近年、子どもを持つ保護者の間で、PTA(Parent-Teacher Association、保護者と教師の会)活動についての関心が高まるとともに、その在り方に課題も浮き彫りになっています。「PTA会長8割が父・実務は母 背景」という報道は、現代の日本社会における男女の家庭内・社会内での役割分担、そしてPTAの現状を如実に映し出しています。本記事では、PTA活動における役職と実務の乖離、その背景にある社会構造、そして今後どのような方向性が望まれるのかについて、丁寧に解説します。
PTA会長の8割が父親、でも実務を担うのは母親が多数
文部科学省によると、全国の小中学校におけるPTA会長の8割が父親でありながら、実際に活動の多くを担っているのは母親という実態があると報告されています。多くの保護者がこの状況に疑問や負担感を抱えており、PTAという組織の透明性や柔軟性に改善の余地があることを感じているようです。
実際の活動内容は、学校行事の準備や地域の安全パトロール、各種委員会の運営、さらには卒業アルバムの編集まで多岐にわたります。こうした作業は、月に何度も学校に足を運んで打ち合わせを行ったり、手作業での資料作成をしたりと、時間的・体力的にも負担が大きいものとなっています。これらの多くを母親側が担っているという現状は、家庭内のジェンダーバランスにおいても一つの問題提起です。
なぜ「父会長・母実務」という構図になるのか?
このような構図になる背景には、さまざまな要因が絡み合っています。第一に、「会長」という役職が対外的な顔であるというイメージから、男性がそのポジションにつく傾向があるということが挙げられます。学校や地域社会の中で「父親=リーダー」といった固定観念が未だに残っていることが大きな要因の一つです。
また、就業状況も関係しています。多くの父親がフルタイムで勤務しているため、平日昼間の活動にはどうしても参加が難しいという現実があります。一方で、パートタイム勤務や専業主婦である母親の方が、比較的時間的に柔軟なため、実動部隊として活動することが多くなっています。
さらに見過ごせないのは、日本社会におけるジェンダー意識の根深さです。育児や学校行事は「母親の仕事」とする意識がいまだ一部で強く、家庭内で自然と母親がPTAに関わるような流れができてしまうのです。こうした無意識の役割分担が、結果として「父親が名ばかりの会長、母親が実務の中心」という状況を生んでいます。
PTA参加は任意、それでも「断りづらい」空気
PTAは法的には任意団体であり、参加も任意とされています。しかし、実際には「子どものためには断れない」「断ると周りの目が気になる」といった空気が存在し、断ることが難しいという声が多く聞かれます。このような「半強制」的な慣習も、PTAの問題点としてたびたび指摘されています。
また、各学校ごとに活動内容や役職の負担が大きく異なるため、保護者があらかじめどの程度の労力が求められるかを把握することが難しいという課題もあります。役割が不明瞭なまま引き受けてしまい、後に大きな負担となるケースも珍しくありません。
PTA改革の動きと求められる新たな視点
こうした現状に対し、最近ではPTA活動の見直しや、形式にとらわれない柔軟な運営を模索する学校も増えています。たとえば、オンライン会議の導入、役職のローテーション制度、仕事の分担の見直しなど、個々の事情に配慮した運営スタイルが徐々に広まりつつあります。
また、父母ともに働く共働き家庭が増える中で、性別や就業形態に関わらず、誰もがやりやすい仕組みを作ることの重要性が高まっています。夫婦の役割を固定せず、家庭ごとに無理のないやり方で関わっていけるような選択肢が求められています。
特筆すべき動きとして、地域によっては「兼任制度」や「外部委託」という仕組みを導入し、保護者以外の地域の協力者と連携する形でPTA事業を遂行する例もあります。さらには、PTA自体の存在意義をゼロベースで見直し、「保護者の代表は必要、それでもPTAという枠組みにこだわらない」という柔軟な対応を模索する動きも出てきています。
今後の理想のPTAのかたちとは?
これからのPTAには、「誰のための、何のための組織なのか」を改めて問い直す姿勢が求められています。子どもの成長と学校の支援を主目的とするのであれば、そのために必要な活動範囲や方法を最適化することが重要です。
「父親が会長、母親が裏方」という役割分担が当たり前ではなくなりつつある現代においては、誰もが無理をせずに参画できる仕組み、そして透明性のある運営体制が求められます。そのためにも、PTA内でのコミュニケーション、学校と保護者の建設的な対話、そして社会全体でのジェンダー意識のアップデートが必要不可欠です。
自分の家庭に合った関わり方を見つけ、支え合いながら共に子どもの未来をつくる。そんな共感と連携のあるPTAのあり方が、多くの保護者にとって理想的ではないでしょうか。
おわりに
「PTAは大変」という声がある一方で、その活動が子どもたちにとってプラスになることは間違いありません。ただし、その運営方法や役割分担が無理のないものであることが大前提です。「誰が会長か」ではなく、「どう協力し合えるか」という視点で、一人ひとりができる形で関わることができるPTAを目指すことが、今後ますます重要となるでしょう。
変わりゆく社会の中で、保護者の意識と行動もまた進化することが求められています。PTAがその変化を柔軟に受け入れ、よりよい形で再生されていくことを願ってやみません。