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カレー不況の真実──“国民食”に迫る倒産ラッシュの背景と再生へのヒント

2024年度、全国でカレー専門店の倒産が過去最多を記録したというニュースが話題になっています。長年にわたり、日本人の食生活に溶け込み、家庭でも外食でも親しまれてきたカレー。なぜ、今そのカレー専門店が次々と閉店に追い込まれているのでしょうか?その背景には、複数の社会経済的要因が複雑に絡み合っています。今回は「カレー店倒産 24年度は過去最多」というテーマをもとに、現状と背景、そして今後の展望について考察していきます。

■ “国民食”としてのカレー人気の裏で

カレーは日本の食文化において特別な存在です。学校給食の定番であり、家庭の味として親しまれ、またコンビニやレトルト食品などでも幅広く商品展開されています。こうした背景から、「カレーは安定した人気がある」「経営リスクが少ない」といったイメージを抱いていた方も少なくないでしょう。

しかし、帝国データバンクの調査によると、2024年度におけるカレー専門店の倒産件数は過去最多を記録。前年比で増加しており、飲食業界全体の中でも特に深刻な状況にあることが浮かび上がっています。

■ 主な要因1:物価の高騰と光熱費の上昇

カレー専門店が直面している最大の課題の一つが、原材料やエネルギーコストの高騰です。カレーの主要な材料である肉や野菜、スパイス類は、円安や物流コストの増加により価格が上昇しています。特にスパイスは海外からの輸入品が多く、為替の影響を受けやすい傾向があります。

また、調理工程で多くのガスや電力を使用するため、光熱費の負担も重くのしかかっています。こうしたコストの上昇は、営業利益を圧迫し続け、経営の持続可能性を損なう一因となっています。

■ 主な要因2:人手不足の深刻化

飲食業界全体で顕著となっているのが“人手不足”問題です。特に中小規模のカレー専門店では、調理から接客、後片付けまで少人数で回しているケースが多く、スタッフが1人抜けただけでも営業に支障が出てしまうことがあります。

コロナ禍以降、飲食業界では多くの人材が他業種へと流出し、求人を出しても応募が少ない、採用してもすぐに辞めてしまうといった課題が続いています。ベテランの職人が高齢化している店舗では、後継者不足も深刻です。

■ 主な要因3:競争の激化と市場の飽和

カレーというジャンルの奥深さや自由度の高さから、多くの個人店やチェーン店が参入し、市場は急激に拡大しました。インド風、欧風、スリランカカレー、スパイスカレーなど、多彩なスタイルが登場し、食の多様性は広がりましたが、その一方で競争が激化し、一部地域では「カレー店が多すぎる」との声も聞かれるようになりました。

この市場の飽和状態では、味やサービス、価格などあらゆる面での差別化が求められ、個人経営の小規模店舗には大きなプレッシャーとなっています。また、SNSなどでの情報発信力の有無も経営を左右しつつあり、デジタル対応が遅れた店舗は集客力の点でも不利となっています。

■ 主な要因4:消費者の志向変化

さらに見逃せないのが、消費者のライフスタイルや健康志向の変化です。脂っこいものや糖質を気にする人が増え、外食の中でもヘルシー志向のメニューを好む人が増加傾向にあります。こうした中で、濃厚なルーとライスを組み合わせたカレーは「重い」「油っぽい」と感じられることも多く、敬遠されるケースが現れ始めています。

もちろん、スパイスカレーのように健康面にも配慮したメニューが注目を集めるなど、再構築されつつある部分もありますが、変化に追いつけない店舗にとっては危機が現実となっているのです。

■ それでもカレーが愛される理由

このような厳しい現実の中でも、なお多くの人々がカレーを愛し、日常的に消費しています。カレーには地域性や家庭の味が反映されやすく、人それぞれに“思い出の味”が存在します。また、比較的安価で栄養価が高いことも、食卓に並び続ける理由の一つでしょう。

多くの人が「たまに無性に食べたくなる」のがカレーの魅力。今後もその特性を活かし、進化し続ける業態として期待されているのもまた事実です。

■ 今後求められる変化と対策

この“カレー専門店危機”を乗り越えていくためには、業種としての再構築が求められます。たとえば、以下のような取り組みが今後の鍵となるでしょう。

・テイクアウトやデリバリー対応の強化
・健康志向やビーガン向けなど新たなメニューの開発
・店内の省人化・効率化(セルフサービスの導入等)
・SNSやWebを活用した情報発信力の向上
・地元食材を活かした地域密着型メニュー展開

また、経営者自身が学び直しを行い、マーケティングやデジタルスキルを身につけることで、変化する消費者ニーズにしっかり対応する必要があります。

■ 最後に:変わりゆく時代と、変わらない魅力

社会経済の変化によって、飲食業界は常に厳しい波にさらされています。カレー専門店も例外ではなく、今まさにその渦中に置かれています。しかし一方で、カレーという料理が持つ普遍的な魅力は、これまでもこれからも色あせることはないでしょう。

倒産という言葉は厳しい現実を意味しますが、その背景には、変わろうとする努力の過程や、地域社会に根付いた日々の営みがあります。このようなタイミングだからこそ、改めて「食の価値」について考える機会にしていきたいものです。

私たちの日常に寄り添うカレー文化を守るために、今できること、今必要なことを、社会全体で考えていく時がきているのかもしれません。