高齢化社会と向き合うために──「認知症で不明 死者数の8割5km圏内」の背景と私たちにできること
私たちの社会が急速に高齢化していく中で、避けられない大きな課題の一つが「認知症」との向き合い方です。今回、報じられた「認知症で不明 死者数の8割5km圏内」というニュースは、私たちにとって非常に重要な示唆を含んでいます。これは単なる統計データではなく、現代社会において高齢者が安全に暮らしていくための警鐘であり、今後の対策の出発点ともいえる内容です。
この記事では、認知症により行方不明となって死亡が確認された高齢者の多くが、自宅からわずか5km圏内で発見されているという事実を報じています。この「5km圏内=安全圏」という錯覚こそが、実はもっとも盲点であると気づかされます。そして、より安全で支え合いのある地域社会を築くために、私たちが今すべきことを考えるきっかけともなるのです。
認知症と行方不明の問題
認知症の高齢者が増えることで、認知症に起因する行方不明者の数も年々増加しています。警察庁によると、2022年には認知症が疑われる行方不明者の届け出が1万8,000人を超え、その数値は過去最多を記録しています。
認知症が進行すると、記憶障害や見当識障害(場所や時間、人などの認識が困難になる)により、自宅周辺でも迷子になってしまうことがあります。これによって、地域でよく見かける人でも、安全に帰宅できなくなってしまうケースが少なくありません。
報道内容の要点──8割以上が「自宅から5km圏内」で発見
今回報じられた調査結果では、2013年から2022年までの10年間に、警察庁が把握した認知症が原因とみられる行方不明・死亡事案5,000件余りを分析したところ、死亡が確認された約8割の方が、自宅から5km圏内で見つかっていることがわかりました。つまり、決して遠くまで出歩いていたわけではなく、かつ「いつもの道」「自宅の近く」の中で命を落としていたということです。
「きっとすぐ帰って来る」「うちの親は大丈夫」という思い込みが生んでしまった、悲劇と言わざるを得ません。裏を返せば、この「自宅から5km圏内」での早期の捜索と地域での見守り体制があれば、多くの命を救えた可能性もあったということです。
地域の見守りとテクノロジーの活用
こうした問題に対して、行政や地域社会も様々な取り組みを進めています。例えば、認知症患者にGPS端末を携帯させることにより、行方不明になった際でも早期に場所を特定しやすくするものや、「見守りネットワーク」によって地域住民や商店、バス運転手などの事業者が協力し、見かけた際に通報するといった仕組みがあります。
また、いくつかの自治体では、「認知症サポーター講座」の開催や「SOSネットワーク」などの仕組みが整備され、高齢者自身が孤立しないようにする地域ぐるみの取り組みも広がっています。特に都市部に比べて近隣関係が密な地方では、その効果がより顕著である一方、都市部においてもシステムの導入や啓発活動を通じて徐々に広がりつつあります。
また、デジタル技術の進展により、顔認識カメラの設置や、地域でのセンサー付き見守りポストなども導入されつつあります。もちろん、プライバシーの問題や個人情報保護の観点から慎重な導入が求められますが、それ以上に「命を守る」ことの大切さが叫ばれています。
家族の役割と社会の寛容性
とはいえ、家族の力だけで全てを支えることは現実として難しいことも多くあります。特に働き盛りの子ども世代が認知症の家族をフルタイムで見守ることは簡単なことではなく、介護離職や精神的負担といった問題も複雑に絡んできます。
そのため、社会全体で支える風土を作ることが重要です。たとえば、「誰もがいつか認知症になる可能性がある」という視点に立つこと、日常生活の中で困っている高齢者を見たときにほんの少しだけ関心を持ち、声をかける勇気を持つこと。こうした「些細なこと」の積み重ねが、実は大きな支えになるのです。
また、認知症と診断された方が外出をすること自体は、日常生活の一部であり、社会から閉じ込めてしまうことは避けるべきです。自由と安全のバランスを保つことは、今後の福祉政策や地域設計においてますます重要なテーマとなるでしょう。
私たちにできること──身近な「気づき」が救う命
この報道が教えてくれたもっとも大きな学びは、「深刻な事態」は決して遠くで起きているのではなく、私たちのすぐ近く、自宅周辺で起きているということです。
だからこそ私たちにできることは決して少なくありません。例えば、次のような行動が大きな助けになるかもしれません。
– 近所の高齢者と日常的に挨拶を交わす
– 見られた行動がいつもと違うと感じたら声をかけてみる
– 行政や地域の支援窓口、見守りシステムについて学んでおく
– 万が一の時にはすぐに行動できるよう、連絡手段やGPS機能を家族と確認する
こうした「ひとつの行動」が、家族の安心や高齢者自身の自由を支える力となります。それは決して大げさなことではなく、誰にでもできるやさしさの表れなのです。
まとめ──支え合いの社会をめざして
「認知症で不明 死者数の8割5km圏内」というデータは私たちに多くのことを教えてくれます。認知症への理解を深め、早期対応をすること、そして社会全体がやさしさと関心をもって行動することが、多くの命を守ることにつながります。
これから高齢化がさらに進む日本社会において、認知症は特別な病ではなく誰もが関わる可能性のある「ありふれた暮らしの一部」になろうとしています。そうした中で、私たちがどんな社会を作りたいのか──この報道はそのヒントを提供してくれました。
誰もが安心して歳を重ねられる、そんな未来のために、今この瞬間から一人一人ができることを始めていきませんか。