2025年に開催予定の大阪・関西万博に関連する建設工事をめぐって、下請け業者に対する工事代金の未払い問題が表面化しています。このような事態を受け、被害を受けた中小建設業者らが「被害者の会」を設立したことが報じられています。会は、代金の回収や再発防止に向けた取り組みを行うほか、同様の被害にあった業者間の情報共有や相談の場としても機能していく方針です。
この記事では、万博関連工事における代金未払いの実態、被害者の会設立の背景、建設業界の課題、そして今後の対応に至るまで、多角的にこの問題を読み解きます。
■ 発端となった未払い問題
大阪・関西万博は、開催地・大阪夢洲（ゆめしま）の大規模な開発を伴う国家的プロジェクトです。しかしその裏で、一部の建設業者による代金未払いが発生。一例として、ある施工会社（元請業者）が下請け業者に対して支払うべき工事代金約1億円超が支払われず、業者が資金繰りに行き詰まるという事態に発展しました。
この問題の中心にいる元請業者は、下請業者に対し「今後の仕事のため我慢してほしい」と説明を続けながら、数か月単位で支払延期を繰り返していたとされます。業者側にとっては工期に合わせた人員手配や材料費など、先行投資が大きく、未払いの影響は非常に深刻です。
■ 被害者の会が果たす役割とは
このような未払いに悩まされてきた複数の建設業者が連携し、「万博工事未払い被害者の会」を設立しました。これは全国各地の中小零細建設業者による自主的な取り組みであり、法的対処や行政への働きかけ、さらには他の同様の被害を防ぐための啓発活動を行っていくとしています。
「声を上げない限り、泣き寝入りになる」。本会に参加する業者の一人はそう語ります。未払い問題は以前から建設業界に存在していた構造的な課題でもあり、特に下請けに位置する中小業者にとっては、強い立場にないがゆえに請求の声をあげづらい現実もあります。被害者の会は、そうした業者間の連携を図ることで、社会的な注目を集め、問題の是正に向けた具体的な動きを促そうというものです。
■ 再発防止への課題と提言
このような未払い問題は、単に一社の不誠実な対応のみならず、建設業界全体における受発注の透明性の欠如、下請け構造の歪さ、契約管理の杜撰さなど、様々な要因が絡み合っています。
また、工事請負契約においては元請業者と下請業者間で適正な契約書面が交わされていないことも多く、そのことがトラブル時の証拠不十分や法的対応の困難さにつながりやすいという現状があります。こうした背景を踏まえ、制度的な改正や業界ルールの明確化、定期的な行政の監視強化が求められます。
たとえば、2022年に改正された建設業法では、下請業者との契約書面の作成や支払い期日の明示などが義務付けられていますが、実際の運用が追いついていないケースも多いのです。こうした規制の徹底と共に、行政機関による定期的な監査や、建設業者の契約実務スキルの強化支援などが、今後の重要な施策となるでしょう。
■ 万博プロジェクトへの信頼を守るために
大阪・関西万博は「未来社会の実験場」として国内外から高い期待を寄せられる一大イベントです。しかしその足元で起きている未払い問題は、プロジェクト全体の信頼にかかわる重大な課題です。これまでの計画や準備で関与してきた多くの人々の努力、そして何より市民の期待を裏切らないためにも、迅速かつ公正な対応が求められます。
また、地元経済への波及効果や雇用創出など、多くの利点がある万博。しかし、こうした国家プロジェクトが建設現場レベルでのトラブルによって傷つくのは避けなければなりません。被害者の声を丁寧に拾い上げること、そして一連の構造的課題に本気で向き合う姿勢が、今こそ求められています。
担当省庁や万博の主催団体は、未払い問題の調査と対処に乗り出す構えを見せており、事態の進展が待たれます。また、民間企業による問題解決も果たす役割は大きく、元請・下請を問わずすべての関係者が誠実かつ透明性のある取り引きを行うことが、長期的な健全性を担保するうえで不可欠です。
■ 最後に：ともに支え合う建設業界へ
建設業界は、国家のインフラ整備を支える社会の重要な基盤産業です。日々現場で働く技術者や職人たちの汗と努力によって、都市は発展し、社会の利便性は高まっています。
その一方で、下請業者が正当な対価を受け取れない状況が起きれば、その土台が崩れかねません。信頼関係に基づいた持続可能な業界の実現には、個々の声を届け合い、助け合う姿勢が不可欠です。
「被害者の会」の設立は、決して対立を煽ることが目的ではなく、問題の存在を可視化し、共に課題に向かうきっかけとなるものです。大阪・関西万博という未来志向のイベントの成功のためにも、関係者全体が連携し、健全な建設現場と信頼できる取引関係の構築に取り組むことが、今まさに求められています。
この問題に社会的な関心が高まることで、同様の悩みを抱える全国の中小企業にも勇気と力を与えることができるのではないでしょうか。正義ある行動が、次の世代への信頼ある未来を築いていくと信じたいところです。
