日本のコメ農業に何が起きているのか?—「ほぼ規格外のコメ 品質にプロ怒り」から見える現状と課題
近年、日本のお米の品質に対して、食のプロフェッショナルたちからある「異変」に対する怒りの声が上がっています。2024年5月に報道された「ほぼ規格外のコメ 品質にプロ怒り」というタイトルの記事が、SNSやニュースサイトで大きな注目を集めています。この記事は、コメの品質劣化が例年に比べて著しく、「規格外」とされるほどの状況にあること、そしてそれが食に従事する人々に深刻な影響を及ぼしているという内容でした。
日本人の食卓に欠かせない主食である「お米」。その品質が変わるということは、消費者だけでなく、生産者、小売業者、外食業界など、あらゆる関係者にとって大きな問題です。なぜ今、プロたちがコメの品質に怒りの声を上げているのか。本記事では、その背景や原因、そして今後に向けた課題と希望について考察します。
1.規格外のコメとは—「等級制度」とは何か
日本のコメには、日本穀物検定協会が定めた「等級制度」があります。農産物であるため、毎年収穫される米はその年の気候や生育状況によって品質が異なります。そこで「1等米」から「3等米」、「規格外」といった形で等級が分けられ、大きさや形状、胴割れ(お米が割れているかどうか)、異物混入の有無などで判定されます。
特に「1等米」は、外観や味の面でも優れており、一般消費者がスーパーなどで購入する際に「美味しい米」として売られることが多いです。一方、規格外とは、等級制度上、品質上の問題からいずれの等級にも該当しない、いわば「市場に出すには不適」とされる品質の米のことを指します。
問題は、2023年度産の令和五年米で、この規格外の比率が異常に高くなっているという点にあります。
2.今年の米に訪れた異常気象とその影響
農業にとって、気候は生命線です。特に稲作は気温、水量、日照など、非常に繊細な条件によって成長が左右されます。記事によると、昨年(2023年)は記録的な猛暑となり、この高温が稲にとって大きなストレスとなり、米粒の充実不良や胴割れが多発しました。例年に比べて「白未熟粒」と呼ばれる、透明感がなく粉をふいたような白濁した米が増えてしまったのです。これは粒が十分に実っていないことにより、水分や栄養が不足した状態を指します。
さらに、このような白未熟粒が混入すると、見た目だけでなく味や食感にも影響を与え、炊いたときに粘りがなくなったり、柔らかすぎたりすることがあります。このため、食のプロフェッショナルが扱うには適さず、契約から外れてしまうこともしばしば起きているとのことです。
3.飲食業界や小売業者の困惑と現場の声
外食産業や食材を扱うプロたちは、コメの品質にシビアな目を持っています。味覚の研ぎ澄まされた料理人たちにとって、米のわずかな食感や風味の違いは、料理全体の評価に直結します。記事では、ある飲食店店主が「届いた新米が、見た目にも味にも問題があった」と嘆いていたことが紹介されています。
そしてもう一つの側面として、飲食店だけでなく、高級弁当店や和食店など、顧客の期待に応える味が求められる現場では、「この品質の米では商売にならない」といった切実な声も上がっています。消費者との信頼関係が問われるなかで、品質が安定しないことは大きな痛手になるからです。
また、スーパーや食品量販店などでも、ブランド米として扱われるはずの米が、等級の問題から安く叩き売られる事態になっており、生産者の収入減にもつながっています。
4.農家の苦悩と挑戦—「良品」を目指す努力
コメの品質が低下したとはいえ、それは必ずしも生産者の責任というわけではありません。気候に依存する農業の世界では、異常気象に対してできることは限られており、多くの農家は品種改良や栽培方法の工夫によって、可能な限り品質を維持しようと懸命の努力を続けています。
例えば、暑さに強い「高温耐性米」の開発が進んでおり、具体的には「つや姫」や「ゆめぴりか」といったブランド米で、こうした品種改良が少しずつ浸透してきています。また、田植えの時期を少し早める「早植え」や、日照を調整するためのネット使用なども取り入れられています。
それでもなお、天候次第で全体の収穫と品質が大きく左右されるという現実があり、「毎年美味しいお米を育てる」ことの難しさに、農家は日々向き合っています。
5.消費者ができること—品質の「背景」に理解を
私たち消費者も、こうした「今年のお米はいつもと少し違うな」と感じたら、その背後にある農業の厳しさや、自然環境の変化に思いを巡らすことが大切です。決して質の低下を容認するという意味ではなく、異常気象によって生産者もまた苦境に立たされているという現実を知ることで、より豊かな食のあり方が生まれるはずです。
また、農家直送の米を選ぶ、実際に食べ比べてみる、農産物マルシェを訪れるなど、消費者がコメの“顔”を知る機会は今やさまざまにあります。「なぜこの価格なのか」「なぜ見た目が違うのか」という背景を理解することで、食材選びもより豊かなものになるでしょう。
6.温暖化と日本の食文化への影響—今求められる視点
お米の品質問題は、まさに温暖化という地球規模の課題の一部です。今後も高温傾向が進めば、根本的な対応が求められます。品種改良だけでは時間がかかりますし、農家の労働力も年々減少している中、自然任せの農業から持続可能な農業へと移行する必要性が叫ばれています。
自治体による助成金、研究機関との連携、新しい農法の導入、そして何よりも「消費者からの応援」が、農業を支える大きな原動力となります。日本の豊かな食文化を未来に残すには、私たち一人ひとりの意識変革もまた大きな意味を持つのです。
まとめ
「ほぼ規格外のコメ 品質にプロ怒り」という衝撃的なタイトルから見えてきたのは、気候変動が日本の稲作に与えている深刻な影響と、食の現場で起きている混乱でした。しかしそれと同時に、農業関係者のたゆまぬ努力や、より良い未来に向けた希望の芽も感じられます。日本人にとって、お米は単なる食材以上に、文化や心の拠り所でもあります。
いま一度、「いただきます」という言葉を噛みしめながら、食の背景や、自然とのかかわりを見つめ直してみませんか。それは、何よりも私たちの暮らしを豊かにする一歩になるはずです。