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古米はおいしい——農水相の試食が照らす「備蓄米」の新たな価値

農林水産省が保有する備蓄米の中でも、すでに長期間保管されている「古米」が注目を集めています。2024年4月、小泉龍司農林水産大臣が記者団に対し、農水省が保管している古い米について「非常においしかった」と語り、その品質の良さをPRしました。「備蓄米」は災害などの非常時に備えて国が一定量を貯蔵しているもので、通常は年数が経過するにつれて品質が劣化すると考えられてきましたが、今回小泉大臣が試食した古米の評価がそれを覆すものとして話題になっています。

この記事では、小泉農相の発言がなぜ注目されたのか、政府による備蓄米制度の仕組みや、その活用の可能性、そして私たちの食卓に与える影響などについて詳しく解説していきます。

備蓄米とは何か?

備蓄米とは、政府が食糧安全保障の一環として全国に備蓄している米のことです。万が一の大規模災害や不作、国際的な輸出入の停滞などに備えて、安定的に国民に食料を提供するために保有されています。この制度は「国家備蓄」とも呼ばれ、農林水産省の主導のもと、全国の指定倉庫に保管されています。

備蓄米の多くは収穫後すぐに乾燥・精米され、適切な温度・湿度管理のもとで保管されます。概ね3~5年ごとに入れ替えが行われ、期間が経過した米は、学校給食や福祉施設、食料支援団体などに活用されるほか、場合によっては家畜の飼料や加工用として利用されることもあります。

古い米はまずいという先入観

「古米」と聞くと、多くの人が「味が落ちる」「ぱさぱさしている」といったネガティブなイメージを抱きがちです。確かに、長期保存されたお米は水分が減少し、炊き上がりの風味や食感に違いが生じる場合があります。しかし、保存環境が整っていれば、品質の劣化を最小限に抑えることが可能であり、適切に炊飯すれば十分においしく食べられるのです。

そうした中で、小泉農相が「古米を食べてもおいしかった」と率直に語ったことは、一般に抱かれやすいイメージを再考する契機になっているといえるでしょう。

農相の試食体験

小泉龍司農相が試食したのは、農水省が備蓄している、すでに3年が経過した米だといいます。2024年4月に行われた政府備蓄米の活用に関する会議の席で、実際にその米を炊き、食べたところ、「思っていたよりもおいしく、これだけの品質が保たれていることに驚いた」と語りました。

特に注目すべきは、備蓄米の保管方法の進化です。低温倉庫による保存や、酸化を防ぐパッケージ技術の向上により、香りや味わいの保持が向上し、古米特有の匂いや味の劣化のリスクが軽減されているのです。

こうした技術と行政の努力によって、数年経った米でもおいしく食べられるという事実が、ますます多くの国民に知られるようになることは、フードロスの観点からも非常に意義深いといえるでしょう。

食品ロス削減にもつながる新たな視点

近年、食品ロスは国家的な課題として注目を集めており、消費者にもその意識が高まりつつあります。そんな中、賞味期限前だから・見た目が完璧ではないからといった理由で大量の食品が廃棄されている現実に、多くの人が疑問を持ち始めています。

今回のように、「数年経過しても美味しく食べられる備蓄米」が広く認知されれば、「古いから廃棄する」というこれまでの固定観念を打ち破る一歩になるかもしれません。行政主導で試食体験を実施し、その客観的な評価を積極的に発信している点も非常に有意義です。

また、フードバンクやこども食堂など、社会的支援を必要とする団体に対しても、備蓄米の有効活用は大きな助けになります。安全かつ十分な品質が確認されている米であれば、安心して食べることができます。

市民への啓発と食育への活用

小泉農相は、「できれば国民の皆さんにも広く知っていただきたい」と述べ、多くの人が自分の目と舌で古米の品質を確かめる機会を作るべきだと訴えています。これは、単に行政の透明性という意味だけでなく、食育(=食に関する正しい知識と判断力を育む教育)の観点からも非常に重要です。

例えば、学校給食や地域のイベントなどで古米を試食してもらい、味や食感について考える機会を設けることは、子どもたちや地域住民に食の多様性や大切さを伝える良いきっかけになります。また、米づくりがいかに手間ひまと愛情を要する仕事であるかを知ることで、食材への感謝の心も育まれるでしょう。

今後の課題と展望

とはいえ、すべての備蓄米が同じ品質で保たれているとは限らず、年代や品種、保管場所によってばらつきはあります。したがって、「備蓄米の有効活用」を進めていくには、保存方法のさらなる標準化、流通の効率化、そして消費者への適切な情報発信が重要になります。

また、精米してから時間が経過したお米の場合、炊飯時の工夫(長めの浸水や水分量の調整など)によって味が大きく変わることもあります。「古いからまずい」ではなく、「どう調理すればおいしくなるか」を考える姿勢が、今後ますます求められていくのではないでしょうか。

まとめ

今回の小泉農相の試食発言は、国民の「古米」に対する見方を一新する、大きなインパクトを与えました。備蓄米というと、非常時にしか使われない、品質に不安があるといったイメージがつきものですが、保存技術の進歩や的確な管理により、数年経った米でも十分に美味しく食べられることが実証されたのです。

災害時の備えとしてはもちろんのこと、災害が起きなかったとしてもそれをフードロス防止や福祉活用へとつなげることで、社会全体の食料利用の在り方を見直すチャンスとなります。

日々の暮らしの中で、私たちが食べている一粒一粒の米にも、たくさんの努力と工夫が詰まっていることを今一度見直すきっかけとして、このニュースは非常に示唆に富んだ出来事だったと言えるでしょう。食料自給率や食の安全保障が叫ばれる時代、私たち一人ひとりが「食」に対する意識を少しずつ変えていくことが、次の未来への第一歩になるのかもしれません。