沖縄県・西表島(いりおもてじま)は、手つかずの自然と豊かな生態系を誇る日本最南端の有人島のひとつとして知られています。しかし、そんな美しい自然に囲まれたこの島で、地元の人々の生活を支える農業、特に稲作に深刻な影響が出ています。最近の報道によると、西表島産の米5キロがなんと6,500円という価格で販売されているというのです。これは、一般的な国内産米の価格と比べて2倍以上。なぜ西表島のコメがそこまでの高値になっているのでしょうか。この記事では、その背景にある西表島の農業の現状や苦悩、そして未来へ向けた取り組みなどをわかりやすくご紹介します。
西表島とはどんな島?
西表島は、沖縄県八重山郡竹富町に属し、約2,400人が暮らしています。亜熱帯の豊かな自然が残り、マングローブ林や貴重な野生生物など、唯一無二の生態系を有しています。「東洋のガラパゴス」と称されることもあるほど、その自然は多様で貴重です。
この地域は、2021年に「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」として世界自然遺産にも登録されました。観光業が発展している一方で、伝統的に米や野菜、果物の農業も生活の基盤として根づいてきました。
離島ならではの厳しい環境
西表島では、年に1回、1種類の主食米「ひとめぼれ」を作付けし、10月下旬から12月にかけて収穫します。島の農家にとっては、この1回の収穫がその年の米のすべてを担うため、大変重要です。
しかし、今年に入りその収穫量が大きく落ち込みました。というのも、2023年の夏~秋にかけて降水量が極端に少なく、深刻な水不足となったのです。貯水タンクに水が十分溜まらず、水田への灌漑(かんがい)が困難となったことで、コメの実が入りにくくなり、収穫が例年の半分以下にまで減少してしまいました。
また、西表島は離島であるため、肥料や農薬、燃料といった農業資材はすべて本土から海上輸送によって届けられます。近年は円安や燃料費の高騰により輸送コストが急増。それに加えて、資材そのものの価格も上がっており、農家の負担は増す一方です。
高騰する米の価格
これらの要因が重なり、結果として西表島で収穫される米の価格が大きく上昇しています。現在、5キロで6,500円という販売価格は、島内で採れた貴重な米を維持するためにはやむを得ない現実です。
一見すると「高すぎる」と感じるかもしれませんが、これは農家の努力によってやっと成り立っている価格とも言えます。田んぼに使う水を買っていれたり、限られた人手で農作業を担う中で、農家の方々がどれほど苦労して米作りを続けているのかを想像すると、その価値は単なる「価格」以上のものと言えるかもしれません。
それでも、「西表島産の米はおいしいから買いたいけれど、価格が気軽に手を出せるものではない」という消費者の声もあります。生産者側も「できればもっと手頃な価格で届けたい」という思いを持っていますが、この厳しい自然環境とコスト構造の中で葛藤が続いているのが現実です。
農家を支える思い・持続可能な未来に向けて
農業を支えているのは、もちろん農家の方々ですが、それを支える消費者の存在もまた大きな意味を持っています。高価になってしまっているからこそ、島外の消費者からの「応援買い」的な需要も増えてきています。
また、地元の農家や関係者の中には、持続可能な形で生産を続けていくための模索も始まっています。たとえば、灌漑用の水を確保するために、より効果的な水管理方法の導入を検討しているところもありますし、適応力の高い品種への切り替え、新しい栽培手法の研究といった取り組みも進行中です。
さらに、観光業との連携による6次産業化も注目されています。つまり、単なる農産物の出荷だけでなく、観光の中で西表島の農業体験を提供したり、地元産品を活用した食体験を提供したりすることで、付加価値を生み出す方向です。
食卓がつながるということ
私たちが普段何気なく口にする一杯のごはんに、これほどまでに多くの人々の努力と自然との向き合いが込められていることを考えると、食べ物のありがたみを改めて感じさせられます。
地元に根差した生産者が、どのような思いで作物を育てているのか。どれほど自然と真剣に向き合っているのか。それを知ることで、私たちの食卓がぐっと豊かになっていくのではないでしょうか。
西表島のコメが高価である背景には、ただの価格の問題ではなく、自然環境、物流コスト、人手不足、資材高騰など、さまざまな課題が複雑に絡み合っています。
だからこそ、その価格の裏側にある事情を知り、応援の気持ちとともに選ぶことは、消費者にできる大切なアクションの一つかもしれません。持続可能な農業の未来を守るために、私たちにできることは何かを今一度考えてみたいですね。
結びに
地域の農業が直面している課題は、そのまま日本の農業全体に通じる問題でもあります。高齢化や労働力不足、気候変動による影響など、農家を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。そんな中でも、粘り強く、美味しい米を私たちの元へ届けてくれる農家の存在に、感謝と敬意を持って接していきたいものです。
西表島のコメ5キロ、6,500円という価格。それは単なる数字以上の意味を持つ、島の自然と人々の物語が詰まった値段なのです。