日本社会における家族のあり方が見直される中、「選択的夫婦別姓制度」をめぐる議論が再び大きな注目を集めています。2024年5月30日、衆議院において、いわゆる「別姓法案」の審議がついに開始されることが各党の間で合意されました。この法案の審議入りは長年にわたって議論され続けてきたテーマであり、家族制度、ジェンダー平等、個人の尊厳といった社会的価値観に関わる重要な節目として、多くの国民の関心を集めています。
この記事では、別姓法案の背景、現在の法制、賛否のポイント、そしてこれからの社会における意味について、わかりやすく整理・紹介していきます。
別姓法案とは何か?
「別姓法案」とは、結婚する際に夫婦が同じ姓を名乗ることが法律で定められている現行民法の規定を見直し、希望すれば結婚後もそれぞれが旧姓、すなわち元の姓を名乗ることを認める制度、すなわち「選択的夫婦別姓制度」を導入するための法案です。この制度が導入されれば、結婚しても夫婦が異なる姓を名乗ることが可能になり、「同姓か別姓か」の選択肢が法律上明確に認められることになります。
日本では、民法第750条により、結婚に際して夫婦のいずれかの姓を選び、同じ姓を名乗ることが求められています。多くの場合、慣習的に女性側が改姓するケースが多いため、改姓によるアイデンティティの喪失やキャリア上の不利益などの問題が指摘されてきました。
長年の議論と社会的背景
選択的夫婦別姓制度の導入をめぐっては、1990年代から継続的に議論が進められてきました。1996年には法務省の法制審議会が民法改正を答申し、別姓制度の導入を提案していましたが、その後の法改正には至りませんでした。背景には、家族の一体性や「伝統的な家族観」といった価値観に根ざした慎重な意見も多く、政治的な合意形成に至るまでに時間を要してきました。
平成から令和へと時代が移る中で、社会の価値観は徐々に変化してきています。男女平等の推進、個人の尊重、多様性の受容が社会の基本的なあり方として求められるようになり、それに伴って選択的夫婦別姓制度に対する理解と支持も広がりを見せています。
キャリアとアイデンティティの問題
結婚による改姓は、特に職業上での姓名の一貫性が重要となる業種において、大きな問題となるケースがあります。たとえば研究者、医師、芸術家、ビジネスパーソンなど、長年培ってきた名前での実績や信用が改姓によって紐づかなくなるリスクがあるのです。また、公的な書類の変更手続きや、名義変更によるコスト、精神的な負担も見過ごせません。
一方で、家庭内における苗字の統一が、子どもの姓をどうするかといった問題につながるため、別姓の導入によって新たな課題が生じるとの指摘もあります。だからこそ、この制度はあくまで「選択的」であり、すべての夫婦に別姓を強制するものではなく、希望する夫婦がそれぞれの姓を保持できるようにするものである点が重要です。
各国における制度比較
日本は先進国の中でも夫婦同姓を法律で義務付ける唯一の国とされています。欧米諸国をはじめ、韓国や中国などのアジア諸国においても、結婚後に姓を選択できる制度が広く導入されています。特に選択肢がある制度は国際結婚や、グローバルなビジネスにおいても柔軟な対応が可能となるとされ、日本の制度がもはや国際基準とかけ離れているという意見も強まっています。
直近の進展と今後の見通し
今回の審議入りは、与野党の議員から提出された複数の法案をベースに、国会の場でそれぞれの立場から建設的な意見を交わし、合意形成を図っていく第一歩です。法案の中には、婚姻時に戸籍を一本化せずとも法的な夫婦とするモデルや、子の姓をどう定めるかについての具体的な制度案なども含まれています。
国民の意見も分かれる中で、審議では市民の声を丁寧にすくい上げ、多面的に検討を重ねることが求められます。制度の内容にもよりますが、今国会での成立をめざす動きも本格化しており、場合によっては2025年以降、法改正が現実のものとなる可能性があります。
変わる家族観、変わる社会
選択的夫婦別姓という制度は、「結婚とは何か」「家族とは何か」といった根本的な問いにも関係する、新しい暮らし方、生き方の模索に通じるテーマです。現代社会では、ひとり一人の生き方や家庭のかたちは多様化しています。それを反映した法制度の整備こそが、これからの社会における重要な課題とされています。
「同姓でありたい」という思いも、「別姓を望む」という声も、どちらも対立するものではなく、互いに認め合い、共存することで、より広く、柔軟な家族のかたちが社会に広がっていくのではないでしょうか。
まとめ:選択肢が社会を豊かにする
これからの日本においては、多様な価値観を受け入れる包容力と、個人の生き方を尊重する社会制度がますます求められていきます。選択的夫婦別姓制度は、まさにその象徴とも言える制度と言えるでしょう。この制度の導入により、結婚する人々が自分自身の名前を選べる自由と共に、相手との絆を結ぶ新たな形が生まれるかもしれません。
5月30日からの国会審議が、そのような未来を築く第一歩となることを期待し、私たち一人ひとりが制度の意味を考え、社会の変化に向き合っていくことが必要です。これを機に、「夫婦のあり方」や「家族の絆」について、家庭内で、職場で、そして社会全体で改めて考える良い機会となることを願っています。
誰もが自分らしく暮らし、平等に機会が与えられる社会を目指して、今後の審議とその結果に注視していきましょう。