日本の財政健全性はぎりぎりの状態か?――森山自民党政調会長の発言から見える課題
2024年6月、自由民主党の政策運営を担う要職にある森山裕政務調査会長が、日本の国債に関する評価について「ぎりぎりの線にある」と発言し、注目を集めました。森山氏のこの発言は、政府与党の政策運営の中枢にいる人物として、日本の財政運営に対する強い危機意識を映し出すものであり、日本経済全体の将来を考えるうえで、決して軽く受け止めるべきではありません。
本記事では、森山氏の発言の背景にある国内外の情勢、財政健全性を巡る議論、今後の政策対応の重要性について、なるべく分かりやすく解説していきます。
■ 森山氏の「ぎりぎり発言」の背景
まず、森山裕氏の発言の概要を整理しましょう。報道によると、森山氏は6月3日、国会内で記者団の質問に応じた中で、「日本の国債の国際的評価はぎりぎりの線で保たれている状況だ」と述べました。また、これに関連して「今後の財政運営は大変重要になる」「信認を失えば国債の金利が急騰し、国家運営に深刻な影響が出る」といった趣旨の見解も示しています。
この発言の背景には、昨今の日本経済を取り巻く環境の変化があります。金融緩和の出口戦略が議論され、日銀の政策金利の引き上げが視野に入る中で、将来的な金利上昇は国債利払い費の増加にもつながります。そのため、日本政府がどれほど信頼されているか――いわゆる「財政の持続可能性」や「国の信用度」がかつて以上に問われる時代が到来しています。
■ 「国債の信認」とは何か
国債とは、政府が発行する借用証書のようなもので、国の財政赤字を補うために発行します。投資家や金融機関などがこれを購入することで、政府は資金を調達します。したがって、国債が売れなくなる、つまり信認(信頼)を失えば、資金調達が困難になります。この「信認」が揺らいだ場合、市場が国債を買わなくなり、利回り(=金利)は急上昇します。結果として、政府の利払い負担が増し、他の重要な政策分野に財源を配分する余裕がなくなるという悪循環を生みかねません。
森山氏が危惧したのはまさにこの点で、日本の財政が信認低下のリスクと隣り合わせであるという現実を警鐘として鳴らしたと見ることができます。
■ 日本の財政状況と世界との比較
日本の財政状況を見ると、債務残高(国と地方を合わせたもの)はGDP比で260%を超えており、先進国の中では群を抜いて高い水準にあります。もちろん、これにはさまざまな要因があります。高齢化が進む中で社会保障費が増大していることや、デフレ脱却のための積極的財政措置が取られてきたことによる影響もあります。
一方で、これまで日本が大規模な財政赤字を抱えながらも、国債が安定的に消化されてきた背景には、国内投資家による保有が多かったことや、日銀による金融緩和政策の下での国債購入という“大きな支え”があったからです。
しかし、今後はその構図に変化が起きる可能性があります。世界的なインフレ圧力や金利上昇を受けて、日本も徐々に金融緩和政策からの転換が進む中で、これまでのように低利で国債を消化し続けることが困難になるかもしれません。
■ 財政健全化と成長戦略のバランス
では、信認を保つために財政健全化、つまり「借金を減らす」方向に進めばよいのでしょうか。現実はそう単純ではありません。
財政を引き締めると、短期的には経済成長に対する下押し圧力がかかり、ひいては税収の伸びを抑えることになります。特に社会保障などの公共サービスが切られることにより、国民生活に直接的な影響が出ることも避けられません。
したがって、重要なのは「いかにして財政の信頼性を保ちつつ、成長を確保するか」というバランスです。仮に税収を安定的に増加させることができれば、それだけ政府が財政に対して柔軟に対応できる余地が広がります。
その意味で、税制改革や歳出の見直しといった構造的な財政改革に加え、人への投資やイノベーション促進策といった経済成長戦略も合わせて進めていくことが求められます。
■ 求められるのは「着実で透明な政策運営」
森山氏の発言にも見られるように、今、日本の財政政策には「透明性」と「筋の通った説明責任」がこれまで以上に求められています。市場や国民に対して、どのような財政運営を行っているのか、将来的にどのような見通しを持っているのかを、分かりやすく説明することが、信認の維持には欠かせません。
特に、将来世代への負担をなるべく避ける、持続可能な財政の姿を描けるかどうかは、単なる財政技術の話にとどまらず、国のあり方にも関わる重要な課題です。
■ 国民全体の理解と対話が鍵に
財政について考えることは、つい専門的で難しいと感じてしまうかもしれません。しかし、すべての国民に関わる問題です。たとえば教育や医療、年金といった私たちの生活に直結した政策のほとんどが、公共財政によって運営されています。
また、将来的に安定した社会保障制度を実現するためにも、高齢化社会にふさわしい持続的な財政運営が求められます。それは政府や政治家だけでなく、私たち一人一人が関心を持ち、共に考えていくところから始まります。
■ まとめ:「ぎりぎりの評価」の意味を生かす
森山政調会長の「日本の国債評価はぎりぎり」という発言は、単なる批判や懸念表明にとどまらず、これからの政策運営に課された責任と課題を浮き彫りにしたものだと言えるでしょう。
確かに、日本の財政は高齢化や社会保障の充実という課題に直面する中で、抜本的な転換期を迎えています。しかし同時に、その中から新たな可能性やモデルを生み出すチャンスもあると考えるべきです。
財政の信認とは、単なる数字で評価されるものではなく、私たちがこの国の未来に対して持つ希望と信頼でもあります。その土台を築いていくための議論と行動こそが、今私たちに求められているのではないでしょうか。