは何か」という価値観を見直さなければならない場面が増えていくでしょう。そうしたときに、人を思いやる心を育む「家族の日」のような取り組みは、子どもたちに強く優しい心を育てる大切な種になると思います。
家庭のかたちはそれぞれ違っていても、「ありがとう」と伝えたい相手がいること、それを素直に表現できることこそが、何よりも価値のある体験であり、子どもたちの未来を明るく照らす力になると信じています。