2023年、名古屋大学医学部附属病院(通称:名大病院)で起きた出来事が、医療の在り方や患者との信頼関係について改めて考えさせる大きな話題となりました。今回は、「名大病院で誤診 70代女性死亡」というニュースをもとに、医療現場での課題や私たちにできることを考察していきます。
■ 事件の概要
2023年、名古屋市にある名大病院で、70代の女性患者が病院の誤診によって適切な治療を受けられず、最終的に死亡したという事案が報道されました。病院側は原因を調査し、公式に誤診を認めています。報道によれば、女性は腹部の痛みなどを訴えて受診し、その際に「がん」の可能性を示唆する兆候があったにも関わらず、医師がそれを軽視し、誤って「良性の疾患」と診断してしまったとのことです。
その後、症状は悪化。しかし、再度受診した時点ではすでに病状が進行しており、手の施しようがない状態だったと報告されています。遺族は、もし初期段階で正確な診断が下されていれば、治療の可能性があったとして病院に説明と謝罪を求めています。病院側もこの間違いを重く受け止め、再発防止策を講じると発表しています。
■ 医療の最前線における「誤診」の重大さ
医療現場では日々、多くの命が救われています。しかし、それと同時に「誤診」というリスクも常につきまとうことを今回の出来事は示しています。誤診とは、医師が患者の病状を正確に把握できず、異なる疾患と診断することです。すべての医療従事者が最大限の努力をしていても、ヒューマンエラーや情報不足、チェック体制の不備などが原因で誤診が起こることがあります。
診断の精度を高めるには、高度なスキルと経験、多職種との連携、医療機器の正確な活用が求められます。また、患者との丁寧なコミュニケーションも欠かせません。患者の声に耳を傾け、自覚症状をしっかり聞き取ることが、正確な診断への第一歩となります。
■ 日本の医療制度と現場の課題
日本の医療制度は世界的にも高い水準にありますが、同時にいくつかの構造的な課題も抱えています。まず一つは、医師や看護師といった医療従事者の慢性的な人手不足です。診療時間が限られ、1人ひとりの患者に十分な診察時間を取ることが難しいケースが少なくありません。特に大病院では、外来の患者数が非常に多く、問診や診察が短時間で行われがちです。
また、専門医との連携不足や、病院内での情報共有体制にも改善の余地があります。今回のような症例でも、複数の医師の目を通すことで違った見方ができた可能性があります。医療チーム全体で一人の患者を支えるという考え方がより重視されるべきです。
■ 患者としてできることとは何か
医療のミスや誤診を完全になくすことは難しいかもしれませんが、患者側としてもできることがあります。たとえば、診察時に症状をできる限り具体的に伝えること、気になる点があれば遠慮なく質問することが大切です。「こんなことを聞いてもいいのだろうか」と思わず、安心して医師に相談できる環境をつくることが、誤診を防ぐ大きな助けとなります。
また、診断に納得がいかない場合はセカンドオピニオンを利用する権利もあります。日本でも徐々に普及してきているとはいえ、まだまだ遠慮する風潮があるかもしれません。しかし、他の専門医の意見を聞くことで新たな知見が得られたり、誤診が早期に発覚したりする可能性もあります。
さらに、日ごろから健康に気を配り、定期的な健康診断を受けることも大切です。早期発見・早期治療が治癒率を大きく左右することが多いため、生活習慣の見直しや予防医療にも目を向けることが医療事故を避ける一助となります。
■ 病院が取り組むべき再発防止策
名大病院はすでに「再発防止に向けた対策を講じる」とコメントしていますが、具体的にはどのような方策が考えられるでしょうか?
まず挙げられるのは、情報共有の徹底とチェック体制の強化です。診療時には電子カルテや画像診断などを使った情報の活用が進んでいますが、これらを用いて複数の医師が患者の状態を確認し合う仕組みが整っていれば、誤診のリスクは軽減されるでしょう。
次に、医師の継続的な教育とトレーニングの実施が不可欠です。専門性の高い分野ほど新しい知見が日々登場しており、それに対応するために定期的な研修が求められます。また、医療過誤の事例をオープンにし、共有する文化を育てることも重要です。過去の失敗から学び、同じ過ちを繰り返さないための仕組みづくりが患者の安心につながります。
医療機関内の「風通しの良さ」も大切です。上下関係に縛られず、スタッフ間で自由に意見を述べられる環境が、ミスの早期発見・是正に大きく寄与します。
■ 最後に — 命と向き合う医療の重み
今回の件は、患者と家族にとってかけがえのない命が失われたという、非常に重い出来事でした。一方で、大多数の医療従事者は日夜、患者のために懸命に働いており、我々の生活にとって医療は不可欠な存在です。
だからこそ、医療現場での信頼関係は何よりも大切にされるべきです。患者と医療者が対等な立場で心を通わせること、それぞれが責任と配慮を持って向き合うことが、より良い医療につながります。
名大病院での事案をきっかけに、今一度、医療の在り方や命を預かる重みについて社会全体で考えていくことが求められています。医療の質向上と信頼回復のために、病院、医師、患者、家族、そして社会全体が協力し、前向きな変化を作り出していくことが、尊い命を守るための第一歩となるでしょう。