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理不尽な事故から見える現実──無保険車の危険と自動車保険の本当の意味

交通社会で生活している私たちにとって、自動車保険の重要性は言うまでもありません。もし万が一の事故が起こった際、保険に加入していれば、被害者も加害者も一定の補償を受けることができ、双方にとって経済的・精神的なダメージが軽減されます。しかし、現実には自動車保険に入っていない「無保険車」が走行しているケースも少なからず存在し、これが重大な社会問題につながっています。

2024年5月、神奈川県内で発生した交通事故が注目を集めています。この事故で被害に遭った女性は、無保険車に衝突されて大けがを負い、現在も治療を続けているにもかかわらず、十分な補償を受けられないという状況に置かれています。「理不尽」と語る彼女の言葉からは、事故の痛みだけではなく、制度の現状に対する深い失望や苦しみが読み取れます。

この事故を通じて浮き彫りになったのは、「自動車保険の未加入者」が引き起こす問題です。そして、それによって最も苦しんでいるのが、何の過失もない「被害者」であるという点です。

■無保険車が招いた過酷な現実

事故の被害者となった30代の女性は、片側一車線の道路を自転車で走行中に、後方から来た車に突っ込まれました。この車はスピードを出しながら自転車に接近し、女性をはね飛ばしました。その衝撃は非常に大きく、女性は肋骨に何ヵ所もの骨折、頭部・顔面などにも大きなけがを負いました。全治数か月と診断され、日常生活に大きな支障が出る状態となっています。

加害者は70代の高齢男性で、運転中に車線を誤って自転車側に侵入していたことがわかっています。事故後の調査で、加害者の車が「任意保険」に加入していなかったことが判明しました。これは極めて深刻な問題です。任意保険がない場合、事故の補償は加害者の自己負担に依存することになり、結果として被害者が十分な補償を受けられないという事態が起こり得るのです。

■任意保険と自賠責保険の違い

日本ではすべての車両に対して「自賠責保険」への加入が義務づけられています。ただしこれはあくまで「対人賠償」に限定されており、補償額は120万円という上限があります。これは入院費や治療費など最小限の医療費を補うためのもので、後遺症が残った場合や多額の損害が発生した場合には全く足りないのが現実です。

一方、「任意保険」はその名のとおり加入が強制されていない保険で、対人・対物賠償から自身の被害、さらには弁護士費用やロードサービス等までをカバーできるものです。万一の場合に備えて多くのドライバーがこの任意保険に加入している中、残念ながら、今もなお一定数のドライバーがこの保険に未加入のまま運転しています。

■なぜ無保険車が存在し続けるのか

無保険車の存在は日本だけの問題ではありませんが、日本国内での未加入者の実態も看過できません。公益財団法人「自動車安全運転センター」のデータによると、2022年度時点で任意保険の加入率は約76%。逆に言えば、約24%の車両が無保険状態であるということになります。

その理由にはさまざまな背景があると考えられます。経済的理由で保険料を払えない、あるいは事故のリスクを軽く見て自己責任と考える。加えて、高齢ドライバーの中には任意保険の重要性を十分に理解していなかったり、「今まで事故を起こしたことがない」という過信から保険未加入に陥るケースもあるようです。

しかし、これらいずれの理由も、被害者にとっては全く関係のない話です。一瞬で人生が変わってしまう交通事故の現場では、「保険に入っていないから」という理由で補償が受けられないことは、決して容認されるべきではありません。

■被害者が置かれる厳しい現実

今回の事故で大けがをした女性は、事故直後こそ加害者の誠意ある対応を期待していましたが、実際には期待とは異なる現実が待っていました。加害者からは「保険に入っていないので、すぐに全額を払うのは難しい」という返答があり、治療費の立替や収入の減少分の補填などは本人にすべてのしかかっています。

また、法的手続きを通じて損害賠償を求めるには、時間も費用もかかります。被害者は事故のショックの中で治療と生活の両立をこなしながら、さらに法律的な手続きにも対応しなければならないという二重、三重の負担を背負うことになるのです。

■私たちにできること

本記事を読んで「他人事ではない」と感じた方も多いことでしょう。実際、無保険車との事故は誰にでも起こりうるリスクです。では、私たち一人ひとりに何ができるのでしょうか。

まずは、自分自身が任意保険にしっかりと加入しているか、定期的に見直すことが大切です。また、より幅広い補償が可能な「弁護士特約」や「無保険車傷害保険」などがついているプランを選ぶことで、自らの安全をより確実に守ることができます。

次に、身の回りの人にも任意保険の重要性を伝えることも有益です。特に高齢の家族や、初めて車を持つ若年層には、事故のリスクや補償の必要性について話し合う機会を持ちましょう。

そして、制度の見直しも必要です。例えば、任意保険への加入を促すためのインセンティブ施策や、未加入車への取締り強化、保険制度の公的補償の拡充など、国や自治体レベルで取り組むべき課題も多くあります。

■さいごに

交通事故は、誰にとっても避けたい出来事です。しかし、だからこそ、起こってしまったときにいかに被害を最小限に食い止めるかが重要です。

今回の「無保険車による事故」は、単なる交通ニュースにとどまらず、現代社会の制度のほころびを指し示すものとなりました。被害者が「理不尽」と感じないような社会を作るためには、一人一人の意識の変化と、制度的なサポートの両立が必要不可欠です。

あらためて、自動車保険の意義を見つめ直し、安心して暮らせる交通社会の構築に向けて、私たちにできる一歩から始めていきましょう。