近年、日本における生活保護の申請件数が増加傾向にあることが報告されています。2023年度には全国の生活保護申請件数が5年連続で増え、過去5年間で最多の25万9,000件にのぼったとのことです。この数字は、多くの人々が経済的困難に直面している現状を示しており、私たち社会全体の課題を浮き彫りにしています。
この記事では、なぜ生活保護の申請が増えているのか、その背景や問題点、そして今後私たちがどのように取り組んでいくべきかについて考察していきます。
生活保護とは何か?
まず、生活保護制度について簡単に確認しておきましょう。生活保護は、経済的に生活が困難な人々に対し、最低限度の生活を保障するために国や自治体が支援を行う制度です。医療、住宅、教育、生活費など多岐にわたる支援項目が存在し、一定の条件を満たした場合に給付が受けられます。
日本国憲法第25条には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と明記されています。この理念に従い、生活保護は最終的なセーフティネットとして機能しています。
申請件数増加の背景
2023年度に記録された25.9万件という生活保護申請は、前の年度より約1,300件増加しており、これは5年連続の増加になります。新型コロナウイルスの影響や物価高騰、長引く景気低迷などを背景に、これまでなんとか自立した生活を維持していた人々が生活困難に直面している現状が伺えます。
特に注目すべきは、現役世代の生活保護申請が増えている点です。厚生労働省の発表によると、働き盛りの世代や子育て世代からの申請も年々増加しており、これまで主に高齢者世帯が中心だった生活保護の利用が、世代を超えて広がりつつあります。
貧困化の進行と非正規雇用の現状
申請件数の増加要因の一つとして、雇用環境の不安定さがあげられます。特に非正規雇用が拡大し、安定収入を得ることが困難な人が増えています。一時的なアルバイトや派遣などによる収入では、家賃や光熱費、教育費を賄うことが難しく、貯金が底をついた時点で生活保護に頼らざるを得ないという状況が生まれています。
また、物価の高騰も家計を圧迫しています。エネルギー価格や食品価格の上昇が続く中、収入が変わらない、あるいは減っている家庭では、生活そのものが困難になっているのが現実です。
世間の誤解と申請のハードル
生活保護に対する社会的な偏見や誤解も、問題の根を深くしています。「生活保護=怠けている」「助けを求めるのは甘え」といった誤ったイメージが根強く、実際には生活に困窮していても申請をためらう人が少なくありません。
生活保護制度は、日本国内に住所があり、一定の資産や収入がないと判断された人には原則として誰にでも申請の権利があります。しかし、申請過程における心理的なハードルや周囲からの目が、実際の制度利用の妨げとなることがあります。
自治体も対応に追われる
申請件数が増えるなかで、自治体の福祉事務所も対応に迫られています。職員数には限りがあり、1人のケースワーカーが担当する案件数が増加することで、きめ細かな対応が困難になる懸念もあります。生活保護は生活を支えるだけでなく、自立支援も含む制度であるため、丁寧な支援が求められます。
そうした中、多くの自治体では、社会福祉士や臨床心理士など専門職の協力を得ながら、生活困窮者への総合的な支援体制を整える動きが進んでいます。
制度を批判するのではなく、共に考える姿勢を
生活保護制度については、賛否両論ありますが、大切なのは制度を必要としている人が、安心して利用できる環境を整えることです。生活保護は、単なる「お金の給付」ではなく、支援を受けながら再び社会に参加するためのステップでもあります。
制度の乱用や不正受給といった問題に目が向くこともありますが、そうした事例は全体の一部に過ぎません。多くの申請者は、真剣に生活困窮と向き合い、助けを必要としているのです。
今後の課題と私たち一人ひとりの役割
今後、日本の少子高齢化がさらに進む中、働き手の減少や経済的不安定がより深刻になる可能性があります。生活保護の申請は今後も続くと考えられ、多様な支援体制の整備が急務です。
また、生活保護に対するネガティブなイメージを払拭し、誰もが必要なときに制度を利用できる社会を目指すことが重要です。自治体、企業、NPO、地域住民が連携しながら、困っている人々を支える仕組みを作っていく必要があります。
私たち一人ひとりにできることは、まず制度に対する正しい理解を持つこと、そして生活に困っている人に対する偏見や誤解をなくしていくことです。社会の仕組みや制度は、いつか自分自身や身近な人が利用することになるかもしれません。だからこそ、他人事ではなく、「共に生きる」意識を持つことが大切なのではないでしょうか。
まとめ
2023年度の生活保護申請件数が25万9,000件と、5年連続で増加しました。これは、私たちの社会が抱えている経済的不安や支援体制の限界を表しています。しかし、生活保護という制度があるからこそ、困難な状況に置かれても希望を持ち、再び立ち上がることができる人がいます。
生活保護制度の本来の意義や役割を理解し、必要な人が安心して支援を受けられる社会の実現に向けて、私たちは何ができるのかを今一度考えてみる時ではないでしょうか。
困っている人に寄り添える社会――それこそが持続可能で心豊かな未来への第一歩なのです。