2024年、コンビニ最大手の一つであるローソンが打ち出した新たな取り組みに注目が集まっています。その名も「古米おにぎり」。一見して「古米」という単語に驚かれた方もいるかもしれません。通常、消費者が買い求めるお米といえば、収穫したばかりの「新米」が主流です。しかし、あえて「古米」という言葉を掲げたこの商品には、持続可能な社会を目指すための企業としての明確な意図とメッセージが込められています。
今回はこの「古米おにぎり」について、その背景にある課題やローソンの取り組み、そして私たち消費者が今後どう向き合っていくべきかを掘り下げて考察していきたいと思います。
■「古米」とは何か?
そもそも「古米」とは、前年以前に収穫されたお米のことを指します。通常、秋に収穫されたお米はその年の「新米」として販売され、香り・味・水分量の豊かさから多くの消費者に支持されます。しかし日本の農業では、生産されたお米がすべてその年に売り切れるとは限りません。さまざまな理由により流通のタイミングを逸したり、消費量とのバランスがくずれることで、翌年に持ち越されることはしばしばあります。
この翌年に販売されたお米が「古米」と呼ばれるわけですが、品質的に大きな問題はないにもかかわらず、味やイメージなどから敬遠され、なかなか市場で売れ残ってしまうという課題があります。
■日本の食料自給率とフードロスの現実
日本の食料自給率は近年低下傾向にあり、カロリーベースで見るとおよそ38%と言われています。そんな中で「お米」という、日本の食生活の中心に位置付けられる食材が充分に確保されながらも廃棄されるという事実は、食品ロス削減の観点からも大きな矛盾と言えるでしょう。確認されているだけでも、年間に約5万トン以上の米が利用されずに無駄になっているという報告もあります。
このような背景から、「古米」を活用する試みは、今後持続可能なフードチェーンを構築していく上で極めて重要な役割を果たすと考えられています。
■ローソンのチャレンジ:「古米おにぎり」導入へ
こうした社会的背景を受けて、ローソンが始めたのが「古米おにぎり」の販売です。この取り組みは2024年6月中に東京都内の一部店舗で試験的に導入され、その反応を見ながら全国への展開を検討していくとのこと。
さらに、このおにぎりには「古米を使用しています」と明記され、消費者に対しても透明性をもって販売されます。従来、“新米”というワードが付くことで商品価値が上がる傾向にある中で、“古米”というキーワードをあえて前面に押し出すところに、ローソンの覚悟と挑戦が感じられます。
おにぎりの中身については、ローソン定番の具材を使いながらも、食味やふっくら感を損なわないよう炊き方や冷凍方法などを見直し、通常のおにぎりと遜色ない仕上がりを実現しているとのこと。すでにテスト販売を行った際には、味に大きな違いが見られなかったという声も多く、今後に大きな期待が寄せられています。
■環境問題としてのアプローチ
今回の試みが革新的であるといえるのは、単に「古米の在庫処分」ではなく、持続可能な消費のあり方を提案する新しいスタイルだからです。環境省や農林水産省も、食品ロス削減のための施策を進めていますが、民間企業がこのように前向きな姿勢で社会課題に取り組む姿は、多くの消費者にとっても新たな気づきをもたらします。
実際、ローソンはこの「古米おにぎり」が環境に優しい選択であることをPRすることで、消費者の意識改革を促す役割も果たそうとしています。「おいしく食べることが社会貢献につながる」というメッセージは、シンプルでありながら強い共感を呼ぶものでしょう。
■私たちにできること
この「古米おにぎり」の登場は、賞味期限、見た目、イメージといった“見えない消費基準”を見直す良いきっかけになるかもしれません。おいしく、安全で、正しく管理された食品であれば、“古米”であってもきちんと価値のある商品です。
ローソンのような企業の挑戦を支えるのは、やはり私たち消費者の理解と行動です。商品を手に取るとき、「これはサステナブルな選択なのか?」と少し立ち止まって考えるだけでも、社会全体の変化につながります。こうした選択肢が増えれば、食品ロスだけでなく、地球環境全体にも貢献することができます。
■今後に期待される広がり
ローソンの古米おにぎりが成功すれば、今後は他のコンビニチェーンやスーパーなど、小売業界全体に同様の取り組みが波及する可能性もあります。さらには、外食産業や給食事業にも展開されていけば、日本全体のお米の消費構造にも良い影響を与えるでしょう。
また、「古米」とは言っても、その品質管理を徹底し、安全かつおいしさを維持できる技術があるという安心感が広がれば、消費者の信頼も自然と高まっていくはずです。これが最終的には日本の米農家の支援や食料自給率の向上にも寄与することが期待されます。
■まとめ
ローソンがスタートさせた「古米おにぎり」の販売は、単なる商品の一つではなく、社会課題に真っ向から取り組む一つのアクションとして高く評価されています。食品ロスの削減、持続可能な農業支援、そして消費意識の変革。さまざまな分野にポジティブな影響を与える可能性を秘めています。
私たち消費者も、「新しい選択肢」に寛容になり、「おいしさ」や「価値」をこれまでとは異なる視点で見直すことが求められているのかもしれません。
これからの食の未来にむけて——。ローソンの古米おにぎりが、その第一歩を私たち一人ひとりに示してくれているのです。