2024年版防衛白書に見るトランプ前政権の影響と今後の日本の安全保障政策
防衛省が2024年7月、防衛白書の最新版を公表しました。この白書の中で注目を集めているのが、アメリカのトランプ前政権が日本を含む同盟国に求めた防衛負担の増大に関する記述です。今回の防衛白書は、グローバルな安全保障環境が大きく変化する中、日本の安全保障政策の転機となる可能性を示しております。
この記事では、防衛白書が取り上げたトランプ前政権の影響を中心に、日本の防衛政策の変化、今後の課題についてわかりやすく解説します。
米国の同盟国に対する防衛負担増要請 ― トランプ政権の特徴
アメリカ合衆国のトランプ前大統領は2017年から2021年にかけての任期中、「アメリカ第一」のスローガンのもと、国内の経済と雇用を重視する姿勢を前面に打ち出しました。そのなかで、NATOをはじめとした同盟国に対して「防衛はアメリカ一国の負担ではない」という考えを強く主張し、日本や韓国、ドイツなど同盟関係にある国々に対し、防衛費の増額や駐留米軍経費の負担増を要求しました。
特に日本に対しては、在日米軍の駐留経費を現在の数倍規模で増額するべきだという強硬な主張が伝えられたこともあり、日本国内でも外交・防衛の市場に大きな波紋を呼びました。2024年版防衛白書では、この点に初めて明示的に触れています。
防衛白書が指摘した「トランプ政権の影響」
今回の白書はトランプ政権による防衛政策の影響を明確に記述し、「在任中に同盟に対して多くの再考を促した」ことを一つの転機として評価しています。これにより、日本は防衛政策に対する独自性の強化や、地政学的なリスクへの備えを推進する契機となったとされています。
白書では、「アメリカが将来的に再び内向きの姿勢となり、国際的責任から一時的にでも後退する可能性」にも言及し、その際の日本の対応として、自主的な安全保障体制の強化が不可欠であるとの見解を示しました。
これにより、日米同盟に頼るだけではなく、日本自身が「主体的に地域の安定に寄与する姿勢」が重視されるようになってきたことが読み取れます。
ウクライナ侵攻と中国の動向によるさらなる緊張
白書ではまた、ロシアによるウクライナ侵攻、そしてそれと並行する形でみられる中国の台湾への軍事的圧力の高まり、さらに北朝鮮の相次ぐミサイル発射を踏まえ、「日本を取り巻く安全保障環境は戦後最も厳しい」と表現されています。
これは単なる比喩ではなく、現実として日本周辺で武力による現状変更のリスクがかつてないほどに高まっているという認識を防衛省が公式に示したものです。そうした中で、日本としては単に「守られる立場」ではなく、地域の安定に「積極的に貢献する存在」としての変化を迫られているといえます。
防衛費の増加とその背景
日本政府はこれまでも年々防衛予算を増加させてきましたが、2023年度からの数年で、GDP比2％を目指すという方針が明確化されました。これは、北大西洋条約機構（NATO）の推奨基準とも合致しており、トランプ前政権下でも何度となく各国に求められていた水準です。
防衛白書はこの背景にある考えとして、「日本が自らの国を守る意思と能力を明示すること」が他国の侵略を未然に防ぐ抑止力となると述べています。つまり、防衛能力の向上は単なる軍事力の増強ではなく、戦争を起こさせないための現実的な手段と位置付けられているのです。
国民の不安とともに、自衛隊の役割にも変化
近年の災害発生時における自衛隊の活躍や、新型コロナウイルス感染症への対応などを通じて、自衛隊に対する国民の信頼は高まっています。しかし一方で、防衛費の急展開的な増加や、その具体的な使途、さらには自衛隊の任務範囲の拡大に対しては慎重な意見も根強いのが現状です。
防衛白書でも、こうした国民の声に応える形で防衛政策の透明性確保や、広報・対話の強化を打ち出しています。国民に対してなぜ防衛が必要なのか、自衛隊はどのような役割を担っているのかを丁寧に説明し続けることが、今後の日本の防衛政策にとって不可欠になります。
今後求められる「多層的な安全保障」
白書全体を通じて感じられるメッセージは、「単一の手段では平和は守れない」というものです。防衛力強化はもちろん重要ですが、それと同時に外交努力、多国間協力、経済安全保障などの多角的アプローチと組み合わせて、複層的な安全保障体制を築く必要性が強調されています。
たとえばサイバーセキュリティ、とくに国家を対象としたサイバー攻撃への備えも現代の防衛の一部です。宇宙開発や技術革新の加速とともに、新たな脅威への対処能力も問われる時代となっており、防衛白書ではその点にも焦点が当てられました。
トランプ前政権の教訓と向き合う日本の未来
トランプ前大統領の政策は、同盟関係に甘えるのではなく、自らの国をどう守るか、世界の中でどのような役割を果たすかを改めて日本に問いかけました。
もちろん日本は戦後一貫して平和国家としてのスタンスを保ち続けており、その歩みは今後も変わらないでしょう。しかし、国際情勢が大きく揺れる中で、同盟に頼るだけでは足りない局面もあることを、私たちは現実として受け止める必要があります。
今回の白書は、そのような時代の中で、日本が自ら何を選択し、いかに将来に備えるべきかを示す道標ともいえるものです。防衛というと遠い話のように感じるかもしれませんが、私たち一人一人の安全と暮らしに直結する重要なテーマです。
これを機に、多くの人が防衛白書や日本の安全保障政策に関心を持ち、現実と向き合いながら考えるきっかけとなることを願っています。
