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OJTだけでは若手は育たない――離職を防ぐために企業が見直すべき育成の本質

近年、多くの企業が若手社員の離職率の高さに頭を悩ませています。一見、採用活動は順調に進んでいるように見えても、実際には数年で辞めてしまう若手社員が後を絶たないという状況が続いています。その背景にはさまざまな要因がありますが、今回注目したいのは「OJT(On the Job Training:職場内訓練)」に過度に依存している日本企業の教育体制です。

Yahoo!ニュース(2024年4月掲載)の「OJTに偏る企業 なぜ若者定着低い」という記事では、若手社員の定着率が低い背景として、企業側の育成方法の問題点に焦点が当てられています。この記事が明らかにしているのは、OJT一辺倒の育成方針が、若者にとっては成長実感を得られにくく、将来への不安を増幅させてしまっているということです。本記事では、この問題を掘り下げ、より多くの企業が若手人材の定着に向けて意識すべきポイントについて考えていきます。

OJTとは何か? そのメリットと課題

まずOJTとは、職場内で上司や先輩が直接、業務を通じて指導する教育手法です。新入社員が実際の仕事を体験しながら学べるため、より実践的で即戦力となりやすいというメリットがあります。座学だけでは学べない現場特有の知識やスキルを身につけるうえで、非常に有益な方法として長年重宝されてきました。

しかしながら、OJTには明確なカリキュラムがなく、教える側のスキルや人間性に大きく左右されるという問題点があります。特に、ベテラン社員自身が忙しく、育成に十分な時間を割けない場合や、教えることに不慣れな場合には、適切な指導が行われず、若手社員が戸惑いや不安を感じる原因となります。

また、成長の手ごたえが感じられない環境では、「自分はこの会社でキャリアを築いていけるのか」という疑念が生まれやすくなります。その結果、若手社員の会社に対する信頼や愛着が築けないまま、離職という選択肢を現実的に考えるようになってしまうのです。

若者の価値観と教育ニーズの変化

近年の若手社員、とりわけZ世代と言われる世代は、仕事を通じて自分の成長を実感したい、自分のキャリアを長い目で見て育てていきたいという希望を強く持っています。また、成果や成長が見える化されることを重視する傾向があり、「やりがい」や「成長実感」が不明瞭な職場環境に不満を感じやすい傾向があります。

また、自分の価値観やビジョンを大切にし、会社の方針や育成制度とも整合性が取れていることを期待しています。そうした中で、型にはまったOJTだけに依存した育成体制は、こうした若者のニーズとのミスマッチを生み出してしまうのです。

さらに、若手社員の中には、会社の中での役割や意義を明確にしたいという思いがあります。しかしOJTにおいては、受動的に業務をこなすことが中心となり、自らのキャリアビジョンと結び付けるのが難しいと感じることが少なくありません。

なぜOJTに偏るのか?企業の事情

OJT偏重の背景には、企業側の人手不足や教育リソースの不足という現実的な課題があります。特に中堅・中小企業では、体系的な研修プログラムを構築する余裕がない場合も多く、「現場で学んでほしい」「まずはやってみて覚えて」というスタンスに依存せざるを得ないという実情もあります。

また、過去の成功体験に基づいた「自分たちもOJTで育ったのだから、新人もそれでよいはずだ」という考えが根強く残っている企業も少なくありません。しかし、時代は変わり、若者の働き方や考え方も大きく変化しています。過去のやり方が必ずしも現在も通用するとは限りません。

企業に求められる新しい育成の視点

従来型のOJTに頼らず、体系的に若手社員を育成するにはどうすればよいのでしょうか。ここではいくつかのポイントに注目してみたいと思います。

① オフJT(Off the Job Training)の活用

オフJTとは、現場を離れて行う集合研修・講義・eラーニングなどの教育手段です。OJTでは扱い切れないような、業界知識や論理的思考、プレゼンテーションスキルなどを補完する役割として非常に有効です。OJTとオフJTをバランスよく組み合わせることで、実践と理論の両輪から成長を促すことができます。

② メンター制度の導入

若手社員にとって、業務面だけでなく精神的な支えとなる存在も非常に重要です。直属の上司とは別のメンターを設定し、気軽に相談できる環境を整えることで、悩みや不安を早期に解消することができます。また、メンター制度は若手育成だけでなく、社内コミュニケーションの活性化にもつながります。

③ キャリアパスの可視化

若手社員が自らの成長や将来像を明確に描けるように、キャリアパスを提示することも重要です。「5年後にはこのポジションに挑戦できる」「このスキルを習得すると次のステップに進める」など、成長の道筋を見せることで、社員のモチベーションが向上し、定着率にも繋がります。

④ フィードバック文化の醸成

定期的な評価やフィードバックを通して、社員の努力や成長をしっかりと認識する文化を作り出すこともカギとなります。特に若手社員は成果に対するリアクションを求める傾向が強いため、こまめな振り返りや感謝の言葉が効果を発揮します。

おわりに

若手社員の早期離職の背景には、単に本人の意識や努力不足があるわけではありません。企業側の育成体制、特にOJT偏重による歪みが、彼らの可能性を十分に引き出せなくしていることが多くあります。時代の変化や若者世代の価値観を理解し、それに応じた柔軟な教育制度を築くことが、これからの持続可能な企業経営にとって不可欠です。

企業は、若手社員を“育てる対象”から“共に成長するパートナー”として捉える意識改革が必要です。そして、OJTだけに頼らない多角的な育成方法を取り入れ、全社的に「人を育てる文化」を育んでいくことが、真の意味での人材定着、ひいては企業成長への第一歩となることでしょう。