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小泉進次郎の農業改革に農林族が警戒感 ――揺れるJAと現場のリアル

自民農林族「小泉劇場」に警戒 - 農業政策を巡る静かな攻防

農業をめぐる政策の動向が、今改めて注目を集めています。特に自民党内部で影響力のある「農林族」と呼ばれる議員グループと、改革色を前面に出す小泉進次郎氏との間で、静かな緊張関係が生じていると報じられました。

背景には、小泉進次郎氏が、農業界の既得権益に切り込む姿勢を見せていることがあります。自民党の農林族議員は長年、農業従事者や農協(JA)などと密接な関係を築き、地域の声を国会に届ける役割を果たしてきました。これは日本の農業を守る視点から見れば重要な取り組みとも言えますが、その一方で、変化の激しい時代において制度や慣習が硬直化しているのではないかとの指摘も少なくありません。

小泉進次郎氏といえば、環境大臣を務めた際に象徴的なキャッチフレーズやメッセージ性の強い発信で注目を集め、“小泉劇場”とも称される発信力を通じて国民の意識を喚起してきた人物です。そんな小泉氏が次のターゲットに据えたのが農業改革。彼は、農協制度の見直しや新たな技術導入による効率化、多様化した食のニーズに応じた柔軟な仕組み作りの必要性などにも言及しています。

しかし、これが農林族の議員らにとっては「警戒すべき動き」となっているようです。報道によれば、農林族は、地域農業を支え続けてきた農協などの仕組みがいきなり刷新されることにより、現場が混乱し、かえって農業従事者が立ち行かなくなるのではないかと懸念しています。また、小泉氏の発信はメディアを通じて広がりやすく、「改革を進める若手 vs 抵抗する古株」という単純な構図で語られることにより、農林族側が悪者のように見られてしまうリスクも否定できません。

こうした構図を正しく理解するためには、農業政策をめぐる構造的な問題や、関係者の思惑を冷静に捉えることが必要です。まず、日本の農業の現状を見てみると、高齢化や後継者不足、耕作放棄地の増加など、深刻な課題が山積しています。加えて、国際化の波により、日本の農業も競争力強化を迫られており、生産性向上は避けられない現実です。こうした中で、デジタル技術やAI、ドローンなどの革新的技術を活用した「スマート農業」の導入が期待されている一方、それらを現場でどう浸透させるか、誰がそれを支援するのかが議論の焦点となっています。

ここで注目されるのが、農協を中心とした従来の支援体制と、小泉氏が提案するような“開かれた仕組み”との違いです。農協は、農家が資材を低コストで共同調達したり、販路を確保したりするうえで欠かせない存在です。とりわけ中山間地域ではJAの果たす役割は非常に大きく、農業と地域コミュニティを支える「インフラ」ともいえるでしょう。一方、小泉氏が示唆する方向性は、より多様な担い手、たとえば若手農業者、ベンチャー企業、IT企業などが農業分野に参入しやすくなるような規制緩和や支援拡充を通じて、“新しい農業エコシステム”を作るというもので、こちらも合理的な視点を含んでいます。

このように、単なる保守と改革の対立ではなく、「伝統を守りながらどう柔軟に変えていくか」という命題に、農林族と小泉氏の双方が向き合っていることになります。

現在の議論では、例えば農協改革に関して、農協が抱える共済事業のシェアと、それに伴う経済的影響もクローズアップされています。改革が進みすぎれば、共済の安定運営に不安が生じ、地域住民へのサービス提供に影響が出かねません。また、高齢化が著しい農村部では、現在でもインターネット環境が十分でない地域が多く、デジタル化による効率化といっても、現場には相応のサポートがないと逆に不便になることも現実的な課題です。

そうした中で、求められるのは「対話」ではないでしょうか。小泉氏が主張する未来志向の改革も、農林族が守ろうとする現場のいのちを大事にする価値観も、いずれも農業を大切にしたいという根本的な思いには変わりありません。異なる立場から出発した議論が、お互いを否定し合うのではなく、真の改善につながるような案に昇華されることが求められます。

私たち国民もまた、このような議論に関心を持ち続けることが大切です。農業は単に食料を供給する産業としてだけでなく、環境保全や地域コミュニティの維持、日本の伝統文化の継承という点でも極めて重要な役割を果たしています。スーパーで並ぶ野菜やお米の背景には、数えきれないほどの人々の努力があります。その現場がどう変わろうとしているのか、またどこを守ろうとしているのかを、メディアの報道を通じて理解し、できることから関心を持っていくことが、ひいては持続可能な農業と社会の構築につながっていくのではないでしょうか。

農業政策は、日本の「食」と暮らしを根底から支える、最も重要な政策の一つです。今後も国会や地域での議論の行方を注視し、政治家だけでなく、私たち一人一人が自分事として捉えていく必要があります。農業を守り、育て、次世代に引き継ぐために、声を上げるべきは現場だけでなく、広く社会全体なのです。