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防災庁誘致を巡る攻防──地方自治体が挑む「災害に強い地域」への新たなステップ

2024年の日本において、災害対策のさらなる強化を目的とする組織、「防災庁(仮称)」の創設・設置が政府によって検討される中、その本部を自らの地域に誘致したいとする自治体の動きが活発になっています。報道によれば、北海道、宮城県、新潟県、愛知県など12道府県と政令指定都市などが防災庁の誘致に名乗りを上げているとされており、これは日本全体としての防災への意識の高まりと地方創生の視点が交錯する重要な出来事です。本記事では、防災庁が設けられる背景、誘致を希望する自治体の動向、そして我々にとってなぜこの問題が身近で重要なのかを考えていきます。

■ 防災庁創設の背景:複雑化する自然災害への対応力強化

日本は自然災害の多発国として知られています。地震、台風、大雨、土砂災害、津波など、毎年のように全国各地で自然災害が発生しており、多くの人命や生活基盤が失われる事例が後を絶ちません。これまでも内閣府の防災担当部局や各省庁の連携によって一定の対応はなされてきましたが、複雑化、広域化、多発化する災害に対して迅速かつ統一的に対応するための一元的な組織の必要性が叫ばれてきました。

このような背景から、日本政府は防災政策を専門に統括する新たな行政組織「防災庁」の創設を構想しています。構想によれば、防災庁は災害発生時の緊急対応はもちろん、平常時においても予防、防災教育、復興支援に関する一貫した方針の企画・立案を担うことになります。これはかつての「消防庁」や「国土交通省」の役割をある程度補完・整理しながら、防災における司令塔としての機能を果たすという期待があります。

■ なぜ防災庁の“本部誘致”に地方自治体が名乗り出るのか?

今回報道されたように、地方自治体が防災庁の本部を自分の地域に誘致しようとする動きが広がっています。北海道、宮城県、福井県、長野県、新潟県、愛知県、奈良県、鳥取県、岡山県、徳島県、長崎県、さらには政令市の静岡市、堺市などが名乗りを上げました。

誘致の動機は主に以下の3点に整理されます。

① 経済的な波及効果
防災庁の本部が設置されれば、中央省庁の地方分散が進むこととなり、周辺地域には関連施設や人員が配備されます。これにより、雇用や経済活動の活性化が期待され、地域振興に大きく寄与すると考えられています。

② 防災意識・防災体制の強化
多くの自治体が過去に大規模な自然災害を経験しており、「災害対応の拠点が近くにあればより迅速な対応が可能になる」との期待を抱いています。例えば東日本大震災の被災地である宮城県、近年の豪雨で甚大な被害を受けた長野県などは、実体験に基づいた訴えを行っており、今後の防災・減災の重要な拠点としての役割を果たしたいと考えています。

③ 地方創生との結びつき
政府が推進する「地方創生」政策の一環としても、中央省庁の機能を一部地方へ分散させる動きは加速しています。東京一極集中へのリスク軽減や、リモートワークなどの変化を背景に「国の機関を地方に置く」という選択肢は現実味を帯びており、防災庁の本部はその象徴的な存在となり得るのです。

■ 各自治体のアピールポイント

各地域はそれぞれ自らの強みを活かした誘致活動を展開しており、独自のアプローチを提示しています。

– 北海道は「災害対応能力の検証フィールドとして最適」とし、広大な土地と異なる気候条件が訓練やシミュレーションの対象として魅力的であると主張しています。
– 宮城県は東日本大震災の教訓を基に、「被災地からこそ防災の知見が集約される」とアピール。
– 愛知県は交通の利便性と地理的な中央性を兼ね備えており、それによって全国からのアクセスがしやすい点を前面に打ち出しています。
– 鳥取県や福井県のような地方都市は「過疎地域こそ防災庁の支援が必要」と訴え、安全で住みやすい防災先進地域づくりのモデルケースになることを目指しています。

■ 今後の展望

防災庁の創設そのものは極めて前向きな取り組みであり、昨今頻発する自然災害を前に、国家的な備えを強化するために必要不可欠な構造改革と言えます。今後、政府がどのような形で防災庁を創設するか、どこに本部を設置するかは今後の議論の焦点となります。

また地方自治体にとっては、誘致の成否だけでなく「いかに防災に対して備えを進めているか」が試される機会でもあります。誘致合戦を通じて、全国各地の自治体がより一層、災害に強いまちづくりを目指す契機となることが期待されます。

■ 私たちに何が求められているのか

このような国策レベルの動きがあった時、つい「遠い誰かの問題」として捉えがちですが、防災はすべての人に関わるテーマです。大規模な自然災害はいつどこで起きるかわかりません。防災庁のような機関による支援や制度の整備はもちろん大切ですが、それと同時に、私たち一人ひとりの意識や備えもまた、大きな力になり得ます。

避難経路を確認する、災害時の家族との連絡手段を話し合っておく、カセットコンロや非常食、水の備蓄を行っておく…そうした日々の小さな“できること”の積み重ねが、実際の災害時に大きな違いを生み出します。

防災庁創設の動きは、防災というテーマに対して改めて私たちが向き合うことを促してくれます。どこに設置されるかに関わらず、すべての地域の人々が「自分事」として防災を考え、備える。そんな備えが社会全体のレジリエンス(回復力)を高めてくれることでしょう。

今後の政府の方針と、各自治体の動きに注目しつつ、「災害に強い社会」を共に目指していきたいものです。