近年、日本が直面している大きな社会的課題の一つが「少子化」です。そして、それに伴う人口減少が、労働力不足や経済の縮小、地域衰退など、さまざまな問題を引き起こしています。このような状況を受け、政府は「異次元の少子化対策」と銘打って様々な政策を展開していますが、現実の数字は厳しく、出生数の減少は続いています。
2024年5月に報じられたある記事では、識者が「少子化がもう避けられない現実である」とし、「少子化を前提とした社会づくりが必要である」との意見を述べていました。この指摘は、これからの日本社会をどのように設計していくかを問う重要な視点を提供しています。本記事では、この話題をもとに「少子化を前提とした持続可能な社会の設計」について考えてみたいと思います。
少子化が避けられない現実
厚生労働省が発表した2023年の国内出生数は過去最少の75万人余り。少子化傾向には歯止めがかからず、人口減少は全国に広がっています。多くの施策が打たれてきたものの、結婚や出産、育児にまつわる価値観の変化、経済的・雇用環境の不安定さ、教育費や住宅費の負担など、個人が直面する課題は根深く、簡単に解決できるものではありません。
そのため、少子化に「どう対抗するか」だけではなく、「少子化が進行していく中で、いかに社会を成立させ、持続させていくか」という視点が今、強く求められているのです。これは決して少子化対策を放棄するという意味ではなく、現実理解をふまえて柔軟で包括的な政策を検討していく必要がある、という趣旨です。
「減ること」を前提とした社会設計の重要性
私たちの社会はこれまで、「人口が増えること」を前提に構築されてきました。たとえば、人口増加に合わせて家やインフラを整備し、教育機関を広げ、労働力の供給も期待できました。地方自治体も人口が拡大するという前提で開発計画を立ててきた歴史があります。
しかし、これからの日本社会では、「減る」という状況こそが現実です。労働人口は縮小し、高齢化率は上昇し、都市と地方の人口格差はさらに拡大する可能性があります。その中で、従来どおりの仕組みや運営方法にこだわっていると、行政サービスの維持や経済活動の継続すら危うくなるおそれがあります。
識者が指摘する「減少を前提とした社会づくり」とは、まさにこうした現実を直視し、コンパクトで効率的、かつすべての人が尊厳を持って暮らせるような持続可能な社会を構築していこう、という思想に基づいています。
暮らしを見直すチャンスでもある
少子化を前提とする社会設計とは、単に縮小に耐える社会を目指すということだけではありません。むしろ、私たちの暮らしや働き方を根本から見直すチャンスとも捉えることができます。
たとえば、子育てや介護といった家庭内労働を社会全体で支える仕組みの再設計や、多世代共生型の住宅や施設の普及、地域コミュニティの再活性化など、これまでの「成長一辺倒」の社会では見過ごされがちだった価値観が再評価されるきっかけにもなります。
また、効率的な行政のあり方や、デジタル技術を駆使した自治体運営、公共交通・医療・教育の再編、さらには移民や外国人労働者の受け入れについての議論も、より現実的かつ深く進めていく必要があるでしょう。
地方と都市のあり方を再考する
少子化と人口減少は、地方から先行して進行しています。過疎化が進み、学校の統廃合や病院の縮小、交通機関の廃止などが相次いでいる地域もあります。一方で、首都圏などの都市部に人口が集中する動きは続いており、地域間の差は大きく広がっています。
今後、地方が持続可能であるためには、コンパクトシティ化や広域行政の推進など、人口減少社会に対応した新たなしくみが必要です。また、テレワークの普及や移住支援によって、柔軟な働き方や暮らし方を実現できる環境を整えることも、選択肢を広げるうえで非常に重要です。
子育て支援の充実と同時に「暮らしやすさ」を実現する
いくら子育て支援策を手厚くしても、根本的な暮らしづらさや将来不安が解消されなければ、出生数が大きく回復するのは難しいとされています。そのため、住宅、教育、キャリア形成、ワークライフバランス、地域のつながりなど、子育て世代が直面するあらゆる問題に目を向け、包括的・継続的なサポートが求められます。
自治体によっては、持続可能な地域を目指して、若者による地域活動の支援や、子育て世代の負担軽減を目的とした「地域共育」などに取り組むところも増えています。こうした事例を全国に展開することで、日本全体が少子化という難題とどう向き合うかのヒントになるかもしれません。
変化を受け入れ、柔軟に対応することが未来を開く
全体として、私たちが今必要としているのは、「変化を前提にした発想」です。少子化は避けがたい現象として受け入れ、そのうえでどのように個人が幸せに生き、社会が機能し続けていくかを考える段階にきています。
少子化は日本だけの問題ではなく、多くの先進国やアジアの国々も同様の課題に直面し始めています。日本が先駆けて、この難題に取り組み、答えを模索していくことは、国際的にも意義ある試みになります。
私たち一人ひとりが、この社会の参加者として、何を大切にし、どのように暮らしたいのかを改めて考えること。行政や企業、地域社会がその声をうまく取り入れ合いながら、多様な価値観を包摂した、新しい社会の模索が求められているのではないでしょうか。
「少子化前提社会」という考え方は、悲観的なものではなく、むしろ成熟した社会のあり方を模索する希望ある一歩とも言えそうです。今こそ、未来に向かって現実を直視し、それにふさわしい改革と行動を積み重ねていくときなのかもしれません。
