ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の新たな社長に就任した若きリーダーの歩みが、今大きな注目を集めています。「初配属は駐車場だった」という見出しには、一見すると意外性を感じるかもしれません。しかし、その言葉の裏にあるキャリアの積み重ねと、現場を大切にする姿勢が今、多くの人々の共感を呼んでいます。
今回ご紹介するのは、USJの新社長として2024年5月に就任した岡本志歩(おかもと・しほ)さん。彼女は、日本だけでなくグローバルなエンターテインメント業界でも注目されている存在です。そして、そのキャリアのスタートが「駐車場勤務」だったという事実は、多くの人々にとって希望とも言えるストーリーです。
経歴に見る「現場力」の重要性
岡本社長のキャリアの出発点は、2001年のUSJオープン直後の駐車場スタッフでした。入社当時はまだ大学を卒業してすぐの新社会人。華々しいオフィスワークではなく、野外での駐車場業務に従事していました。夏の暑さにも冬の寒さにも耐えながら、日々パークに足を運ぶゲストのために働く姿勢は、USJの運営現場を支える第一線の大切さを体感する経験だったことでしょう。
通常、エンターテインメント業界のトップに立つには、マーケティングや経営戦略といったビジネス分野のエリート経験が必要とされるイメージが強いかもしれません。しかし、岡本社長はUSJの成長と変革を現場レベルで見て、体験し、貢献してきたのです。だからこそ、彼女が語る言葉には説得力があり、社員たちの信頼を得ているのではないでしょうか。
キャリアアップの過程とリーダーシップ
駐車場勤務から始まった岡本さんのキャリアは、その後アトラクション運営やスタッフ教育、さらにはイベントの企画など、さまざまな現場を経験することで少しずつ広がっていきました。2009年からは運営マネージャーとして、現場と経営陣を繋ぐ重要な役割を担っていきます。
USJではクリスマスイベントやハロウィーンなど、季節ごとの特別な企画が来場者の大きな楽しみの一つですが、その多くに岡本さんの関与がありました。ゲストの喜ぶ顔を間近に見ながら、現場目線での改善を重ね、ユーザー体験の最大化に力を注いできました。彼女の取り組みには「どうすれば喜ばれるか」に対する真摯な思いが込められており、それがUSJのリピーター増につながったとも言えそうです。
また、彼女のリーダーシップの真価が発揮されたのは、2020年の新型コロナウイルスの影響下での営業再開に向けた準備と対応です。当時は感染拡大のリスクと経済への打撃の狭間で、多くの企業が苦境に直面していました。その中で、岡本さんはスタッフ全員の安全を第一に考えた運営方針を導入し、安心して来場できる環境づくりを率先して行いました。
USJの「顔」としての社長へ
こうして2024年、岡本さんは史上最年少の40歳でUSJ社長に就任しました。鶴の一声で経営方針を変えるのではなく、スタッフ一人ひとりの声を大切にし、「一緒につくる姿勢」で生まれた信頼が、彼女をトップに導いたのです。
USJは観光レジャーの枠を超え、文化として定着しつつあるテーマパークです。ハリーポッターやスーパーニンテンドーワールドといった世界的なIP(知的財産)と連携する一方で、日本独自のホスピタリティを融合させて、常に新しい体験を提供しています。そんなUSJの先頭に立つ岡本社長は、現場の声、ゲストの声に耳を傾ける数少ないリーダーの一人と言えるでしょう。
また、USJの運営元である合同会社ユー・エス・ジェイは、「グローバルとローカルの融合」を強調しています。実際に岡本社長は、外資のダイナミズムと日本的な丁寧な運営スタイルの双方を体現しています。このハイブリッドな感性が、今後のUSJの成長において非常に重要なカギになると予想されています。
若い世代へのメッセージ性
今、岡本社長のキャリアは、これから社会に出ようとする若者や、現場で奮闘している多くのビジネスパーソンに勇気を与えています。特に、「初配属が駐車場だった」というエピソードは、どんな仕事にも意味があり、そこから未来が広がることを感じさせてくれます。
現場は時に泥臭く、思い通りにならないことも多いですが、そこには人と人とのつながり、体験を通じた学び、そしてチームワークの大切さが詰まっています。岡本社長の歩みが示しているのは、「与えられた場所でどれだけベストを尽くすか」が、将来の可能性を広げる最初の一歩になるということです。
結びに
USJを訪れる人々は、「夢」や「非日常」を体験するためにパークを訪れます。その場所を作り出すには、見えないところで日々努力しているスタッフがいて、リーダーがいます。岡本志歩社長は、そうした現場の価値を自ら体験し、理解しているからこそ、今の立場にいるのです。
これまでの軌跡は決して順風満帆というわけではなかったかもしれませんが、謙虚に、そして情熱と誠実さを持って歩んできたからこそ、多くの人の共感を集めているのだと思います。
「夢を与える仕事」というのは、決して簡単なものではありません。だからこそ、そこに情熱を注ぎ続けられる人がいることを知ることで、私たちは少しだけ勇気をもらえるのかもしれません。
これからのUSJがどのように進化していくのか、岡本社長のもとでどんな新しいエンターテインメントが生まれていくのか。ますます期待が高まります。