2024年4月、高知県内に住む70代の女性が、マダニにかまれたことが原因で重症熱性血小板減少症候群(SFTS)を発症し、亡くなるという痛ましい出来事が報じられました。このニュースは自然や動物との共生が当たり前となっている日本の多くの地域において、マダニの危険性への意識を改めて喚起するものとなっています。
この記事では、今回の事例をきっかけに再度注目が集まっているSFTSやマダニに関する情報、予防策や注意点について詳しく解説し、みなさまが安全に日常生活を送るために知っておきたいポイントを紹介します。
■ 高知県で確認されたSFTSによる死亡例
高知県によると、今回亡くなった70代の女性は、3月下旬に体調不良を訴えて医療機関を受診し、SFTSと診断されました。その後、病状が悪化し、残念ながら治療のかいなく亡くなったとのことです。医師の所見や症状から、女性がマダニに咬まれてSFTSウイルスに感染したと考えられています。
高知県内では2024年に入ってから、すでにこの女性を含む3人のSFTS感染が確認されており、県の衛生当局は草むらや山林に入る際に注意を呼びかけています。
■ SFTSとは?知られざる感染症の脅威
重症熱性血小板減少症候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome、略してSFTS)は2011年に中国で最初に報告された新しいウイルス性疾患で、日本では2013年以降、主に西日本を中心に毎年一定数の感染例が報告されています。
SFTSは、SFTSウイルス(ブニヤウイルス科)によって引き起こされ、マダニに咬まれることでヒトに感染します。潜伏期間は6〜14日程度とされ、感染すると以下のような症状が引き起こされます。
・発熱
・嘔吐(おうと)
・下痢
・食欲不振
・腹痛
・意識障害
また、重症化すると血小板や白血球の減少により出血傾向が現れ、場合によっては多臓器不全などを引き起こすこともあります。
日本国内では2023年までに累計で800人以上が感染し、そのうち約20%が亡くなっていると言われており、致死率の高い感染症です。高齢者や基礎疾患を持つ人ほど重症化しやすい傾向があるため、特に注意が必要です。
■ マダニとは?身近に潜む小さな脅威
マダニは、森林や草地、畑、公園などの自然環境に広く生息しています。春から秋(特に5~10月)にかけて活動が最も活発になり、人やペットなどの体に忍び寄って咬みつきます。うっかり草むらに入ったり、山に入ったりすると、気づかぬうちにマダニが衣服や皮膚についてしまうことも珍しくありません。
マダニはノミや通常のダニ(ハウスダストに関係するダニ)とは異なり、吸血するために皮膚にしっかりと噛みつきます。また、その口器の構造上、一度咬みつくと自分からはなかなか離れません。
マダニの多くは無害とされていますが、一部の個体がSFTSウイルスや日本紅斑熱、ライム病などの病原体を保有しており、人間に対して重大な健康被害をもたらす可能性があります。
■ 予防のポイント:マダニに咬まれないためには?
SFTSのようなマダニが媒介する感染症を防ぐためには、まずマダニに咬まれない対策がとても重要です。以下の予防策を覚えておきましょう。
・肌の露出を避ける服装を心がける
山や草むらに入る時は、長袖・長ズボンを着用し、首元や袖口、ズボンの裾からマダニが侵入しないよう、服の中にしまうようにしましょう。手袋や帽子、長靴なども効果的です。
・虫除けスプレーの使用
ディート(DEET)やイカリジンといった有効成分を含む虫除けスプレーを肌や衣服に使用することで、マダニの接近を防ぐ効果が期待できます。
・キャンプや芝生での衣類管理
地面や草の上に直接座ったり、衣類やタオルを放置したりしないようにしましょう。マダニが服に付着する可能性があります。
・帰宅後のチェックとシャワー
屋外で過ごした後は、マダニがついていないか体をよく確認しましょう。特に、わきの下、足の付け根、耳の後ろ、膝の裏などマダニが寄生しやすい場所は念入りにチェックし、場合によっては家族に確認してもらうのも効果的です。すぐにシャワーを浴びて洗い流すのも有効です。
■ もしマダニに咬まれてしまったら?
マダニに咬まれてしまった場合、無理に引き剥がそうとするとマダニの頭部が皮膚に残ってしまい、炎症や感染症のリスクが高まります。マダニが皮膚に付着しているのを発見した場合は、手で引っ張らずに、できるだけ早く医療機関で適切に除去してもらうことが大切です。
また、マダニに咬まれたあと数日~2週間以内に発熱、下痢、嘔吐などの症状が見られた場合は、すぐに病院を受診し、マダニに咬まれたことを医師に伝えるようにしましょう。早期発見・早期治療が重症化を防ぐ鍵です。
■ 今後の課題と私たちにできること
SFTSはまだ特効薬がなく、対症療法による治療が中心であるため、予防が最も有効な手段です。また、温暖化や環境の変化によりマダニの生息範囲が広がりつつあるとも言われており、これまでマダニの被害が少なかった地域においても警戒が必要です。
特に、高齢者世代が自然と触れ合う機会が多い家庭菜園や山歩きなどの際には、マダニ対策を意識的に取り入れることが大切です。家族や周囲の方々にもマダニの危険性や予防方法を共有し、地域全体でリスクを減らしていくことが望まれます。
■ まとめ
今回、高知県で発生した70代女性のSFTSによる死亡は、非常に残念で痛ましい出来事です。しかし、同時に私たち一人ひとりが自然の中でどう行動し、どう自分自身や大切な人の身を守っていくかを考える貴重な機会とも言えます。
マダニはどこの地域にも潜んでいる可能性があるため、自分には関係ないと思わず、日常のちょっとした散歩や庭仕事の際にも意識を高め、安全に過ごすための行動を心がけましょう。
自然を楽しみながらも、リスクを認識し、正しい知識と備えで自分自身と家族を守っていくことが、これからの季節に求められる姿勢です。