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選挙も“推し活”の時代へ──若者が政治にワクワクする新しいカタチ

近年、若い世代を中心に「推し活(おしかつ)」という言葉が注目を集めています。これは主にアイドルやアニメのキャラクター、俳優など、個人やグループの「推し」を応援する活動を指し、日常生活の中に楽しみやモチベーションを与えてくれる存在として親しまれてきました。しかし最近では、この「推し活」の文化が選挙にも波及し、「選挙=推し活」と捉える若者が増えてきていると言われています。

この現象は単なる感覚的なトレンドにとどまらず、社会的な背景や世代間の価値観の違いとも深く関係しており、現代の若者が政治や社会にどのように関心を持ち始めているのかを知るうえで重要な視点を提供してくれます。

「選挙の推し活化」とは何か

「推し活」とは、好きな人物やキャラクターを応援する行動全般を指します。SNS上での応援投稿、限定グッズの購入、イベントへの参加など、その形は多様です。この「推し活」の概念が政治、特に選挙と結びつくと、「自分の推す候補者を応援する活動」という意味合いになります。

これは、例えば「この政策が素晴らしいからこの人を推す」「この候補者のビジョンに共感したから投票しよう」といった具合に、政治的・社会的に支持したい相手を「推し」として捉え、選挙に対してポジティブな関心を持って関与するスタイルです。

従来の政治参加は、「難しい」「よくわからない」「誰に投票しても変わらない」といったネガティブな印象を持たれることが多く、特に若年層の投票率の低さが課題とされてきました。しかし、この「推し活」的なアプローチは、推しを応援するのと同じようにワクワクしながら選挙活動に参加できる道を開きつつあるのです。

若者と選挙の新しい関係

かつて政治に関心がない世代と見られていた若者たちが、SNSを通じて徐々に社会問題に触れるようになっています。環境問題、ジェンダー平等、LGBTQ+の権利、教育、労働……。こうしたトピックに対する感受性が高まり、個人的なライフスタイルや価値観と社会の在り方をリンクさせて考える若者が増えてきました。

このような中、それぞれが共感する政治家や政党を「推し」として支持し、その存在をSNSなどで広めるという動きが見られます。例えば、「#〇〇さんに投票します」というタグを使って理由と共に投稿したり、演説を聞きに行ってその様子を写真付きで紹介したりするなど、まるでライブやイベントに参加するかのような盛り上がりを見せています。

これは一種の「ポジティブな政治参加」の形であり、自分が応援したい人物の活動を広め、票という形で支援しようとする行動です。こうした姿勢が強まることで、「選挙に行くのが当然」「推しを応援するには投票が最善の手段」という意識が醸成されていくのでしょう。

SNSと選挙意識の変化

SNSの存在は、「推し活」の拡大にも、そして「推し活的選挙参加」にも大きな影響を与えています。InstagramやX(旧Twitter)、TikTokなどのプラットフォームでは、候補者情報や政策の解説、街頭演説の映像などが日常的に流れています。

特にTikTokでは、政治家が自身の考えや人柄を軽やかに、あるいはユーモアを交えて発信する例も見られ、従来は距離を感じていた政治家への親近感が増していると感じる若者も多いようです。

また、フォロワー同士の共感や拡散も活発で、「この人を応援したい!」という輪が広がりやすくなっています。それと同時に、誤情報や感情的な対立を避けるための着実で正確な情報リテラシーも重要視されるようになりました。

社会的背景にあるもの

このように選挙が「推し活」化する背景には、現代社会のさまざまな要素が関係しています。

第一に、政治に関心を持ちたくても、情報が難解だったり生活とのつながりを感じにくかったという問題があります。しかし、「この人の政策は自分の将来にかかわる」と感じた瞬間から、関心は一気に高まります。その感情的なつながりを「推し」という言葉で象徴できる形になったのです。

第二に、コロナ禍による社会的孤独や不安が人々を「誰かを応援したい」という方向へと駆り立てた側面もあります。推し活は、共感と連帯感を得る手段として親しまれた文化となり、その延長線上での政治参加も自然な流れだったのかもしれません。

そして第三に、多様性が認められる社会的空気が醸成されつつあることが挙げられます。自分とは違う意見や生き方を尊重しながらも、自分が本当に良いと思うものを選択し、応援していくという価値観が広がっていることも、「推し活選挙参加」が成り立つ土台となっています。

今後の展望

もちろん、選挙が「盛り上がり」や「推し活」だけで進むことには慎重な考慮も必要です。政治は一時的なブームではなく、長期的な視点で社会を形づくるプロセスですから、感情に流された判断だけでなく、政策の中身や候補者の実行力も冷静に見ていく力が問われます。

しかし、第一歩が「推し活」であっても、そこから政策に関心を持ち、社会問題についての学びを深めることができれば、それは大きな進歩と言えるでしょう。

選挙に行くこと、誰かを応援すること、そして声を上げること。この3つが一つになった「推し活的政治参加」は、今後の民主主義を支える大きな柱となり得ます。

これまで「選挙に行こう」と言われてもなかなか踏み出せなかった人も、「私の推しを応援に行く」と考えればハードルはずっと下がります。もしかしたら、次の選挙であなたも「推し」を見つけて、政治にワクワクしながら関わることができるかもしれません。

私たち一人ひとりが社会のあり方に関心を持ち、楽しみながら参加していく。そうした動きが広がる未来は、決して遠くないはずです。