政府が検討を進めている新制度、「ふるさと住民」について
近年、日本では少子高齢化や人口減少によって、都市部と地方の人口バランスが大きく崩れています。特に地方の過疎化問題は深刻で、地域経済の衰退や教育・医療インフラの縮小など、さまざまな課題を引き起こしています。こうした中、政府は地方と都市の新しい関係の構築を目指して、「ふるさと住民制度」の創設を検討していると報じられました。
この記事では、「ふるさと住民制度」とは何か、なぜこの制度が必要とされているのか、そして私たち一人ひとりがどのように関わることができるのかについて、詳しく考察していきます。
ふるさと住民とは何か?
「ふるさと住民制度」とは、実際にはその自治体に居住していなくても、その地域に関心を持ち、関わろうとする人々を「ふるさと住民」として登録し、制度的に地域とのつながりをもてるようにする仕組みを指します。
例えば、出身地を離れて都市部で暮らす人や、旅行先として何度も地域を訪れるうちにその土地に愛着を持った人などが、自発的に「第2のふるさと」として、好きな地域と継続的なつながりを持つことができるという構想です。登録者には、ボランティア活動や地域イベントへの参加、ふるさと納税による役割に加え、地域情報の受け取りや地域づくりに関する参加機会の提供が想定されています。
この制度の最大の狙いは、「関係人口」の拡大です。「関係人口」とは、定住していないけれども、地域と何らかの形で継続的に関係を持っている人々を指します。移住や転居を伴わない新しい関わり方が、今後の地方創生のカギとなると注目されています。
制度が求められる背景
「ふるさと住民制度」が求められる背景には、地方の抱えるさまざまな課題があります。特に顕著なのが、人口流出と高齢化による人手不足です。地域に残る若者が少なく、地域活動の担い手が年々減少しているなかで、地方自治体は存続そのものが危ぶまれる状況に直面しています。
一方で、リモートワークの普及やワーケーション(Work + Vacation)といった働き方の多様化により、人々のライフスタイルも変化しつつあります。都市部に住みながらも、地方に興味を持ち、何らかの形で貢献したいという人も増えてきています。「ふるさと住民制度」は、こうしたライフスタイルの変化を前提に、地域と人を新たに結び付ける役割が期待されています。
また、コロナ禍をきっかけに「ローカル回帰」や「人とのつながりの再評価」が進んだことも、この制度創設の後押しとなっています。人の移動が制限されたり、都市機能が停止したりしたとき、多くの人が「もう一つの居場所」の価値に気がついたはずです。ふるさとや自然とつながれる場所への関心が高まってきた今、この制度はまさに時代に即した取り組みといえるでしょう。
制度がもたらす可能性
「ふるさと住民制度」による最大の可能性は、“物理的な移住”に頼らない地方活性化です。人がその場に住むことが前提だった従来の地方創生策に比べ、居住地とは別に「関わる」ことが認められるこの制度は、多様な人材と地域のつながりを生み出すことができます。
たとえば、首都圏で働く会社員が休日に地域の農作業を手伝う、クリエイターが地方の観光PRを手がける、あるいは学校に通う学生が地域のSNSマーケティングを支援する、など、関わり方は千差万別です。それぞれのスキルや関心を活かしながら、地域と二拠点的に生きる道を選ぶ人が増えることでしょう。
また、地元住民側にもメリットがあります。「外から来た人」の視点やアイデアは、地域の可能性を広げる新しい風となりえます。閉鎖的とされがちな地域コミュニティに、新たな視点をもたらす存在として、「ふるさと住民」は地域づくりの重要なパートナーとなってくれるかもしれません。
制度に向けた課題
一方で、この制度にはいくつかの課題も存在します。まず、「ふるさと住民」がどのような義務や権利を持つのか、その明確な定義づけが求められます。まちづくりに積極的に関わってもらうためには、単なる登録制の「会員」以上の役割を設定する必要があるかもしれません。制度の透明性と公平性も、信頼構築のうえで重要です。
さらに、受け入れる自治体側にも、柔軟な体制や人材、予算などの課題があります。他所からの人を受け入れ、一緒に活動していくためには、地域住民との連携とその調整が欠かせません。また、制度が複雑すぎても参加のハードルが上がってしまうため、登録から具体的な活動までをいかにわかりやすく設計するかも、成功のカギとなるでしょう。
私たちにできること
この制度が運用されることで、「ふるさと」を持たない、またはいま住んでいる場所とは別にもう一つの居場所が欲しいと思っている人々にとって、新たな選択肢が生まれます。今の暮らしを変えることなく、別の地域に貢献できる。この「ふるさと住民制度」は、現代人のライフスタイルや価値観にマッチした取り組みです。
もし、あなたに「思い入れのある故郷」や「また行きたいと感じた町」があれば、ぜひ注目していただきたい制度です。行政からの正式発表は今後となりますが、ふるさと納税や地域おこし協力隊といった既存の取組とも連携し、新しい形の関係人口拡大として、多くの人がチャレンジできる仕組みに育っていくことが期待されます。
まとめ
「ふるさと住民制度」は、地方と人々の間に、新たな関係性を築く試みの一つです。従来のような定住ではなく、暮らしながら別の地域と関わるという発想は、私たちの生き方に柔軟な選択肢をもたらしてくれます。
都市と地方、どちらも大切にしながら、自分らしい関わり方を模索できるこの制度の今後に、ぜひ注目していきましょう。日本の未来にとって、“どこに住むか”だけでなく“どことつながるか”という視点がより重視される時代が来るのかもしれません。
今こそ、自分の「ふるさと」がどこなのかを改めて考え、新しい形で地域を支える一歩を踏み出す時期が来ているのかもしれません。